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酸化グラフェンを使ったPd使用量削減技術

こんにちわ。
無電解めっきの触媒となるPdの使用量を減らす技術が、表面技術2022年6月号に掲載されていたので、内容と感じたことを書いておきたいと思います。

記事のタイトルは『無電解めっきの触媒使用量を大幅に減らすシンプルな方法』で、著者は、シンガポール南洋理工大学、レステック㈱、吉野電化工業㈱の研究グループの方です。
(記事は12月頃にwebでも閲覧できると思います)

無電解めっきのPd触媒

プラスチックなど電気の流れない基板への無電解めっきでは、触媒であるPdを基板表面に付着さえる必要があります。

記事によると、直径50nm程度のPdナノ粒子を被覆率20%以上で付着させる必要があるとのことです。

無電解めっきを自前でやろうとすると、必ずと言っていいほど、貴金属であるPdのコストダウンが課題になります。

Pdを含む白金族金属の産地が南アフリカとロシアに偏っていることも、リスクを大きくしている要因ですし、ロシア-ウクライナ問題で貴金属価格が大きく上昇したことを考えると、これからも無電解めっきの検討に付きまとってくる問題になりそうです。

電子の通り道が必要

そんなわけでPdの代替になる触媒としてCuやAgなどが検討されているわけですが、上記の記事は、代替触媒ではなく、Pd使用量を極限まで減らすことを目的に研究されてる内容になっています。

無電解めっきにおけるPdの役割は、還元剤の酸化によって電子を放出することです。
この電子を使って、溶液中の金属イオンが還元されて基板表面に金属膜として析出します。

基板が導電性の場合は、Pdによって放出された電子は基板表面を伝播していくので、Pdが少ない部分でも金属イオンと反応することができます。
しかし、非導電性の基板の場合は、Pd近傍にしか電子がいないので、Pdの被覆率が小さいと析出が偏ってしまい、均一な膜が形成されません。

酸化グラフェンを使った導電層

「非導電性の基板でも電子が伝播できればPdが少なくても均一な膜ができる!」という発想のもと考えられたのが酸化グラフェンを使った方法です。

Pdを基板に付着させる前に、酸化グラフェン水溶液に浸漬して表面に酸化グラフェンの薄い膜を作ることによって、それを電子の通り道にしようという発想です。

記事の中では、酸化グラフェン前処理の有無でPdの被覆率は変化しないものの、無電解めっきの膜厚は大きく増加することが示されています。

記事内のデータによると、触媒水溶液中のPd濃度を約1/50にすることができます。

これは中々インパクトが大きいですね。
無電解めっきの原料コストを考えると40~60%はPd触媒だと思われます。

単純にPdコストを1/50にできると考えると、全体から見ればほぼ無視できるレベルまで小さくすることができます。

また、酸化グラフェン水溶液に浸漬するだけなので、めっき工程を大きく変えなくてもよいことは長所の一つだと思います。

感想

実際には酸化グラフェン水溶液の工程が増えるし、触媒工程も更新や水洗など、Pd以外の部分のコストがあるので、無視できるレベルにはならないと思います。

また、酸化グラフェン自体も安くはないので直接コストダウンになるには、技術的にも産業構造的にもイノベーションが必要になると思います。

ただし、Pdのように地政学的なリスクは小さくなるので、戦争や政変の時にめっき屋さんの不安を小さくすることができるかもしれません。

Pd代替技術を探索する方向と平行して、如何に使用量を減らすか、という方向での研究は継続して進めていく必要がありました。

都市鉱山から得られる量で賄うことができれば、Pdのリスクをとても小さくできると思います。

以上です。

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