「怖い体験 不思議な体験を百円で買います」~生きている人とかつて生きていた人のためのナラティブセラピー・怪談売買所に行ってきた~
怪談作家で怪談売買所店主の宇津呂鹿太郎さんに会いに行ってきました。
尼崎の三和市場で10年前からお店を開いておられますが、今回は出前先の園田学園女子大学の学祭で。
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怪談売買所で扱っているのは、自身が実際に体験した話のみ。
小さな机を挟んで向き合い、お客さんが語るお話をレコーダーに録音をし、宇津呂さんが100円を支払います。
一方で、怖い話を売る場合は「妖怪系」「学校の怪談系」などお客さんの好みに応じて1話100円で怪談を語るというシステム。
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私の前で語っていたのは子連れの女性。子供たちは大人が真剣に話を聞いてくれるのがうれしいようで、のびのびと話しています。次はお母さん。お話があちこち飛んで正直、私にはよくわからなかったのですが、宇津呂さんはずっと興味深く聞いている。
お母さんはニコニコ満足げに帰っていかれました。
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私の順番になり「私は特に幽霊など怖い経験をしたことがないので、怪談を聞かせていただきたいのですが」と切り出したのですが、宇津呂さんと話しているうちにいつの間にか自分の話に。
「怖かったこと…私は生きることが、この世界がずっと怖かったです」というと、ずいっと身を乗り出して「もう少し聞かせていただけますか」とおっしゃる。
ひとしきり語ったあと、宇津呂さんが「ありがとうございます、今のお話、買わせていただきます」と言って、100円玉を目の前においてくださったとき、何とも言えない、ただ話を聞いてもらった以上の「受け取られた感」に包まれて、私は涙ぐんでしまったのです。
こんなにうれしく、安心し、すっきりできるものか、と前のお母さんの笑顔が分かった気がしました。
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そして宇津呂さんのお話を聞かせていただく番に。
「どんなお話がいいですか?」と尋ねられたので「…やむにやまれない感じのを…」とリクエストすると、少し考えられて「長くなりますが…これは私が実際に聞かせてもらったお話です」と語ってくださいました。
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このお話が本当にすばらしくて、私は涙が止まりませんでした。(知りたい人は昼スナに来てね)
幽霊ももともとは生きていた人間で、いま生きている人たちが、亡くなった人たちと自分とのつながりに思いをはせる、怪談はどちらにとってもナラティブによる癒しの行為であるのだ、と。
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怪談を「聞く」だけではなく、お客さんが「語る」主体的な行為にしているのが、怪談売買所の特異なところ。
どんな奇妙な出来事でも、その人が体験した人生の一部に違いない。だから聞いてほしいけれど、伝えることをはばかられる、心に引っかかり続ける。ここは、そんな人の思いが解放され、取り戻される場所になっているのだと感じました。
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宇津呂さん、なんというすごい事をなさっているのだろう!
いわく、怪談話は、戦争や自然災害などの厄災の影響が色濃く映す。「背景となった戦争や災害などを後世に伝えること」に繋がるとおっしゃり、民俗学的にもとても意義深いお取組みだと心から感激しました。NPO法人として活動されているのにも納得。
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人生で会うべき人がいるとしたら、それは宇津呂鹿太郎さんです。
本当に、誰もが一度聞いてもらってほしい。
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コロナ以降、ブームになっている怪談。
いまやメディアで大活躍の宇津呂さんですが、九州にお仕事でいらしてくださる際には、昼スナで怪談売買所を開いてくださることになりました。めちゃめちゃ楽しみ!
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