【弁理士試験】#002 弁理士試験で問われていること
#001では、弁理士試験の要は短答であるものの、短答合格のためには論文の勉強をすることが重要であるというお話をしました。
本日は論文式試験とは何が問われている試験なのか、その本質をお伝えします。
「青本を勉強しましょう」は意味がない
「青本」の熟読・暗記は意味がないのでやめましょう
よく論文式試験の勉強として、「青本を勉強しましょう」と言われます。
僕も受験生のとき色々な人から言われました。
そもそも「青本」の勉強ってなんでしょうか?
読めってこと?覚えろってこと?
しかし、合格した今になって思うのです。「何言ってんの?」って。
インプットの勉強として、いきなり青本を読む必要もなれければ、覚える必要もないと断言できます。
では「青本」とはなんでしょうか?
僕の意見として、青本とは、アウトプットの答え合わせで参照する一つの重要な資料という位置付けにあると考えています。
アウトプット、つまり、論文式試験の答案作成では、数学等の自然科学と違い明確な一つの解答はありません。あるのは解答例だけです。したがって、100人いれば、100とおりの解答があり、その全てが正解となり得ます。
勘違いされている方も多いですが、条文の趣旨を論ぜよという出題であっても、一つの絶対的な正解があるわけではありません。
つまり、青本の記載をそっくり覚えて、そっくり書いても、それが絶対的な正解とはならないのです。
したがって、青本を覚えなければ合格できないと思う必要は全くありません。
(また現実的にも、青本をいきなり読んですべてを理解すること、そして、この膨大の量を覚えることなんて、常人にはまずできないでしょう。後述するとおり、弁理士試験は「青本」の試験ではないので、そんな勉強にそもそも意味はありません。)
アウトプットで参照する以上、青本に記載されている内容を答案に落とし込んで論述するという側面があることは否定できません。このことから「青本を勉強しましょう。」というアドバイスが世にはびこっているのだと思います。
しかし、このアドバイスは、弁理士試験は「青本」の試験であり、つまり、青本を勉強すれば論文式試験に合格できるという大きなミスリーディングにつながると考えています。
弁理士試験は「青本」の試験ではない
「青本を勉強する」と聞けば、全ては青本を中心に回っており、論文式試験とは青本の内容について質問され、青本の内容を回答する試験であるかのような誤解が生じます。しかし、そんなわけがありません。青本の内容を回答できれば良いのであれば、弁理士の仕事は青本を片手に持てば誰でもできることになりかねません。
論文式試験は何について質問され、何について答える試験でしょうか?
条文?違います。論文試験では条文は貸与され、いつでも見ることができます。
この点、僕は、具体的な事案に対する知的財産権法の適用について問われる試験だと考えています。
弁理士試験に合格した後に社会から求められる能力は、具体的な事案に対して知的財産権法を適用し、事件を解決することです。論文式試験は、まさにこの能力があるか測られています。なのでほとんどが事例問題ですよね(一部制度趣旨が正面から聞かれる問題もありますが、これは追って触れます。)。
つまり、論文式試験に合格するための勉強は、この能力を鍛える必要があります。そこで青本の記載を思い出してみてください。具体的な事案なんて全く載っていないでしょ?つまり青本の勉強に終始していては、具体的な事案の処理という能力が身に付くはずがなく、弁理士試験で求められていることとは、ずれてたことに精を出していることになってしまいます。
だからこそアウトプットが全て!
具体的な事案に対する知的財産権法の適用を勉強するには、弁理士試験の過去問を解くこと、つまり、アウトプットをするしかありません。
アウトプットをしていく中で、適用しようとしている法律の解釈が間違っていないか、その確認をする参考資料として青本の該当箇所を読み、読んだことを忘れなければいいだけです。(僕みたいに記憶力がない人は、読んだところは復習しましょう。)
このような勉強法では、最終的には、青本の知識は虫食い状態になるでしょう。読んだことある部分もあれば、全く読んだことない部分もある。これは悪い状態ではなく、むしろ、青本の記載が強弱を付けてインプットされているという理想的な状態といえるのではないでしょうか。
アウトプットこそが受験最大のハードル
「青本を勉強しろ」と言われたら、楽でいいですよね。だって答えがそこに記載されていて、やるべきことは明確だから。
残念ながらそうではなく、しつこいですが、アウトプットが全てです。
しかし、これは決して楽ではありません。アウトプットをしても、手元に残るのは、素人が書いた答案だけです。アウトプットでは、上述したとおり、答えがない以上、その答案が正解なのか、どこを改善すればよいか等、自分で考える必要があります。
ここまでしてはじめてアウトプットの勉強です。
自分の答えを自分で吟味するこの過程、正解が見えない中をもがくキツイ作業です。自然科学の科目では、このような科目はないため、理工系出身の方ははじめての学習方法になるのではないでしょうか。
(大学の研究も同じ側面はあるものの教授や学生のチームで行うため、自己完結を求められる弁理士試験は一層やりにくいと思います。)
そして僕はこれが弁理士試験の勉強を諦めてしまう人が多い理由ではないかと考えています。
僕が受験生のときも、自分一人でこれができず、何度も挫折しかけました。最終的には、ゼミ形式の予備校で、先生や他の塾生とのディスカッションを通じて吟味することができました。
しかし今は、弁理士試験はマーケットも小さく、コロナを経て、他人とディスカッションができるゼミ形式の予備校に通うことのハードルがあがっているように感じています。
なので、できる限り自己完結をする手助けになればと願い、次回以降のこのnoteでは、具体的な過去問をベースに、合格者は試験問題をどう読み、どう考え、どう書くか、その一例をお見せすることで、みなさんが自分の答えを自分で吟味するきっかけになればいいと考えています。