小説書きを夢見てきたオタクが、31歳にして初めて小説を書き上げた話
僕は、読書が好きな子供だった。
小学校高学年になった頃、様々な本を読んでいるうちに「自分で物語を作りたい」と思うようになり、ちょうど『ブギーポップシリーズ』『灼眼のシャナ』『イリヤの空、UFOの夏』などを筆頭にした作品群によるライトノベルブームのさなかであった中学生の時には、それらの名作に感化され、無謀にも「僕はラノベ作家になって生計を立てるんだ!」と思ったりもしていた。
そんな無謀な夢を抱いた中学時代から18年。「ラノベ作家」という夢はとっくの昔に捨てたものの、僕の中でその夢は形を変え「小説を書きたい」「自分の書いた物語を誰かに読んでもらいたい」というスケールの小さいものになりながらもくすぶり続けていた。
しかし、18年間、脳内で生まれたアイデアが物語として結実することはなかった。
僕は人生の中で幾度となく、一次・二次創作を問わず小説を書き上げようとしたが、その試みは一つの例外なく挫折する結果に終わり、PCの片隅に、小説になりそこなったテキストファイルを積み上げただけだった。
数えきれない挫折は諦観を育み、いつしか僕の胸中には、小さな夢と「この夢がかなうことはないだろう」という諦観が共存するようになっていた。
要するに、僕は18年間「ワナビー」を続けていた。
だが、2022年9月、そんなワナビー人生に終止符が打たれた。
僕は31年の人生で初めて、小説をきちんと書きあげることに成功したのである。
このnoteは、僕が約半年かけて一つの物語を書き上げるまでの記録である。
単なる備忘録のつもりで書いているが、これから小説を書こう、という人には1ミクロンぐらいは参考になるかもしれない。
◆「ほのぼのレイプ」を書きたかった
2022年2月末、僕は数年ぶりに小説を書き始めた。
なぜなら、昨今のNSFWの風潮と自分の性癖が合わなくなってきたと感じてきたからだ。
同人ショップやDLsite・FANZAに行けば大々的に特集されているのはNTR・洗脳・身体改造・逆レイプ・キメセク・異種姦レイプ・人格排泄といった先鋭化したジャンルのエロ同人ばかりで、どちらかと言えば純愛厨である僕は肩身の狭い思いをしていた。
そこで、「ならば自分のために自分でエロを書くしかねえ!」と一念発起し、自分の性癖を満たす純愛エロ小説を書こうとしたのである。
以前から、僕は「ほのぼのレイプ」というジャンルを書きたかった。
いい機会なのでそれを書こうと思い、僕は設定を練り始めた。
【限りなく和姦に近いレイプ。あるいはレイプなのに見ていてほほえましい光景。 】
-ピクシブ百科事典「ほのぼのレイプ」より引用
そして、以下のようなプロットが最初に完成した。
高校の文学研究会に所属する、ヒロイン:宝野レンリと竿役:城代剣治。
二人は親友という関係を続けていたが、レンリはひそかに剣治に恋心を抱いていた。
そこでレンリは自宅に両親がいない隙を見計らって剣治を家に誘い、告白する計画を立てる。
彼女は計画通り剣治を家に招き告白するが、剣治からの反応は芳しくない。
彼はレンリをヲタク友達としか見ていなかったのだ。
自分の未発達な体型にコンプレックスのあったレンリは剣治が自分を女として見ていない原因を自分の体形のせいだと早合点し、腹が立って衝動のままに剣治を押し倒しセックスを試みる。
レンリから逃れようとする剣治だが、レイプされる中で彼は自覚していなかったレンリへの恋心に気付き、レイプは和姦へと変わっていく。
僕はこのプロットに従って物語を書き始め、序盤こそ順調に筆を進めていたものの、すぐに、今まで僕を幾度となく挫折させ続けてきた最初の敵が立ちふさがった。
◆宝野レンリちゃんはそんなこと言わない
執筆から10日程度で、僕はすぐに行き詰まり、執筆のペースは格段に落ちた。
文章がスラスラ出てこなくなり、よしんば文章を出力できたとしても、出力された文章の出来に納得することができなかった。
原因ははっきりしている。自分の中の理想と、自分の稚拙な文章力との間にあるギャップが耐え難いのだ。
創作の初心者に対して、
「創作をする前に、まずは既存の作品をたくさん見て/読んで知識をインプットしましょう」
とアドバイスするのは世の常である。
が、大概の初心者は自分の力量ではアドバイスに従ってインプットしてきた名作のような表現ができないという事実に突き当たり、
「自分が書きたかったものはこんなものじゃない」という思いが筆を止めてしまう。自分もその例に漏れなかった。
こんな稚拙な表現がしたいんじゃない。こんな陳腐なセリフを書きたいんじゃない。
なぜ僕は○○のような素晴らしい文章が書けないのか。
この耐えがたいギャップを前に、僕は今までこれで数えきれないほど挫折してきた。
しかし、今までとは違い、僕はこのギャップに苦しみながら、2~3日に数十文字という超スローペースながら小説を書き続け、やがて「納得できないこと」に慣れて、執筆のペースをわずかながら取り戻した。
が、この最初の敵を乗り越えようとしている僕の前に、第2の敵が現れた。
◆勝手に動き始めた登場人物
よく、創作家の方々は「執筆を続ける中で、登場人物が勝手に動いた」という表現をすることがある。
「もともとはこういう結末を考えていたけども、執筆しているうちに登場人物が勝手に動き出して、今の結末になりました」
といった具合に、大抵は「登場人物が『勝手に動いた』ことで、より良い作品になった」というニュアンスで使われることが多い。
執筆を続けて1~2ヶ月。
ワープロソフトの中で、僕が生み出した宝野レンリと城代剣治もまた、創作者の手を離れ始めた。
ただし、僕の場合は『勝手に動いた』ことがプラスにはならなかった。むしろ、この『勝手に動いた』ことが第2の問題となった。
物語は最重要ポイントと言ってもいい、濡れ場に差し掛かった。
ヒロインと主人公がすれ違いを経て、心を通わせる重要なシーンだ。
だが、書けども書けども、一向に「剣治がレンリに心を開く」図が自分の中に思い浮かばない。プロットの段階ではいくらでも「物語はこのように進みます」と書けたが、いざその場面を描写する段になると
「いきなり襲いかかられて性暴力を受けたら怖いよなあ、普通」
と思ってしまい、ご都合主義的に剣治とレンリをくっつけることに抵抗が出てきてしまった。
結局、この問題は自分の拙い文章力では納得の行くように修正することが出来ず、急遽
「剣治は恋情を自覚するもレンリの勢いに流され、抵抗できずレイプされる」
という形で物語を続けた。
結果的に剣治はレンリに主導権を握られっぱなしの情けない男になり、レンリは情けない剣治にひたすら自分の恋情をぶつけるヒステリー気味のヒロインになってしまった。
この時、「ほのぼのレイプを描きたい」という、今回の執筆活動における第一義は、あっけなく破綻した。
◆エッチシーンが書けない
上記の問題とほぼ同時に襲いかかってきた第3の敵が濡れ場・エッチシーンである。
僕は童貞である。そして恐らく死ぬまで童貞である。
そんな男がセックスの何たるかを知っているはずもなく、エッチシーンの描写は困難を極めた。
片っ端からpixivでブックマークしていたR-18小説を読み漁り、今まで買った音声作品のセリフを繰り返しリスニングし、女性器と男性器の構造をウィキペディアで何度も確認し、暗中模索の状態でエッチシーンは書き進められた。
常に付きまとったのは「自分の書いているセックスは正しいのだろうか?」という不安だった。
勿論、いわゆる「2次元のセックス」は現実のそれとは別物のフィクションの産物ではあるが、そのフィクションの基礎になっているのは現実のセックスである。
その「基礎」が間違っているのではないかという不安は、小説を書き終わるまでまとわりついた。
セックスそのものの描写もさることながら、セックス中のセリフ、というか喘ぎ声をどう書くかという問題も悩みの種だった。
前述したように、自分が書いている作品はレイプであると同時に、青春盛りの若人の純愛である。
なので、喘ぎ声にも初々しい感じを出したかったのだが、どうすればその「初々しい感じ」が出るのか、そして同時にいやらしくなるのかはなかなかわからず、これもR-18小説と音声作品のリスニングをもとに、かなりの試行錯誤をしながら書き進めることになった。
よくネットでは
「18禁のBLコミックの濡れ場を読んでいたら、描き手に知識がなかったのか、男性器が裏返しになっていた」
という笑い話を見かけるが、一度でも作り手の側に立った今になるとそれを笑えない。
もちろん、
「今の時代なら『官能小説ハウツー』みたいな本がいくらでもあるだろうし、そういうのに目を通してから書けばよかったのでは?」
と思う方もいるだろうし、それは正しい意見だと思うが、
僕のようなダメ人間は「万全の準備をしてから…」とか少しでも考えてしまうと、その「準備」で何かをやった気になって満足してしまい、肝心の本丸には着手しないことが今までの挫折からわかっていたので、勢いが冷めないうちに、たとえ稚拙でも小説を形にしてしまいたかった。
(僕は学生時代、テスト前にリングの単語ノートを買って、準備して、準備で満足して結局単語ノートで勉強はしない典型的な真面目系クズであった)
◆僕は何を作っているのか
すでに目の前の物語は、当初の理想から逸脱していた。
ほのぼのレイプはただのレイプになり、「ぼくのかんがえたさいきょうのひろいん」だったはずの宝野レンリは、身勝手に「恋情」というエクスキューズのままに好いた相手をレイプし、そのくせ自分の犯した罪の恐ろしさに押しつぶされ、主人公にわんわん泣いて許しを請うメンヘラヒロインになってしまった。
文字をタイプするごとに理想から外れていく物語を前に、僕は「自分は何をしているんだ?何を作っているんだ?」という疑問に苛まれ、執筆活動に対する熱量は日を経る事に小さくなっていった。
これ以上執筆を続ける意味を見出すことは難しかった。
苦しみながら執筆を続ける中でふと正気に返り「僕は何をやっているんだ?」「こんなことより積んであるガンプラでも作ったほうが遥かに有意義なんじゃないか?」と思うことも一度や二度ではなかった。
だが、物語は既に終盤、ふたりがセックスを終え、正気の状態で向き合うクライマックスの手前まで進んでいた。
ここで書くのを止めてしまうとまた自分が情けないワナビーに戻ってしまうようで嫌だったし、ここまで来た以上最後まで書きたいという気持ちもあった。
自分の理想から外れてしまった物語の執筆作業は、苦痛に片足を突っ込んでいた。
作者の手を離れつつあるふたりの物語の終幕をどう描くべきかイメージすることはひどく困難で、最終盤の執筆においては「物語の終わりが見たい」というよりも「早くこの苦役から解放されたい」という気持ちが勝っていた。
正直、心境としては「夏休みの読書感想文の文字数ノルマをいかにして楽に埋めるか」という状況のそれに似た不健全な状態での執筆ではあったが、
SNSで幾度も見た、クリエイターたちが新人の創作者に向けた
「創作っていうのは、完成させないと経験値が入らないんだぞ!」
という言葉を支えに、僕はかなりのスローペースながら、砂漠の行軍にも似た執筆作業を続けた。
◆長く苦しい戦いの終わり
そして2022年8月31日。執筆開始から実に約半年。
「オーバー・ザ・トップ・エモーション」と題した小説の、プロトタイプが完成した。
僕はこれをしきたりに倣って数日寝かせ、後日改めて、問題点を洗い出すためにプロトタイプを通しで読みながら、不満点に修正を加えていった。
書いている間は作品の面白い/つまらないはぼんやりとしかわからなかったが、読み直した自分の小説は、駄作とは言わないまでも、面白くなかった。
オタクは(自分も含めて)すぐ創作物に対して
「この部分はおかしいだろ。作っている間に気づかなかったのかよwww」
と訳知り顔で指摘するが、作り手の側に立った今なら言える。
断言するが、作っている最中の人間は感覚が麻痺していて、作品の粗なんて全然見えない。
投稿を先延ばしにし、「オーバー・ザ・トップ・エモーション」が理想の作品になるまで加筆・修正することもできたが、それを続けるとキリがなくエタってしまう可能性のほうが大きかったし、正直なことを言えばこの作品に付き合うことに疲れていたので、
僕は大筋に改変は加えず、約2週間をかけて不満点の修正とエッチシーンの加筆修正を行い、「オーバー・ザ・トップ・エモーション」を完成させると、作品を「小説家になろう(ノクターン)」とpixivに投稿した。
文字数にして約28000字。
なろう/pixivの投稿ボタンを押したときは、肩の荷が下りた気分だった。
◆執筆を終えて
「しばらく小説はやりたくない」。それが今の偽らざる心境である。
執筆作業の心的疲労と、小説が思い通りに完成しなかったストレスは凄まじく、全てを終えて小説を投稿した時、真っ先に感じたのは「作品を書き上げた喜び」ではなく「執筆作業から解放された喜び」だった。
もちろん、18年燻ぶらせてきた夢を叶えた喜びはある。
執筆の最中、何度も書くのをやめようと思った。
自分の稚拙な文章力を思い知った時。エッチシーンに苦戦している時。
何より、作品の方向性がズレて、「自分の性癖を満たす小説を作る」という第一義が破綻した時。
以前はそうした障害を前にした時、執筆当初の勢いが続かず執筆を止めてしまっていたが、今回は(恐ろしく時間はかかったが)それらの障害に負けず、約28000字、無事に書き終えることができた。
執筆を終えた解放感と同時に、今まで、誰かの創作物を受け取るだけのオタク生活をしていたときにはなかった「ゼロから何かを作り上げる喜び」も、強く実感している。
一応、これ以前にも専門学校で映像作品を作ったり、オタク身内に向けてTRPGのシナリオを書いたりはしていたのだが、それらはゼロから作り上げたのではなく、他人の作った創作物をベースにした二次創作であり、「ゼロから作り上げた」わけではなかった。
先述の通り「オーバー・ザ・トップ・エモーション」は「自分の性癖を満たす小説を作る」という第一義から逸れた、失敗作に片足を突っ込んだ作品ではあるものの、作品作りにおけるノウハウを教えてくれたことも事実であり、まだ見ぬ次回作への糧になったという点においても「折れずに書き続けてよかった」と感じている。
何より、「オーバー・ザ・トップ・エモーション」の執筆により、「自分は小説を書くことができた」という成功体験を得たことは大きい。
それに、今作の執筆により執筆時に襲いかかるストレスに対しても多少は耐性ができた。次回はもっとスラスラ、ストレスに負けずに執筆活動ができるはずである。たぶん、きっと。
「しばらく小説はやりたくない」とは言ったものの、まだまだ書いてみたいネタはたくさんある。「オーバー・ザ・トップ・エモーション」の疲れが癒えたら、それらのネタにも着手してみたい。
だが、その前に執筆作業の妨げになるため、購入しながらも封印していたsteam積みゲーを消化していきたいと思う。まだ見ぬ次回作には悪いが、ネコチャンになってポストアポカリプス世界をさまよったり、タイタンとともに戦場を駆け抜けたりするのが先だ。
◆小説へのリンク
◆なろう(ノクターン)
https://novel18.syosetu.com/n6438hv/
◆pixiv小説
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18368073
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