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球磨川リバイバルトレイルを初の100マイルに選んだら荒波に揉まれつつも完走できました。

トレイルランナーの憧れを知っているだろうか。そう、100マイルレースである。かくいう自分は去年初めてレースに出たレベルのキャリアなので、100マイルってなに?くらいの思いしかなかったし、自分が走る事になるとも思ってなかったわけですが、この度エントリーして完走をもぎとってきました。道中色々ありました。というわけで早速書いていきましょう。


気になる練習量は?

僕はまだまだひよっこランナーなんですが、それでもこれくらいは走ってました。という目安になれば。9月、10月の2ヶ月間は月間300km、累積10000mを目安に走っていました。どちらも達成できたけど、時間さえあればもっと積んでおきたかったのが正直なところ。ただ、9月は80kmの4000mアップ、10月は27kmの2700mアップと、ある程度まとまった練習も混ぜ込んでいたのでそこまで気にしないことにしました。というのも、7月に出た65kmのレースでの成績も悪くはなかったので、ある程度割り切れたというのもあります。

作戦名は、いのちだいじに

今回はレースに関して作戦はただ1つ。「いのちだいじに」。このままではただのドラクエでしかないので翻訳すると、「突っ込むな」です。僕はレースが始まると気持ちが高まって、分かっていても突っ込んでしまう癖がある(タチが悪いことに分かっていても突っ込む)ので、今回は絶対に突っ込まない。「突っ込み、ダメ、ゼッタイ」くらいの気持ちでスタートしました。心拍も見つつ、一定のペースで走り続けようというのが今回の唯一の作戦。

このレースの全てを決めたA2までの出来事

そしてレース当日、いよいよかと待ち望んだ時が近づいてきます。スタートしてからA1くらいまでは順調に進む。レース前はかなり足を休ませたし当然と言えば当然。

レース前の雰囲気。ダブルピース。

徐々に忍び寄ってくるトラブル

しかし、A1を出た後から少しずつ体調に変化が起こり始める。もちろん悪い方に。
コースはというと、A1からA2の区間は距離にして約20km、そして1000mアップなので、まぁアップダウンはあるにしろこんなものよね、という感じの行程。そしてA2までの総距離は、42kmの累積2500mくらいのコース感。

アップダウンやコース感はこんな感じ。
そしてA1の直後に設置されているW2。これが曲者だった。

序盤から割と忙しなくアップダウンを繰り返すものの、まだ足はフレッシュだし、体も元気。なのに、何故か力が出なくなっているのに薄々気づき始める。登りが多いせいで一時的に疲れが溜まってきてるせいだと思って気づかぬふり、というか完全に勘違いをしたまま先を急いでしまう。さらに致命的なのはW2を目視して、給水できる事を認識していたにも関わらず、それをW2だと思わずに補給しなかった事。小規模だったこともあり、スタッフの方も多くなかったので、完全に私設エイドだと勘違い。その先にW2が出てくるからそこで補給しよう、と思ってスルーしてしまいました。(その先にW2はないのにあると思い込んでる)何よりA1を通過してから出てくるまでが早過ぎたので疑いもしなかった。まだ水もかなり残っていたし。

体は動くのに足が前に出ない

A2を目指す途中から完全に体から力が抜けていき、気づけば少し進むたびに座り込んで休憩するようになってしまう。まさかハンガーノック??前日の夕飯はかなりしっかり食べたし、朝はおにぎりも2つ食べた。なんならスタートと同時に行動食も食べ始めた。なのでエネルギー切れを起こすのは考えづらいのに力が出ない。気づけば後続の選手に次々と抜かれていき、聞いた話によるとこの時顔面蒼白だったらしい。正直かなり辛かった。

諦めずにA2を目指す

こんな事態になった事がないため、動揺と混乱を隠しきれず、原因を特定しようにもできない。ただ、体が動かないのはまずい、と思いつつも何とか超ノロノロペースでようやく高塚山を登り切り、やっとA2までは下りだけで進めるようになり少し気持ちが楽になる。下りは好きなこともあり、精神的にもかなり楽に走れた。しかし依然ペースは上がらず。

そして復活へ

なんとかかんとかA2に着くとたくさんの人で賑わっていた。それを見てホッとしたのか気持ちが上向きになり、すぐに座る場所を確保しておでんとジビエバーガーをもらってくる。同時にコーラもチャージ。ここまで耐えた分食べたいものは食べさせてもらう、と食いしん坊魂を爆発させ、次から次へと食べ物を胃に流し込む。コーラも次々に流し込む。そしてひとしきり食べたら少し長めに休憩して、写真を撮ったりスマホをチェックしたりしてリラックスして過ごした。
すると体に力が入る感覚が戻ってきて、また走り出せそう、と思ったため長い休憩を終えて再スタート。恐る恐るコースに戻ったけど、それからはいつも通りの走りに戻り、今まで抜かれた分を順調に巻き返し、W3そしてA3へと進むことができた。

A2高塚山登山口の紅葉。ガスが上からかぶさる。
まるで自分の気持ちのようだった。

不幸中の幸い

なにが原因でこんな事になったのかは正直自分でも分からない。初めてのトラブルだったし、これといって思いつく原因がない。強いていうならハンガーノックだったのか。でも体自体は動いていたので可能性としてはどうなんだろう。という感じ。
ただ、今回の件は初めてのマイルレース、待ち侘びたマイルレース、今年最後のレース、など自分の中でも色々と思うものがあり、何でこんな時に限ってこんな事が起こるのか、という不運を嘆くに近いものがあった。加えて、自分がこんな所でへばるわけがない、という自信をへし折られるような展開になりつつあることも辛く、このままこの調子が続いたらどうしよう、と弱気になる一方でした。この時点で自分が思い描いていたレース展開からは外れてしまい、軌道修正することを最優先とせざるをえなくなりました。辛い。なんと辛い。ただ、楽しみにしていたレースをこんなところで潰したくはない、とその一心で、遅くてもいいから先に進み続けるのを諦めませんでした。その結果復活でき、被害は何とか最小限に留められたかなと自分では思っています。

復活後無事にA3に着き、蒸しパンを食べる。
しっかりコーラも確保。

これがA3以降だったら

A3以降だったらどうだったでしょう。もっと簡単に心がポキっといってたかもしれないなと思います。夜を迎え、激登りの壁を相手にし、長いエイド区間を走り、その後はコース最大の難所とも言われる白岩山への登りも控えている。そして進めば進むほど体力は奪われ、足も弱っていき、考える力も衰えていく。そして1番の天敵、眠気の存在もある。そんなタイミングで今回のトラブルに見舞われていたらもっと簡単にDNFを選択してしまうかもしれない。そう考えるとA2までのまだフレッシュな区間で発現してくれてホントに良かったな、というのを後になって思いました。だからこそ諦めずに前に進めたし、弱気な心も跳ね返せたし、自分を信じて粘る事ができました。結局原因は分からないけど、answer4の小原さんがポッドキャストで話していた血糖値スパイクと症状が似てるので、この際血糖値スパイクだった、と自分を納得させています。

最後までみんなでワチャワチャと

復活した後はW3を目指し、いつも通りの走り。少しセーブしてたかも、くらいなもんです。でも、前を走ってたランナーを抜かすたびに、「あいつさっきまで死にかけてなかった???」みたいな感じになるのは少し面白かったです。大変お騒がせしました。もう大丈夫です。
A3ではドロップバッグを受け取りゆっくり休憩、直後の激登りではベンさんとヒロシゲさんを引っ張れる程に回復。W4、A4と順調に進んでいき、途中からは6人程のパックになりワイワイと楽しみながら、そして1番の難所と言われるW5以降の登りも朝日を迎えながら無事攻略。この辺りから足の裏の痛みと股ズレがヒドくなってきてスピードが出せなくなってくる。やっぱり股ズレは辛いですね。(後から知ったけどインナー付きのランパンはロングレースではやめておいたほうがいいらしい。擦れやすいみたい。)

A4での生存確認自撮り

ついに最後のエイドを越えて高岳へ

ついにA6へと着く頃、足の裏の痛みはピークを迎えているものの、体はまだまだ元気。食欲も旺盛。
時刻は16:00少し前。いよいよ最後のエイドを後にして残り2つの山を越えに行く。補給は十分、美味しい食べ物もバッチリ食べた。後はひたすらゴールを目指すだけ。フィニッシュまでは残り16km。

ゴールは目の前

正直ここまで来た時に少し泣きそうになっていた自分がいる。不覚。序盤で想定外のトラブルに見舞われて、一時は本当にDNFかも、このまま復活しなかったらどうしよう、と不安で仕方なかった時間帯を乗り越え、諦めずにここまでこれた事に心底安心したのと、自分を信じて進み続けてよかったとゴールまでの道のりに思いを馳せながらそう噛み締めていました。阿蘇ボルケーノトレイルを走ってエントリー権をゲットしてからはや半年。そして初の100マイルチャレンジ。長かった旅の終わりがようやく見えてきた瞬間でした。

最後の2つの山はもはや敵ではない

図らずも足裏の痛みと股ズレでペースを上げられずここまで来たので足はかなり残っている状態。トレイルの登りも大した負荷には感じないのでノンストップでGo。もはや散歩。高岳の登りはさすがに最後の最後でネチネチしたいやらしい勾配だと思ったけどこっちもノンストップで攻略。なんなら気合いを入れつつ叫びながら登った。

長い旅の終わりに

八代の街の明かりが見える。それは実に39時間ぶりに見たいつもの暮らしの明かりでした。水上村をスタートして160km超。球磨川の流域を自分の足で移動しながら、それぞれの地域の様子をこの目で見ながらようやくここまで辿り着いた。やけにホッとする一方で、半年に渡る長かったこの旅もついに終わりを迎えると思うと感慨深い気持ちに。そして、同時にもうこれ以上登らなくていい、という安堵の気持ちも溢れてきました。もういいよ、これ以上はもういいから、と少し写真を撮って、一緒に最後の山頂を踏んだベンさんと下山開始。それはそれはのんびりなペースだったはずだけど、登りを頑張りきった自分たちにとっては十分なペースで、あとはゴールに着くまで足を止めずに前に進むだけ。

高岳から見下ろす八代の街

ラストのロードはキロ10分出てるか怪しいレベルの超スローペースで、むしろ歩いた方が速いのでは?というスピードでベンさんを待たせてしまったと思うけど、最後の最後までベンさんが付き合ってくれたのがとても嬉しかった。ボルケーノの時も最後の最後で足を痛めて走れなくなったのを待ってくれた仲間がいて、そのことがフラッシュバックして涙腺が崩壊しそうになった。

ゴール、そして

足裏の痛みと股ズレと最後まで戦いながらついにこの瞬間が。最後は何故か足の痛みが消え、キロ6分くらいまでは復活したような。
ゴールテープの直前ではベンさんが「初の100マイル完走!!」とみんなに宣伝してくれて、森本さんはじめ色んな人が大声援で迎えてくれた。感動の瞬間。最後は走るのをやめて、歩いてゴールテープを切る。ついにこの瞬間がきた。39時間50分。ようやく初めての100マイル挑戦が幕を閉じた。無事完走。

疲れてて顔がグチャグチャ。
そしてゼッケンの番号が上下逆なのにお気づきだろうか。

終わってみて

筋肉痛でギシギシの足をかばいながらスパイシーなカレーとコーラを胃袋に流し込みつつ、不思議なことにあまり100マイルを走った実感がないことに気づく。正しくは実感も達成感もあるけど、思ってたほどの見返りなのかが自分でも分からない。時間が経ったら変わるんだろうか。
でも、はっきりと感じることがあって、今回のレースを通じて僕は更にトレイルランニングが好きになってしまった、ということ。100マイル走れて無事にマイラーになったこと、それはそれでよし。ただ、だからと言って自分の中で一区切りして熱が冷めるみたいなことはなく、だからと言って更に燃え上がるようなこともなく、ただただトレイルランニングの良さを反芻する思いだけが残りました。きっとこれからもまだまだ山を走り続けるんだろう。これがトレイルランニングに出会ってしまった代償だね。嬉しい誤算だと思うことにしよう、とコーラを飲み干した。

最後に、今大会の運営のみなさん、関係者のみなさん。一緒に練習してくれたみんな、レース中に関わってくれたみなさん、宿のみなさん、地域のみなさん、本当にありがとうございました。
そして、3日間も家を空けるのを許してくれた家族には頭があがりません!本当にありがとう。

とてもいいレースでした!最高に楽しかったです!

最後の高岳を登りきって汗だく

次回予告

夏に失敗したARATSU100のリベンジ。(悪天の場合は中止)やるぜ。

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