液中バイモーダル原子間力顕微鏡
こんにちは。
あつ森の素材集めが楽しくて自己研鑽が疎かになってしまっていました。
自分を律していかないといけないですね。
表面技術2022年7月号に液-固体界面の分析をするための原子間力顕微鏡(AFM)の特集があり、知らない方法だったのでメモしておきたいと思います。
タイトルは『液中バイモーダル原子間力顕微鏡の開発とトライボロジーへの応用』で、著者は京都大学の一井准教授です。
最近の研究では、こちらの論文で利用されている技術のようです。
液中で測定できるAFM
まずバイモーダルAFMについてです。
通常のAFMでは、カンチレバーを試料面に対して垂直に振動させて表面の凹凸などを評価します。バイモーダルAFMは、垂直方向に加えて水平方向にも振動させて評価する方法です。
水平方向に振動させることにより、摩擦力などの水平方向の力に対する評価ができるようになります。
例えば、プレスや射出成型などの金型の様に表面が別の物質と擦れ合うようなものをミクロ/ナノスケールで評価することができます。
この記事のタイトルに”液中”と書かれているのは潤滑油を想定しているようです。プレス金型には潤滑油が必須になりますし、射出成型でも金型表面は液状の樹脂が流れます。通常の測定の様に、大気中や真空中で評価しても、実際の状況を再現することができません。
そこで、潤滑油中での表面状態を観察するために、液中バイモーダルAFMを開発しているということです。
カンチレバーではなくqPlusセンサー
通常のAFMではカンチレバー(片持ちばね)を振動させ、試料表面との相互作用によって変化する共振特性をレーザーなどで読み取ることで、試料表面の情報を取得します。
液中で測定するためには、カンチレバー全体を液に沈める必要があります。
液から出たり入ったりすると、液面の振動などノイズが大きくなって、表面の情報が見えなくなってしまうためだと思われます。
液中バイモーダルAFMでは、著者がqPlusセンサと呼ぶ、音叉型水晶振動子をベースにしたフォースセンサーを使用しています。
これは、自己検出型と呼ばれるセンサーなので、カンチレバーと違ってこれ自体が変化を読み取ることができます。
また、カンチレバーのバネ定数は0.1~100N/m)に対して、qPLusは1000N/mで、かなり硬いことが分かります。
そのため、振幅が小さく、近距離の相互作用の変化を評価するのに向いているそうです。例えば、化学結合やトンネル電流など、距離依存性が高い相互作用の測定精度を上げることができると考えられているようです。
液中での測定系においては、針先だけ液に入れておけばよく、液中での粘性抵抗を小さくできるという利点があるようです。
潤滑油など表面に液膜が出来る程度の系では、通常のAFMよりqPlusセンサを用いたほうが有利になりそうです。
qPulsセンサの技術課題
qPulsセンサの原理は圧電効果による変位検出です。そのため、一方向の力しか検出できません。
バイモーダルAFMとして利用するためには、ここをなんとかしなくれば行けません。
著者は、有限要素法の解析技術を用いて、高次の共振モードでは水平方向に振動していることを発見し、これによってバイモーダルな測定を実現しています。
高次の共振モードを利用している、と書かれても良くわかりませんが、通常は一次共振周波数(ここでは13.4Hz)を利用して変位を検出しているようです。これに加え、高次共振周波数(160.8Hz)を利用します。
以下は私の理解です。
おそらくqPlusセンサで測定をすると、センサ自体はいろいろな共振周波数で振動していて、従来は一次共振周波数しか観測していなかったのではないでしょうか。この記事に書かれている取り組みでは、他のもっと高い周波数帯まで観察することで、水平方向の振動を見つけたということだと思います。
実際に、高次共振周波数で測定した結果も紙面では確認することができます。(半年後に冒頭URLで公開されるはずです)
感想
記事の中では、高配向性熱分解グラファイトと潤滑油(ポリαオレフィン系)の液-固体界面の分析をしており、界面付近で粘度抵抗が上昇していることを確認しています。
液中での表面分析の新しい方法として、なかなか面白いと感じました。
めっきやエッチングでも利用できる気がしますが、qPlusセンサは逆に液に沈めると良くない気がしています。この辺りは全く書かれていないので、欠点なのかもしれません。
逆に、カンチレバーを使ったAFMでも難しいとは液中で測定できるようなので、そういう装置メーカーを探してみてもいいかもしれないと気づきがありました。