ラムネ随想 シロクマ文芸部
ラムネ随想 【379字】
ラムネの音がかき消える。カラカランと下駄を鳴らしてお祭りに繰り出したお嬢さんの紅の和傘の縁から出てこない。
雨は止むことを忘れたように、耽るように降っている。これが常態かもしれぬ。
出かける誘惑を思い留まった。降り積む雨に私は溺れる。足掻く私を暗澹の鬱の蔓延る雨に埋める。
そうなんだ。孤独は私の友だちだ。もう墨染めのヌクレオチドにシンクロするほどに長い。
きっと誰よりも。
きっと陽(よう)は丘の上しか残るまい。丘の頂上で明るい御旗を振ればよい。腕を組んで歌えばよい。
私の世界は星間ほどに広大で、観測限界の向こうまで深い。天の川とアンドロメダを行き交う定期便ほどに私の愛する退屈がある。
目を閉じて寝てゐたまえ、と神は言う。
私の神は因果を模倣する。神は私の魂がほしいのだ。焼いて食したいのだ。
雨は音を吸い尽くす。すべてを無に帰する。所詮、私の住むマリアナ海溝の淵には届くまい。
了
小牧部長さま
よろしくお願いいたします。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?