料理を始めた頃、長葱一本買うのに勇気が要った。
納豆や味噌汁、奴の薬味に葱は欠かせないけれど、使うのはほんのひとつまみ。とても一本を使い切る自信がなくて、いつも刻んであるパックものに手を伸ばしていた。
薄く、きれいに揃った小口切りは見た目は最高。なのだが、ルックスに反してこれがおいしくないのである。氷水に放してシャキッとさせてもダメ。香味野菜好きのボクにとっては「ならではの香り」自体も物足りない。葱らしい葱を食べるには、一本買いしかないか。無駄にしてしまうことを覚悟してレジに差し出したが、できることならおいしく食べきりたい…そんな気持ちで「葱」をキーワードにレシピサイトを漁ると、先達たちのヒントがあふれていた。
たとえば、【葱塩だれ】。小口切りに胡麻油(『太白胡麻油』推奨)をまぶし、中華だしの素(『創味シャンタン』推奨)とブラックペッパーを混ぜ合わせるだけ。奴によし、鶏肉や魚を焼いてこのタレを添えてよし、蕎麦に合わせて「まぜ蕎麦」風に仕立てても◎。1本ペロリである。葱が油のベールを纏うことで瑞々しさがコーティングされ、密閉容器&冷蔵保存で三〜四日は余裕で保つのも独り暮らしには嬉しい。
小口切りは不細工でも構わない。
とにかく一本、丸のママからから刻むこと。できれば買ってきたその日に刻むこと。新鮮なネギの風味を存分に味わえること請け合いだ。
一本買いに躊躇がなくなると、太くて見るからにおいしそうな「深谷葱」(埼玉)や「やわ肌葱」(新潟)などのブランド葱や、二本三本のまとめ売りにも手を出すようになった。一本は件の【葱塩だれ】に、もう1本は、肉豆腐の脇役や照り焼きの付け合わせにと、使い途の知恵もだんだんと付いてくるのが自分でも愉しみになった。
小口切り、千切り、斜め切り…切り方ひとつで味わいが変わり、それぞれに合う料理があることもわかってきた。肉味噌には白髪葱がしっくりくるし、きっちり火を通す鍋ものやすき焼きには思い切って大胆に、厚めに切る方がおいしい、ということも体得した。同じ葱でも、細い青ネギは博多ラーメンには良いけれど、奴や納豆にはしっくりこないことも判ったし、スプーン一杯でも葱のみじん切りを入れることで炒飯の味が「グンと炒飯っぽくなる」ことも発見した。
使い切れない、と恐れていた葱一本。でも、使い勝手は幅広く、その気になればアッという間に胃袋に収まってしまうし、「なければ寂しい」野菜であることもよくわかった。最近では切らしてしまうことの方が心配で、特段、メニューに使うあてがなくても週に一度の買い出しのときはバスケットに入れるのが癖になっている。
食べたいな、好きだな、と思う食材は思い切って丸のまま買う。
自分の抽斗にない食べ方を調べる。買ったことがない調味料にも手を出してみる。やる気や向上心があれば「知恵は後から付いてくる」というが、それは料理にこそ当てはまる。料理が愉しく、面白くなるのはこういうところからのような気がしている。
<葱塩だれ レシピ>
「レシピ」というのがおこがましいような内容…でありながら、用途は万能!
【材料】
長葱: 1本
創味シャンタン(または中華スープのもと):小さじ1
太白胡麻油(または普通の胡麻油): 大さじ1
ブラックペッパー 少々
【つくりかた】
1)長葱を小口切りにする。
2)ボウルに「創味シャンタン」と「太白胡麻油」を入れてよく混ぜ合わせます。
3)2)に1)を入れ、葱全体に味が馴染むようによく混ぜ合わせます
4)ブラックペッパーを軽く振って完成
【葱塩だれ お薦めメニュー】
○豚バラ葱塩
一口大に切った豚バラに軽く塩こしょうをし、フライパンでカリッとするまでよく焼いて葱塩だれをあしらって完成。お弁当にもGood。同様の要領で、鰤、鶏モモなどでも。
○葱塩まぜそば
そばを茹で、水で締める。よく水を切って器に盛り、葱塩だれで和え、揚げ玉を散らして完成。
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◎本稿は朝日新聞webメディア DANRO掲載原稿をリライトしています◎