中竹竜二『リーダーシップからフォロワーシップへ』
冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?
さて、先日『リーダーシップからフォロワーシップへ』という本をアマゾンの日替わりセールで400円ぐらいで購入しました。安売りだから買ったというのが正直なところで、それほど大した期待もしていなかったのですが、前書きを見た途端にこれはアタリだと思いました。
なぜかと言うと、僕が普段の自律学習のコースとかハナキンなどでやっていることが非常に明瞭に言語化されていると分かったからです。しかもそれだけではなく、僕の仕事の仕方と驚くほど共通するところがありました。
著者は、早稲田大学ラグビー部監督の中竹竜二さんです。 現在はラグビー関連の全国規模の団体の仕事などもされているようですが、この本では早稲田大学ラグビー部での話が中心になっています。この本ではご自分のことを「日本一オーラのない監督」と紹介されています。
それでは以下に、例によってハイライトしたところを引用しながらご紹介しましょう。
まず最初に、フォロワーシップとは何かということですが、本人はこのように説明しています。
極端にいえば、フォロワーシップとは、どうやって目の前の若者を教育すべきかを考えるのではなく、どうやったら彼らは自然と勝手に成長してくれるのかを、突き詰めて考え抜くことである。
つまり自律学習そのものですよね。 相手が成長する環境を整えることが役目であることは教師だけではなく体育会系のクラブの監督も同じであるようです。
ただ辞書的には、「フォロワーシップ」というのはリーダーシップの反対で、例えば Wikipedia には「フォロワーシップ(英: followership)とは、組織・集団の目的達成に向けてリーダーを補佐する機能・能力。」と書かれています。
先ほど書いたように中竹監督はご自分のことを「日本一オーラのない監督」と説明していらっしゃいますが、これも自律学習の教師としては非常に重要な点ですよね。このようなスタイルは自律性を促すためにはとても重要ですが、それ以外に中竹監督は「単純にいえば、オーラのないリーダーは情報をたくさん仕入れることができる。」という利点も挙げています。カリスマ的な人には自分のことを話したりできませんから、当然ですよね。
【学習者一人ひとりの学習方法の提案】
次にスタイルの重視について。
私の指導方針として、リーダーの私がスタイルを持つことはもちろん、選手たちにも、自分なりのスタイルを持つことを奨励している。
リーダーがやるべきフォロワーシップの最も大きな命題は、フォロワー一人ひとりにスタイルを構築させることである。
これは僕も自律学習コースなどの最初に、自分の好きな勉強方法を突き詰めることをお勧めしています。人によっては昆虫採集かのように漢字ばかりたくさんリストを作ることが好きな人もいれば、自分のレベルよりもはるかに難しいライトノベルを時間をかけて解読していくのが好きな人もいます。こうすることのメリットは、何をやるのかと悩む時間を短くすることにより、限られた時間の中で最大限に効果的に学習を進めることができるということにあると思います。
語学の自律学習の場合で言えば、例えば通勤や通学で運転時間が長いような人は Podcast のような耳を通して勉強する方法が適しているでしょうし、逆にバスや電車で座って移動できる人は膝の上に教科書を開いたり、あるいはタブレットやスマホを見ながら勉強することも可能になるわけで、人それぞれの環境や好き嫌いに合った学習方法を提案することができるのは、語学の教員にとっても非常に重要なスキルだと思います。
【スマート面談】
それから僕が個人的に非常に驚いたのは、中竹監督は個人面談もかなり時間をとって実施していることです。
フォロワーをしっかり育てるために、フォロワー自身がスタイルを構築することがとても大切である。そのための一つの有効な手段として個人面談がある。
僕自身がやっている個人面談でついては、 以下で説明していますのでご興味がある方はご覧ください。
むらログ: スマート面談こそが人間の教師の仕事
http://mongolia.seesaa.net/article/474614552.html
上記の記事で僕が書いてるように、中竹監督も選手の一人一人の情報を調べて準備しておくことの重要性を強調しています。
そのためには当然であるが、面談を行うリーダー側は膨大な準備が必要となる。私自身が心がけていることは、面談の前に、必ずその対象者の過去の努力の結果を下調べする。例えば、ウェイト・トレーニングの数値であったり、メンバーボードの実績(1軍、2軍、3軍、4軍……)。試合毎に個々の選手のパフォーマンスの数と精度を評価したプレイ分析表というものに目を通す。
アナログな教員にとってはなかなかこれだけの情報を個人面談の前に集めることは難しいので、そこを電子化して、学習管理システムなどを利用して自動的にこれらの情報が集められるようにしようというのが、僕の提案している「スマート面談」です。中竹監督のICTリテラシーについては僕は分かりませんが、130人の選手の全員と毎シーズン何回も個人面談をしているということなので、おそらくアナログな処理では難しいのではないかと思います。(あるいはアシスタントを雇えば可能かもしれませんが)
僕自身は個人面談の場合に学習者の個人データを把握しておくことは、アドバイスなどをより正確にできるようになることを目指していたのですが、中竹監督はそれ以外にもこのようなメリットを書いています。
まず、面談相手が壁を作っていたら、懐に入ることは無理だ。だからこそ、二人の間にある壁を取り除かなければならない。壁を取るには信頼関係しかない。では、どのような信頼関係か。
それは、面談相手が「自分のことをちゃんと理解してもらえているんだ」と思える瞬間である。だからこそ、面談相手に対する入念な準備が必要なのだ。
つまりアドバイスの内容などよりも、情意フィルターを下げることを目的にしているわけですね。
僕の個人面談よりも優れていると思った点は、「事前に課題を出しておいて、それを個人面談の時に選手にプレゼンさせる」というアイデアです。
例えば、2008年度、春シーズンの個人面談の課題は次の四つであった。毎年、4月から5月にかけてやるのだが、1週間ほど前に課題は提示した。
1.昨年1年間の成果
2.春シーズンで克服したいこと
3.春シーズンで極めたいこと
4.自分のスタイルについて
一人が監督との面談を行う時間は、 10 分から 20 分間。基本的には、前半は学生に提示した課題をプレゼンテーションさせる。
自律学習コースの場合も、学習者にこれまでの成果や、現在の課題や、今後の計画などをその時に話してもらうというのはとても大切なのではないかと思います。
【学習者コミュニティーの重視】
中竹監督は、選手同士のコミュニケーションも非常に重要視しています。ここでは「チームトーク」という言葉が使われていますが、この本ではこのように書かれています。
ワセダラグビー部におけるチームトークとは、練習中や試合中に、プレイとプレイの合間を縫って、円陣を組んで短時間で行うメンバーミーティングである。私の指導では、全ての練習メニューにこのチームトークの時間を組み込んでいる。(中略)私の場合、練習がうまくいかなくても、「魔法の言葉」を与えることができないので、まず「はい、じゃあ、チームトークして」と選手たちに原因追求を委ねる。選手たちは、即座に円陣を組み、ああでもないこうでもないと議論を始める。そして、また同じドリルをやってもらう。(中略)すべてのプロセスにチームトークのような話し合いの場を作ることは、スピードが求められる環境ではとても非効率である。しかし、長期的な視野で考えるとフォロワーの基礎力に加え、対応力や応用力といった力が養われるため、伸びしろの大きな組織作りが可能となる。
この学生同士のコミュニケーションについては何度もこのブログに書いているのですが、実は日本の大学などでは、 「最悪の場合、卒業まで一度も他の学生と一緒に何かを成した経験がないまま多数の学生が就活を迎えることになる。」なんてことが心配されているぐらい、学生同士の交流がないようなのです。 この件については、以下の記事や講演で話していますのでここでは詳しくは書きませんが、ご関心のある方はご覧ください。
むらログ: オンラインで友達は作れる。それは教師の義務
http://mongolia.seesaa.net/article/477243627.html
要するに、日本の高等教育機関では学生同士の共同体を作ることがほとんど重要視されていないようで、少なくともそれを育てることを教員の仕事だと認識していない当事者たちの発言が大量にあるのですが、中竹監督はこうしたコミュニティを作ることの重要性をよく理解して、そのために多大な努力を払っているようです。
以上、駆け足でこの本について僕の思うところをご紹介してきましたが、実は来週の「#日本語教師チャット」でも、もしかしたら個人面談がトピックになるかもしれません。現在以下で投票を受付中ですので、 Twitter をお使いの日本語教師の方はぜひご投票をお願いしたいと思います。
そして冒険は続く。
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【参考資料】
中竹 竜二 「新版 リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは」
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むらログ: スマート面談こそが人間の教師の仕事
http://mongolia.seesaa.net/article/474614552.html
むらログ: オンラインで友達は作れる。それは教師の義務
http://mongolia.seesaa.net/article/477243627.html
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