「さがす」めちゃくちゃ面白いけど、二度と観ないかも。
どうも、安部スナヲです。
「パラサイト~半地下の家族~」のポン・ジュノ監督や、私が好きな山下敦弘監督の映画でも多数助監督をつとめられた片山慎三さんが、大阪・西成を主な舞台としたサスペンス映画を作られたとのこと。
しかも、どことなく韓国ノワールのムードも踏襲していて、さらには、昨年の吉田恵輔監督の衝撃作「空白」で不思議な存在感を醸していた伊藤蒼さんがメインキャストとして出ているとうので、これは観ておかねば!と勇んでいざ劇場へー。
【お父ちゃんな、今日あいつ見たんや】
映画は、スーパーで万引きをして保護されている父を娘が迎えに行く場面からはじまります。
父・原田智(佐藤二朗)は悪びれる様子もなく、ひょうひょうとした感じで、「20円足りんかったんや」と言い、娘・楓(伊藤蒼)は店員や警察官にバツ悪そうに何度もわびながら自分の財布から20円を出します。
店員は「そういう問題とちがうんちゃうか」と、責めますが、なんとか示談に応じ、2人は退店します。
帰路、呆れ果てた楓からの説教をノラリクラリとかわしていた智が、突然こう言います。
「お父ちゃんな、今日あいつ見たんや、指名手配犯、山内照巳。警察に突き出したら300万もらえるで」
この期に及んでまだそんな無自覚で無責任なことを言う父に楓は「アホなこと考えんと、普通に働きぃや」と一喝します。至極真っ当。
智が姿を消したのはその翌日です。
如何に「ヌケ作」な父でも、居なくなると心配です。
それに、あの発言も気になる…。
楓は必死になって智を探します。
その過程で、楓は日雇い労働者の仕事を斡旋をしている福祉センターで、智が従事している筈の建設現場を突き止め、そこへ向かいます。
「原田智いますか?」と尋ねて、案内された人物は全くの別人。
同姓同名か?
いや、なんか腑に落ちない。
数日後、父の名を使ってあの現場で働いていた男は、指名手配犯・中山照巳(清水尋也)であることを知ります。
ここから物語は、現在と過去を往来しながら、思いもよらない方向へ転がっていきます。
【大阪人の情緒と機微】
大阪人の私からすると、映画やドラマの中に登場するステレオタイプな「大阪人」には正直、イラッと来ます。
やたら声がデカくて、無神経で、話し言葉も「でんがな、まんがな」とか「せやさかい」とか、全員が明石家さんまや笑福亭鶴瓶みたいに話すワケではありませんし、誇張具合があまりに雑だと、そらムカつきまんがな。
「日常会話が漫才みたい」であることは否定しませんが、決して「オチ」を強要したりはしませんし、ボケとツッコミのそれっぽいテンプレートをあてがって大阪人のキャラクターをつくるのは本当にやめていただきたい。カンニンしてぇな。
実際はもっと情緒や機微があるのですが、大阪人でもないし、それがわからないというのであれば「夫婦善哉」と「じゃりン子チエ」を読んで出直して来い!と言いたくなります、ショーミのハナシ。
ハナシを戻して、この映画の片山慎三監督、そして楓役の伊藤蒼さんは、やはりネイティブ大阪人だからか、ちゃんとその情緒や機微が反映されています。
例えば劇中、智が食べ物を咀嚼する時のクチャクチャ音に楓がツッこむ場面で言った「そんな食べ方してたら、アゴ壊れんで」に対し、智は「アゴは壊れるもんちゃう、ハズれるもんや」と返す、
あるいはパトカーのサイレン音が聞こえて来た時の「迎えに来たで」「ナンデヤネン」
この屁理屈ともギャグともつかぬ、甘噛みのような「いい合い」にこそ、この大阪人父娘の親密度が滲み出るのです。
【生きる意味なんて、問わないでくれ】
この映画は、サイコスリラー/サスペンスとしての仕掛け、伏線、回収がお見事で、エンタメ作品としてめちゃくちゃ面白いのですが、サスペンス要素が全て実際に起こりうることなので、ちょっと洒落にならない恐ろしさと、正直「観るんじゃなかった」というくらいの鬱屈を感じます。
というのも、サスペンス要素の元ネタは、近年実際にあった痛ましい殺人事件にあります。
ひとつは、2017年にTwitterで誘い出された自殺願望の女性9人が殺害された「座間9人殺害事件」
もうひとつは、2019年、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)の女性患者からの依頼を受けた2人の医師が、その女性に薬物を投与して殺害した「ALS嘱託殺人事件」
それぞれ事件の内情は複雑ですが、この映画が問題提起として浮き彫りにしたいのは、要するに自殺幇助や安楽死の是非なのでしょう。
私はハッキリ言って、何故わざわざ映画を観てそんなこと考えなくちゃいけないの?と思っています。
死んだ方が幸福な人がいるかなんてわかりませんし、考えたくもありません。
生きる意味なんてのも、わかりません。
ただ、私たちが手を差し伸べられるのは、支え合えるのは、心身が健康であろうがなかろうが、生きる意思がある人だけだと思っています。
だからといってこの映画や、そういうテーマを持つ作品を責めるワケではありません。
そもそもこちらが選んで観ているのですから。
ただ不意に、そんな考えたくないことの沼に突き落とされてしまう危険性も、映画にはあるということです。
そういえば、この映画のキャッチコピーは「見つけたくないものまで見えてくる」でした。
もう二度と観ないかも知れませんが、この映画は多分、傑作なんだと思います。
出典:
映画『さがす』公式サイト【絶賛公開中!】
映画『さがす』公式劇場パンフレット