スポーツが自粛された時に僕らが出来ること - 起業家はオンラインスポーツの夢を見るか
新型コロナウィルスの急激な感染拡大の影響を受け日本経済が大きく停滞する中で、私が身を置くスポーツ業界も例に漏れず甚大な被害を受けている。
ほんの数ヶ月前まではラグビーW杯2019を皮切りに、東京オリパラ、ワールドマスターズと3年連続で世界的なスポーツイベントが開催される『ゴールデン・スポーツイヤーズ』が続くと予想していた。
かつてない盛り上がりと発展を達成する奇跡の3年間のはずだった。それが今や「全てが中止・延期」となってしまったのだから、大変な事だ。
オンラインスポーツに期待を込めて
さて、ご存知の方もいるかと思うが筆者はかねてから『オンラインスポーツの夢』を見ている。業界的にも悲観的なニュースが続く中、先日ふと自分にとって嬉しいニュースが流れてきたのでここで紹介したい(今のスポーツ興行の僅かな希望にもなると思う)。
ちょうど先日、NBAによる『NBA HORSE Challenge』と言うオンラインバスケ大会のTwitter配信が行われたのだ。
「自粛・延期・中止」のニュースが続く中で、選手がプレーして競う簡易大会が開催される事を純粋に嬉しく感じた。それと同時に自分達でも国内の同形式の配信を実施してきた経験から国内でのこのムーブメント創出に関われないものかと思い、オンラインスポーツ大会の可能性や考察の記事を書く事にした。
2.オンラインスポーツとは何か
さて改めて、オンラインスポーツとは何だろうか?基本的な枠組みから整理していきたいと思う。e-sportsの事を思い浮かべた方もいるかもしれないがそうではない。筆者独自の定義となるが "競技体験が部分的にインターネットに接続されたスポーツ" の事を私はオンラインスポーツと呼んでいる。
(※サイバースポーツや超人スポーツとも呼んだりするが呼び方はなんでもいい。)
例えばセガサミーグループ企業の株式会社ダーツライブが提供する『DARTSLIVE(ダーツライブ)』をご存知だろうか?スポーツバーやダーツバーに設置してあるこのダーツ台はインターネットに接続されており、プレイヤーはスマートフォンのアプリを用いて自分のアカウントを作成し遠隔地にいる相手と時間と場所を問わずに対戦するといった使い方もできる。
つまり 遠隔地にいる相手とスポーツにおける競争が起こる状況 をオンラインスポーツと定義している。一方でオンライン指導やトレーニング中のデータ取得&フィードバックは"競争"ではないのでこれに含まない。
上述の『NBA HORSE Challenge』はまさに遠隔地の選手がバスケのシュートやドリブルを映像を通じて対戦するような形式を取っているため、筆者からすればオンラインスポーツと呼んで間違いない。
要するに インターネットを用いた地理的・物理的な制約を超えたスポーツの試合(ゲーム) これを私は "一箇所にプレイヤーが集結して競争するオフラインスポーツ" と比較してオンラインスポーツと呼んでいる。
※全てのスポーツ競技でオンライン化は可能だと考えている。例えばサッカーではリフティング、バスケではダンクシュート、野球ではピッチングといったように一部を切り出して競技(種目)としていく。例えばリアルタイムに動画やセンシングデバイスを通してピッチングの質を競い合うような競技も技術的には十分可能だ。
3.『NBA HORSE Challenge』とは
改めて4月12日、NBAのネット企画の一環として『NBA HORSE Challenge』が開催された。新型コロナウィルスの影響でリーグ全体が自粛を決めている中で、ファン/サポーターに向けたチャリティ的サービスの一つだろう。
ちなみにH.O.R.S.Eとは、アメリカ発祥のバスケのシューティングゲームの事だ。二人で同じシュートを交互に打ち合い、相手よりも先に5回多くシュートを失敗すると負けになるルールとなっている。
「技を仕掛けて相手がそれを模倣できるか」と言うゲーム形式は他のスポーツでも採用されている。例えばスケートボードにはS.K.A.T.Eゲームと言うゲームがある。アクションスポーツの祭典Xgamesではスケートゲームも種目の一つとして取り入れられている。
(世界的スケーターのNyjah Hustonも参加)
『NBA HORSE Challenge』ではNBAの現役選手やOB選手全8名がトーナメントで競い合う形式を採用している。撮影はスタッフがそれぞれの選手の元に赴き撮影し、リアルタイムで選手が会話しながら勝負を進める事で、遠距離にいながらもまるでその場で本当に両者が競っているかのようなライブ感を演出している。
4. キラーコンテンツではないが一つの選択肢として...
『NBA HORSE Challenge』は新型コロナウィルスの影響を受けて日常からバスケ離れが起きているNBAファンの為に催された動きではあるが、スポンサーとしてStateFarm(アメリカの保険会社)がついている事に、筆者は少し驚いた。
これはオンラインスポーツが "売上/トラフィック共にキラーコンテンツと呼べるほどでないけれど、それでもスポーツのリアル興行に近いビジネスモデル(チケット・スポンサー・放映権の収入)を採用できる可能性がある" と言う事を示唆している。
何よりスポーツ活動全体が自粛を余儀なくされる昨今、選手の競技シーンを形にして配信した事それ自体が、筆者にとってはエポックメイキングのように思えている。
いつ如何なる政治的/環境的な有事によってスポーツリアル興行が中止されるか分からないこの時代である。これからはアーカイブ映像を配信しロイヤリティを高めるだけが、スポーツ興行関連者のオンライン施策ではなくなるのかもしれない。
※第一回のチャンピオンが決まりましたね(4/17 PM12)
コンテンツホルダーの皆さん如何ですか?オンラインスポーツ大会について少しでも興味をお持ちいただけたら、以下に当社が実際に実施した事例も数点紹介しているので是非ご覧ください。
5.withコロナ時代のスポーツ
最後に新型コロナウィルスがスポーツ業界から何を奪い、そして何をもたらすのかについて筆者のポジトークをかましておきたい。
ビジネス界においては外出自粛に伴いテレワークの強制導入が進んでいる。皮肉にも未曾有の外出制限の政府発令が、働き方改革の強烈なトリガーとして社会の前進を推し進めている。
オンラインの観点から見ると、同様の事がスポーツ業界にも起きていると筆者は思う。
5-1.スポーツ関係者のネット発信が盛んに
かねてからスポーツ業界のオンライン施策として情報発信の重要性は謳われていた。ここにきて外出がままならない人達を対象として、自宅できるトレーニングを動画で紹介するスポーツ従事者の数は明らかに増えている。またInstagramのライブ配信を用いたアスリートによるライブ配信も連日のように行われている。
また新型コロナの感染拡大を受けてかは定かではないが、昨今ではダルビッシュ有や本田圭佑、長友佑都といったアスリートによるYouTubeチャンネル開設も徐々に増えつつある。
5-2.スポーツとデジタルの融和が始まった
スポーツ従事者による情報発信の強化は(直接的ではないにせよ)緩やかにオンラインスポーツ興行の開催への拍車となり得るに違いない。今までは自分の体一つで完結したスポーツ活動が、徐々にインターネットへと接続され始めているのだ。
以下の幾つかの事例を介して、オンラインスポーツのダイナミズムを感じてもらいたい。
事例(1):YouTube特化のSlum Dunk Contest
アメリカのベンチャー企業であるWhistleが運用する『Dunk League』はYouTubeでチャンネル登録180万を超えるモンスターチャンネルだ。
既に、このような "オンラインでしか視聴者と接点を持たないスポーツ興行" が新たなプラットフォームを通じキラーコンテンツとして成立している。
事例(2):AIでシュート検知→ランキングやスカウト
またアメリカのベンチャー企業が開発するスマホアプリ『HomeCourt』は、AIでシュート検知を行い、その本数を巡ったランキングや対決機能を提供している。身近なスポーツアクティビティがAI技術によって、オンラインでの競争体験に取って代わろうとしている。
事例(3):オンラインシューティングバトル
手前味噌で恐縮だが、国内でも3x3バスケチームDIME協力の元、(株)モルテンのシューティングマシンを用いたオンラインシューティングバトルが開催された(当社が企画&実行)。視聴者と対話型で成立する、スマホ上でのスポーツ興行事例として紹介したい。
事例(3):1on1対決をスマホ一つで
また私たちの開発するアプリでもS.K.A.T.EやH.O.R.S.Eといった形式で「1on1対決をスマホ一つでリアルタイムに行える機能」を実装準備している。
5-3.テクノロジーの発展と価値観の変化
このように、技術の発展・プラットフォームの登場によってオンラインスポーツの実現可能性は劇的に高まっている。それに加えて人々の価値観の変化を通じ、"オンラインでもスポーツは出来るよね"と言ったカルチャーが徐々に浸透していく事に期待したい。
『NBA HORSE Challenge』のようなオンラインスポーツ大会が幅広く開催される日は、直ぐそこにまで迫っている。
オンラインでの大会や試合開発に興味のあるリーグ/協会関係者/チーム関係者の方、ご一緒に企画しませんか?
全国のいや世界の「スポーツリーグ/協会関係者/スポンサー企業」の方で、SNSを駆使したオンラインコンペティションに、ご関心のある方は是非一度zoomで30分ほどディスカッション致しませんか?TwitterのDMでご連絡ください。
Twitter: @yshirou
Appendix
※自己紹介
スポーツ動画投稿アプリを開発するスポーツ系スタートアップを創業。自社アプリである『Miez』を開発。『スポーツ本来の価値を追求する』を掲げて、新しいインターネット的スポーツの楽しみ方(オンラインで完結する競技体験・コンテンツの企画開発)を追求する事業を、複数展開している。
※自社事例の紹介
私たちがオンラインスポーツを構築する上で最初に着手したのは動画投稿アプリの開発で、このアプリは『オンラインスタジアム』をメタファーとしている。動画投稿を通じてコンペティションに参加する事ができたり、スポーツのスキルをデジタル参考書風にまとめ、そこから学ぶ&投稿する事が可能となっている。
また将来的な発展機能として、リアルタイム配信を用いた1on1勝負なども機能としては実装していく予定。
アプリ外では、プロの選手を起用した "オンライン配信専用の大会"の撮影&編集&配信までを行なっている。コメントやRTを通じた視聴者とのインタラクション性が高い非常にSNS的なスポーツ興行を作っている。
※何故スポーツにデジタルを接続する必要があるのか?
殊にスポーツの競技体験は、他の文化活動である音楽や芸術と比較してデジタル化が極端に進んでいない領域だと考えている。非デジタルをデジタルにする事で享受できる利益については納得してもらえると考えている。スポーツをデジタル化しオンラインに接続する事で、音楽や芸術と同様スポーツの多様性が広がり、全体の発展に寄与すると言う考えだ。
大まかに述べると上記の理由でスポーツのオンライン化を啓蒙しているが、これに関しては話すと長くなってしまうため、詳しくは別の機会に。
※対象競技は何か?
頻繁にいただく質問なのでこれも事前に答えておく。上記例のダーツ(DARTSLIVE)はスコアを競う競技だが、チームスポーツや球技スポーツもやり方次第ではオンラインスポーツ構築は可能だと考えている。具体的には競技の一部分を切り取る事で競技化(=オンラインスポーツ化)していく。
例えばサッカーではリフティング、バスケではダンクシュート、野球ではピッチングといったように一部を切り出して競技(種目)としていく。リアルタイムに動画やセンシングデバイスを通してピッチングの質を競い合うような競技も技術的には十分可能だと考える。