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チョークの効用 毎週ショートショートnote

宮坂教授の研究室は混沌を極めていた。そこはむしろ倉庫と呼ぶのがしっくりくる。そのせいもあってか、私以外にここを訪れる者は極めて少ない。
そんな中にあっても教授はギシギシと鳴る椅子に腰を据え、鉛ガラスで歪んだ中庭を眺めながらダージリンを飲む。そのお陰で匂いだけは倉庫とならずにいた。

ダンボールと書籍に囲まれた半間0,9mほどの隙間に黒板が鎮座する。それを覗くと部屋の煩雑さにも似た文字とも数式ともつかぬチョークの筆跡が乱雑に並んでいた。
教授は窓の景色に飽きるとそこに目を向ける。教授の半開きの口はティーカップを迎え入れようとしていた。
おもむろに立ち上がった教授は右手でチョークの跡を消し、そこに何やらしたためた。これが後にフィールズ賞を取る事となる最初のひらめきだった。ただその時チョークの粉がカップに入った事を教授は知る由もない。

それ以来、この研究室を訪れる者は決まって数学ダージリンを所望する。私はそこに少しだけチョークの粉を振りかけるのだ。
410字

たらはかに さま
今週もよろしくお願いいたします。


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