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〈文献メモ〉水素・酸素の同位体比測定による気候復元
こんにちは。
図書館で見つけた『月刊地球』という雑誌の2022年6月号で気になった点について書いておきたいと思います。
気になった記事(論文?)は「樹齢年輪の水素・酸素同位体比の統合による長期気候変動の復元」というタイトルで、著者は名古屋大学の中塚武先生です。
記事の中では、水素と酸素の同位体比の測定を通して、過去の気候を復元するため手法について解説されています。
気候復元
気候を復元する、とは気象観測が始まる以前の地球の気候がどのようなものだったかを、年単位(もしくは日単位)で定量的に見積もっていくと取り組みです。
太古イメージや歴史の説明の中で天気まで説明される場合は、気候復元の研究の賜物というわけです。
では、どうやって復元していくかというと、以下の手がかりを元に推定していきます。
歴史が残っている時代:日記の天候記録、古文書、樹木やサンゴの年輪等
歴史が残っていない時代:樹木・サンゴの年輪、鍾乳石、湖底堆積物、氷床コア
第四紀全体:海底堆積物、水素・酸素の同位体比
この記事は、特に水素・酸素の同位体比を用いた手法に関する解説です。
水素・酸素の同位体比の測定方法
この測定方法は、樹木の年輪に含まれるセルロースの酸素同位体$${^{18}O}$$と水素同位体$${^{2}H}$$の各同位体比を測定することで、年輪から得られる年月値と同位体比の変動量から得られる気候情報を合わせることで、気候復元することができます。
(データは載せられないので雑誌を参照ください)
この測定方法の特徴としては、「気候の短期変動」を評価することができます。月単位くらいのイメージです。
樹齢効果の影響が少ないことも特徴です。
樹齢効果は、樹木の年輪幅(年輪の厚み)から気候を復元する際に影響してきます。
年輪幅は気候の影響を受けると同時に樹齢の影響も受けます。
樹齢が大きくなって幹が太くなると外側の年輪ほど薄くなるからです。
通常は、地域や樹種毎に樹齢効果の標準カーブがあって、それを用いて気候復元するらしいのですが、日本のように樹木が密集している地域だと、日光を受けられる木と受けられない気の差が大きくなってしまって、うまく利用できないそうです。
同位体比の分析は樹齢効果が少ないのと、水素と酸素の2つの同位体比の変動を見ることで、樹齢効果を除外することができます。
分析装置
では、どんな分析装置で分析するかというと、こんな装置のようです。
記事には載っていなかったので、別の記事を探してきました。
![](https://assets.st-note.com/img/1659164479272-nnLn7PvEsj.png?width=1200)
個人的には、思ったより少し大きかったです。
熱分解装置と同位体比質量分析計を並べた構成で、熱分解で発生したガスを質量分析する方式のようです。
測定方法としては、以下のようになっています。
対象の有機物(この場合は樹木をばらしたもの)を高温で熱分解して酸素原子は$${CO}$$、水素原子は$${H_2}$$のガスにする
GCカラムを通して分離する
イオン化して、水素同位体比は,m/z 2, 3,酸素同位体 比は,m/z 28, 29, 30 のイオン強度を検出する
基本的にはGC-MSと同じイメージです。
測定自体は10~20分程度ですが、サンプルを乾燥させたり粉砕させたりする前処理に時間がかかって、100試料/1週間くらいで分析するそうです。
試料数が少ないと1個当たりの時間がかかりそうなので、出来るだけまとめてやりたくなりますね。
感想
同位体の測定は言葉では聞いていましたが、具体的な利用例を知ることができて良かったと思います。
まぁ、仕事や趣味で使うことはないですが、今後この手の話を読んだ際には理解がしやすくなっているんじゃないかと思います。
参考
月刊地球について
そもそも、情報が少なすぎてよくわかりません。出版元の海洋出版㈱のHPも詳しいことは書いてないですが、地球科学関連の雑誌を出版している会社のようです。
比較的近年の気候復元について
第四紀について
熱分解元素分析計による同位体比の測定に関して
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rog/26/0/26_KJ00006812699/_pdf/-char/ja