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「シェイン〜世界が愛する厄介者のうた〜」破滅型の半生なのに、見ていて元気が出る理由。

どうも、安部スナヲです。

酒とドラッグによって転落した、破滅型ミュージシャンの伝記とかドキュメンタリーって、何かモヤモヤするのは私だけでしょうか。

オーバードーズに堕ちいる理由は色々あるのでしょうが、心の弱さだろうが過酷な創作環境だろうが結局は自己責任。どれだけ好きなミュージシャンでも何のシンパシーも感じません(何より納得が行かないのは、そういうことを作品と結びつけて正当化するところ)

ポーグスのフロントマン、シェイン・マガウアンも、相当困ったドランカー&ジャンキーであることは何となく知っていました。

そんなヤツのドキュメンタリー映画なんぞ、どうせモヤモヤするだけだろうと思っていましたが、「ビギナーズ」を撮ったジュリアン・テンプルはロックドキュメンタリーの名手らしいことと、プロデューサーでもあるジョニー・デップ自身がインタビュアーとなって、今やもうヘロヘロ状態のシェインと直接対峙しているというあたりが気になり、観に行きました。

【堕ちた天使】

ポーグスとの出会いは3rdアルバム「堕ちた天使 If I Should Fall From Grace With God(1988)」でした。

CDの帯に記された「傑作です。聴くたびに涙がわいてくる感動的な歌だ!/ピーター・バラカン」という一文を見て、あのキング・オブ洋楽御意見番バラカン氏が「涙がわいてくる」なんてストレート過ぎる言葉で絶賛するバンドって一体どんな音楽⁈と、興味をそそられ、聴いたのでした。(ちなみにバラカン氏は、この映画の日本語字幕監修をされています)

ジャケ写でバンジョーやアコーディオンが写っていたことから、ザ・バンドのようなルーツミュージック寄りのロックを想像していたのですが、実際はちょっとちがいました。

土臭さは感じるものの、メロディの郷愁や哀感がアメリカンルーツとはちがっていて、それまでに知る音楽だとポルカが最も近いような、ヨーロッパの舞踏会を思わせる躍動感。

後にチーフタンズなどの、よりオーセンティックなバンドを知ったことでポーグスの個性がわかるのですが(シェインの歌は明確にパンクでした)ともかく今ならパッと聞きですぐそれとわかる「アイリッシュミュージック」を初めて知ったのが「堕ちた天使」でした。

そしてこのアルバムでポーグスと出会い、アイリッシュミュージックの「あの感覚」が身についたことで、その後の音楽がどれだけ楽しくなり、どれだけ力をもらえたか知れません。

【アイリッシュとパンクの融合】

1957年12月25日、シェインはイングランド南東部のケント州で、アイルランド人の両親のもとに生まれました。

典型的なカトリック人種であるアイルランド人(共和国)の彼は、奇しくもクリスマスに生まれたのです。

学校が休みに入る時期には、決まって家族とアイルランドで過ごしていました。

そして再び学校がはじまる時、いつも彼だけはイングランドに戻りたがらず、ギリギリまでアイルランドに居たといいます。

それほどにアイルランドを愛したのは、風土や文化や宗教の前に単純に「肌に合ってた」のだと思います。

劇中、彼は子供の頃の戦争ごっこについて語っているのですが、彼の役は例えばベトナム戦争ではベトコン、アイルランド独立戦争ではIRA(アイルランド共和軍)と、必ず蜂起する側を演じていたといいます。

てか、戦争ごっこってそーゆーもんか?ただただ敵味方に分かれてドンパチやって遊ぶもんちゃうのん?

平和な日本で生まれ育った私などには到底理解が及びませんが、こういう話を聞くと、もう子供の頃から反体制精神が宿っていたんだなと思います。

ハイティーンでパンクの洗礼を受け、自らもバンドを組みます。

1980年にThe Nipsというパンクバンドでデビューしますが、鳴かず飛ばずですぐ解散。

その後、ティンホイッスルやバンジョーなど、民族系の楽器を演奏する仲間たちと、アイルランドの土着音楽とパンクを融合させたバンドを結成。のちにポーグスとなります。

バンド名は元々「Pogue Mahone」でしたが、この名前は問題ありということで、業界側からの要請でPouges(ポーグス)に変えさせられました。

どう問題ありかというと、その言葉の意味はゲール語で「オレのケツにキスしろ」



アイリッシュとパンクの融合って…そっち⁈

【オレは自分が大好きだ】

映画のサブタイトルが表すように、シェインは「厄介者」です。

まあ社会生活不適合者のジャンキーですから、そう呼ばれて然るべきかも知れません。

だけどそんなのは他人の目に過ぎず、シェイン本人はどこ吹く風。おとといきやがれ!てなもんです。

劇中、そのことを象徴的に示す彼の発言があります。

色んなトラブルの蓄積により、とうとうポーグスをクビになり、ますます無秩序に暮らすシェインに、あるインタビュアーがこのような問いを投げます。

「(世間からは)酒とドラッグのせいであなたがダメになったと見られています」

それに対し、シェインはもうスッカリ抜けてしまってあまり残ってない歯から空気を漏らしながらこう答えます。

「ダメかどうかはオレが決める、オレは自分が大好きだ」

これはガツンと来ました。この人の根源的な明るさというか前向きさは、ほとんどこの言葉に集約されています。

彼はおそらくポーグスで成功をおさめるずっと以前から、今でいう自己肯定感がチョモランマよりも高かったのでしょう。

5歳から酔いどれていようが、せっかく奨学金を得て入学したエリート校で生徒にドラッグを売って退学になろうが、クラッシュのライブで観客の女の子に耳を噛みちぎられようが、そんな自分が大好きだった。

本当に大好きかどうかはどうでも良くて、他人に向かって「オレは自分が大好きだ」とハッキリ言うことが行動原理なのだと思います。

だからこれほど破滅的な半生なのに、見ていて元気が出るのでしょう。

もっとも「破滅」なんてのも相対価値、きっとシェインなら「オレは破滅してない!」と言うことでしょう。

【映画に登場する名曲たち】


最後に、映画に登場する曲の中から、ポーグスにとって特に重要であり、個人的にも大好きな曲を紹介します。

♪「ブラウン・アイの男」
(A Pair Of Brown Eyes)

夏の夕暮れ。酒場で大酒を食らっていたら、居合わせた爺さんから戦争体験談(おそらくアイルランド独立戦争)を延々と聞かされる歌。「茶色い目玉」は戦死者の目と思われます。


♪「ダーティ・オールド・タウン」
(Dirty Old Town)
ドノ・ヴァンもロッド・スチュワート歌っているブリティッシュフォークの名曲。オリジナルはイワン・マッコール。寂れたガス工場跡でキスをするというシチュエーションが印象的。


♪「ニューヨークの夢」
(Fairytale Of New York) 
ポーグス最大のヒット曲にして歴史に残るクリスマスソング。アイルランドからニューヨークに移住した男女の挫折。クリスマスイヴに酔って留置所に入れられている男が彼女のことを思い出す導入部から、カースティー・マッコールとのデュエットパートでは蜜月を経て最終的に「あんたは呑んだくれのクズ!」「お前はヤク中の売女!」と酷い罵り合いになる。


♪「夏の日のシャム」
Summer In Siam

タイトルどうりシャム(タイ)で過ごした夏のある日を歌った歌。この曲が収録されている5thアルバム「ヘルス・ディッチ」を最後に、シェインはバンドをクビになります。

2018年1月15日、ダブリンのナショナル・コンサート・ホールで行われたシェインの60歳を祝うコンサート(ボノ、シンニード・オコナーをはじめ、アイルランドやUKの名だたるミュージシャンがシェインの曲を演奏)でシェイン自身がこの「夏の日のシャム」を歌っている場面が映画に登場します。

車椅子に乗り、声を出すのもやっといった様子でしたが、過去の思い出に浸るような優しい表情でゆっくりと歌うその姿を見ていると、この人は過去を悔いてないんだなと思い、何だか清々しい気持ちにさえなりました。

出典:

映画「シェイン」公式劇場パンフレット

ピーター・バラカン『BARAKAN CINEMA DIARY』#14 誰もが「ザ・ポーグズ」シェイン・マガウアンを好きになる! 『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』

映画『シェイン 世界が愛する厄介者のうた』公式サイト

シェイン 世界が愛する厄介者のうた : 作品情報 - 映画.com

If I Should Fall From Grace With Godイフ・アイ・シュド・フォール・フロム・グレース・ウィズ・ゴッド – The Tune I Love So Well

Pair Of Brown Eyes, Aア・ペア・オブ・ブラウン・アイズ – The Tune I Love So Well

The Pogues/Summer in Siam ポーグス「夏の日のサイアム」 バンドの崩壊とゴールデン・ドロップ : BPM ネバー・ダイ

Dirty Old Townダーティー・オールド・タウン – The Tune I Love So Well

Fairytale Of New York, Theザ・フェアリーテール・オブ・ニュー・ヨーク – The Tune I Love So Well

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