『Range』文型練習で語学が身につかない理由
冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?
さて、今日は「レンジ」と言うのですが、要するに「幅」という意味ですよね。そういうタイトルの本です。これは今朝読み始めたばっかりなんですけど、第4章が「速く学ぶかゆっくり学ぶか」というところで、教育に関する章です。これが鼻血が出るほど面白いので、まだ第5章以降は読み終わっていないんで、全体の割合でいうと3割も読んでないぐらいだと思います。なのでこの本全体の評価はできる状況ではないんですが、この第4章は少なくとも教育に関わる方にはとても面白いと思いますので、読んで欲しいと思っています。
まず皆さんに聞いてみたいんですが、「レンジ」というこの本、サブタイトルが「知識の幅が最強の武器になる」なんですね。この本を読んだことがある人がいらっしゃったらチョキで反応いただければと思います。読んだことがないという人はグーで反応頂けますか。ほとんどの人はグーですね。チョキは一人もいませんね。皆さんはグーなんですね。
今日のタイトルは「文型練習で語学が身につかない理由」にしていますが、その答えがまさに書いてあるんですよ。
まず第1に、文型練習では語学が身につかないということはもう色々な研究で明らかになっていますね。分かりやすいもので言えば、去年の日本語教師ブッククラブ大賞を受賞した「第二言語習得について日本語教師が知っておくべきこと」という小柳かおる先生の本ですね。その本にも実証的なデータが載っていますが、 要するに文型練習をすると、短期的にはすごく「やった感じ」があるんです。「身についた」という感じもあるし、達成感もあります。だけど長期的にはそれが全然身に付いてないということが分かってきたんです。それについてはここにいらっしゃる方は皆さんご存知だと思いますけど、その「理由」がこの本を読んでいてわかってきたんですよ。
どうしてかと言うと文型練習というのは、与えられた課題をこなすのには役に立つんですが、実際の会話とか実際の文章を書くときには「どの文型を使うか」という選択が必要なんですよね。だけど文型シラバス(文型ごとに別々に練習するタイプの語学教育の方法)だと「今はどの文型を使うべきなのか」という練習が圧倒的に足りないんですよね。なので結果的に実際に使わなければいけない時にその文型を思い出すことができないわけです。だってその練習をしてないわけですから。文型の代入練習とかはしているわけですが、「今はどの文型を使うべきか」とか、それを選ぶ練習は文型シラバスだと圧倒的に足りないので実際には語学が身に付かないということになるんじゃないかと思います。
これはこの本を僕が読んだ上での解釈なので、やっぱりこの本に書いてあることを引用してみたいと思います。書き言葉を読みますので聞きにくいと思いますが、少し引用しますので聞いてみてください。
「全く同じ問題」と書いてありますけど、いろんなタイプのたくさんの問題があるわけですね。ブロック練習というのは、それをタイプ別に分けて、まずはこのタイプ、そしてその次にこのタイプ、と分けて勉強します。そうして勉強した人と、それを分けないで勉強(多様性練習)した人では、分けないで混ぜて勉強した人の方がテストの成績が良かったということなんですね 。
「多様性練習をした学生たちは様々なタイプの問題を区別する方法を学んだ」と書いてあるんですね。これがまさに文型の勉強をすると、その文型の使い方はわかるけど、どの文型を使うかが練習できないということと非常に似た構造になっていて、そこの部分で繋がっているんじゃないかと思います。別の例がたくさん出てきますから、もう一つ引用してみたいと思います。
ここでも多様な練習に取り組むと、特定のシナリオでは成績は良くないけど全く新しいシナリオに取り組むときはブロック練習よりもいろんな練習を混ぜてやった人達の方が成績がずっと良かった、大勝したというわけですね。
しかし、学生からの評価は違うんですよ。これも本当に文型練習と、つまり文型シラバスと、そうじゃない例えば行動中心アプローチなどに関するものと学生からの評価と非常に似ているんです。ここも引用してみますね。
これは日本語教育の文脈にすると、行動中心アプローチよりも文型シラバスの方が学生がよく学べたと回答しているということに対応していると思います。
でもこれに続いてるんですね。「しかし80%の学生の成績はそれが真実でないことを示していた。結局のところ学びの感覚は目の前の進歩に基づいている。しかし深い学びは目の前の進歩とは異なる」と書いてあります。
これも日本語教育の文脈に置き換えて言うと、実際の成績、少なくとも長期的な成績は文型練習の方が悪い。そうじゃない方の、たくさんのインプットをしている方が実際の言語習得は進んでいるということと全く同じように対応していますよね。かつ、だけど学習者にとっては文型練習をした方が達成感があって 勉強した感じがあるということと、全く同じように対応していると思います。
これと似たようなことをまた別の所から引用してみますね。
と書いてあります。これもまずどんなタイプの問題を解明するかに頭を絞るというところも、語学の場合はそれを一瞬でやらなければいけないわけですけど、まずどんな文型を選ぶかということを考えなければいけないわけですね。そしてその文型にどういうボキャブラリーとかは当てはまるかということ考えるかということですけど、そこに対応していますよね。
学習者の反応についても続いて書いてあって、
という風に言っています。これも学習者の評価が文型シラバスで文型練習をたくさんやると「あー勉強した!自分は成長した!自分は日本語を習得している」と感じるわけですが、これまでの研究から言うと、実際には間違っているわけですね。
そういうことがまとまっているという意味で、この本は非常に面白い本です。今日は第4章について紹介をしてみました。今日引用したのは全部第4章です。それ以外にも学習とか教育に関するところで本当に面白い気づきがたくさんあります。第1章から第3章の間にもすごく面白いことが色々書いてあります。それでそれがこの著者の個人的な体験とか経験ではなくて、ちゃんときちんとした実証的な研究を引用していて、もちろん参考文献でそこへのリンクが貼られたりしているので、特に養成講座で新しい人に教える人とかには役に立つと思います。
現場で日本語を教える人にももちろん役に立ちますけど、現場で日本語を教えるだけだったら参考文献とかわざわざ示さなくても自分の実践でこれをそのままやればいいわけですけど、この本はいろいろな参考文献とかもあって養成講座とかでこれから日本語教師になりたい人に参考資料とかもつけて紹介したりする場合にとても役に立つと思いますので、そういう人にもお勧めしたいと思います。
それでは今日の「むらスペ」はここまでになります。今日もご参加くださいましてありがとうございました。
そして冒険は続く。
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