東京工科大学×アドウェイズ 企業と教育の連携がもたらす新たな可能性
アドウェイズは2024年の初めに、コミュニケーションデザイングループという組織を新設しました。
コミュニケーションデザイングループは「すべての会社機能をデザインする」というミッションをもとに、サービス開発、プロセス改善、ブランド開発など、アドウェイズグループが持つ課題をデザインの力でアプローチし、解決していくために生まれた組織です。
そんなコミュニケーションデザイングループのメンバーが昨年末、東京工科大学デザイン学部より依頼をいただき、特別授業を担当することとなりました。
どのようないきさつからアドウェイズに依頼が来たのか。今回は、取り組みの背景や経緯、授業内容、さらには教育機関が直面している課題についてを、グループ管掌役員である遠藤と東京工科大学の葛原准教授の対談形式にてお伝えします。
出演者プロフィール
依頼のきっかけは「卒業生がとても楽しそうに働いていたから」
葛原先生:この度は改めて、当校の依頼に協力いただきありがとうございました。
遠藤:とんでもないです。こちらこそ、本当にありがとうございました。対談ということなので、まずは経緯から振り返っていければと思うのですが、お誘いいただいたのが2024年の夏頃でしたよね。
葛原先生:そうですね。私が担当する3年生後期のデザインの演習授業では、ここ数年、企業の皆さんに協力をいただき、特別授業を行っているんです。その関係で、2024年はアドウェイズさんに声がけをさせていただきました。
今回は、学生にUI/UXをもっとリアルに感じてもらえる機会を作れたら、と思いながら、授業を担当いただける企業さんを探していました。アドウェイズさんにお声がけをしたのは、入社した私のゼミの卒業生に直接話を伺っていたことがきっかけです。先日も特別授業に来てくれたのですが「社会人は思ったよりも楽しい」と学生たちの前で話してくれるなど、働いている姿がとても楽しそうでした。そういうアドウェイズさんならではの雰囲気が、授業を通して、学生にも伝わるのではないかなと思い、今回は依頼をさせていただきました。
遠藤:ありがとうございます。私が管掌するコミュニケーションデザイングループは、主にサービス開発、プロセス改善、ブランド開発などに取り組んでいるのですが、教育カリキュラムの設計に向き合うことも多々あるため、こうした学生に向けた教育機会は勉強材料にもなることから、お声がけに対し「ぜひ!」と引き受けさせていただきました。設計や授業の組み立ては、チームメンバーと協力して向き合っていきました。
葛原先生:遠藤さんのファシリテーションは、学生との適切な距離感が印象的でしたね。企業の方に担当していただく特別授業は、お互いの遠慮や緊張でどうしても学生との距離が縮まらないことがあるのですが、遠藤さんは積極的に学生に近づき、素敵なコミュニケーションを築いてくれました。学生たちの積極的な参加を促す要因になったとも考えています。
遠藤:本当ですか。もしかしたら、空気を読まない性格が功を奏したのかもしれません。ありがとうございます。
「人の心を動かすとはどういうことか」を理解し、実践してほしい
遠藤:改めて、デザイン教育のあり方について、葛原先生はどのような課題を持っていたのかを伺っても良いでしょうか。
葛原先生:はい。本学デザイン学部の私が所属する視覚デザインコースのカリキュラムでは、グラフィックデザインが重要な位置を占めています。具体的には、理念を伝えるためのビジュアルコミュニケーションを、そのプロセスから表現までを学んでいきます。しかし、卒業後には、デザインという概念をより立体的かつより多角的に捉え、社会やユーザーの視点を取り入れたアプローチが求められるようになりますよね。
ただし、どうしても大学の授業だけでは、こうした社会的な感覚や視野、UI/UXの視点を十分に養う機会が限られているのが現状です。例えば就職活動でも、志望理由に「ものづくりが好きだから」「デザインが楽しいから」という理由だけを書いても、企業側には響かないですしね。社会では、市場や困っているユーザーをどう助けるかという視点が求められますから。
遠藤:確かに、そうした姿勢はあまり良い印象を持たれないと思います。また結局のところ、社会や他者の課題に向き合うこと自体が、仕事を楽しく感じるきっかけにつながると私も思います。
ところで、ここ最近の学生さんたちには、何か変化や気付きを感じられますか?
葛原先生:一括りにはできませんが……「心を動かす」といった体験が少ないのかな、という印象を持っています。日々、SNSで膨大な情報に触れている分、コンテンツの意味を深く考えたり、味わったりすることに対し、難しさを覚える学生が多いのかもしれません。こうした傾向は消費者としては問題ありませんが、いちクリエイターとしては「人の心を動かすとはどういうことか」を理解し、実践することが極めて重要ですよね。
そのため最近は、表現や企画のプロセスをリアルに実感できる教育の必要性を、改めて強く感じるようになりました。今後もできる限り、学生たちが創造力を深め、人々の心に届くデザインを生み出せるような成長を後押ししていきたいと考えています。
「ユーザー理解」を中心に据えたワークショップ
遠藤:今回は、アドウェイズグループで展開している課題解決力向上カリキュラムとUI/UXデザインの研修を融合し、0から組み立て直したプログラムを学生さん向けに展開しました。試行錯誤をしながら、先生にも意見を伺い、難易度や内容のバランスを調整していったんですよね。
葛原先生:ええ、そうでしたね。授業の大まかな内容を伺った時、私は率直に楽しみだな、面白そうだなと思いました。学生が、実際の仕事に近い視点で学べる絶好の機会になると感じましたし、なかでも「ユーザー理解」は、普段の学びの中では意識しにくいポイントなので、とてもありがたいなと。
遠藤:デザイン業界で活躍をしていくには、ユーザー理解を意識しながら、ビジネス的な視点やクリエイティビティとのバランスを取って向き合っていく必要があると私は思っています。私自身も大学時代に技術スキルを中心に学んでいたため、社会に出てからは苦労をしました。そうした経験も踏まえて、今回のワークショップではUI/UXのなかでも「ユーザー理解」を中心に据えようと考えたんです。
授業では、学生たちに「ユーザー目線」を体感してもらうため、チームでサービスを企画する課題に取り組んでもらいました。ペルソナを葛原先生に設定しアイデアを練るという少し挑戦的なテーマ設定でしたが……学生さんたちはとても意欲的でしたよね。
葛原先生:まさか私がペルソナに設定されるなんて、正直、驚きました。普段、私は意図的に学生との距離を保っていたので、均衡が崩れるなと(笑)。実は学生に対し、年齢さえ言ったことがなかったんです。でも、それが返って新鮮で、学生たちの興味や熱意を感じる良い機会となったのも事実ですね。
遠藤:そうだったのですか。距離を保っておられること、知りませんでした。
葛原先生:はい。でも実際、授業後は学生たちの反応が明らかに変わりました。これまで以上にターゲットやペルソナに対する意識が高まり、自主的にリサーチをする学生が増えたんです。「こういう人に話を聞きました」といった具体的な報告が増え、成長スピードにも驚かされましたね。ちなみに、授業中に笑ってくれる学生が増えたことも、成果の一つです。
遠藤:良かったです(笑)。ちなみに「テーマ課題」に対して私が特に印象に残ったのが先生へのインタビューを通して「健康管理」と「娘さんと先生とのコミュニケーション」の2つの課題を用いてサービスとして提案したチームでした。一見、こうした課題を前にすると、そのまま「食事の提案」や「娘さんと会話」ができるサービスを直球で考えてしまいがちなんですが、そのチームは「娘さんの給食と同じメニューを先生へ提案してくれるアプリ」を考案したんですよね。
葛原先生:ええ。単に栄養バランスを考慮した提案ではなく、「娘と同じものを食べることで会話が生まれる」という視点が含まれていました。クリエイティブな発想と現実的な課題解決が見事に組み合わさっていて「今日のうどん、おいしかったよね」といった、日常の会話が増える可能性も感じましたよね。
遠藤:まさに、学生だからこその自由な発想だったと思います。社会人になると「できない」と諦めてしまうようなことも、積極的にチャレンジしていた印象です。
葛原先生:「テーマ課題」の捉え方に関しては、深く理解しているチームもいれば、表面的に捉えているチームもいて、その差が非常に興味深かったです。そして、こうした新しい発想に触れると、デザインの可能性を再認識しますよね。
遠藤:はい。そして、こうした発想や企画の推進力は、社会ですぐに活かせることができると思います。学生さんが「自分が社会に出たら」と少しでもイメージを持つことができれば、面接で話す内容も大きく変わってくるでしょうね。
葛原先生:確かにそうだと思います。特にうちの学部では、デザイン職につくのは全体の1/3程度で、残りは総合職や一般職を目指す学生が多いんです。そのため、「なぜデザイン学部から来たのか」と面接で問われることがよくあり、その際「向いていなかった」とか「うまくいかなかった」と答えてしまうのは、非常にもったいないと伝えていて。
なぜならデザインは単なる表現ではなく、問題を見つけ、それに対してどのような解決策が適切かを考えるプロセスそのものが重要だからです。プロセスを通じて得られる問題解決能力は、どのような職業に就くにしても必ず役立つスキルなので、総合職や一般職を志望する学生にも「デザインを学んで得たスキルを、より自分に向いている仕事に活かしたい」といった形で企業側に伝えられるようになってほしいですね。
学校の授業は、社会課題を解決できると思う
葛原先生:アドウェイズさんでは、こうしたワークショップは、今後も行っていく予定なのでしょうか。
遠藤:そうですね。お声がかかればですが、今後も積極的に行っていければと考えています。日本は今、なかなかイノベーションが生まれにくい国になっているのですが、そうした社会課題に対して、市場や社会に影響を与えるようなサービスやデザインを、一人でも生み出してくれたら嬉しいですし、学生さんたちにはそういう気持ちを持って、向き合っていきたいと思っています。
葛原先生:企業経営を行っている皆さんが、感じていることかもしれませんね。
遠藤:はい。企業にとって教育機関の活動に協力することは、社会課題を解決するという意味でも、できることの一つだと思います。
葛原先生:学生は、自分本位で当たり前です。社会に対してデザインの力で価値を届けたいなんて考えを持っている学生は、なかなかいません。また、教育現場は閉鎖的になりうる環境ですし、僕らも毎年同じカリキュラムを教える方が簡単ではあるのですが、学生たちをどこまで現代社会に適応させていけるか、社会に対してどういう人材を輩出していけるかというのはすごく大事であり、やりがいのあることだと思っています。
遠藤:学生時代、葛原先生のような先生に巡り会いたかったです(笑)。私たち企業側も、自分たちの試みが学生たちの未来にどうつながるのか、引き続き見守っていきたいと思います。今回は、改めてありがとうございました。
葛原先生:こちらこそありがとうございました。
おわりに
今回は、コミュニケーションデザイングループの取り組みの背景や経緯、授業内容、さらには教育機関が直面している課題について、グループ管掌役員である遠藤と東京工科大学の葛原准教授の対談形式にてお伝えしました。
今後も、megaphoneではこうしたアドウェイズの対外的な活動や、主催イベントのレポートなどもお知らせしていきます。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
特別授業の様子はこちらのnoteでもアップされていますので、ぜひご覧ください。
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