教育バウチャー
冒険家の皆さん、今日もラクダに揺られて灼熱の砂漠を横断していますか?
さて皆さんは教育バウチャーというものを聞いたことがありますか。
先日 Twitter のアンケートで聞いてみたところ7割りぐらいの人が聞いたことがないということでした。
しかしこれは日本の移民政策にとっても非常に重要な概念だと思いますので今日はこの教育バウチャーについて簡単に書いておいてみたいと思います。
まず最初に僕がこの概念に出会ったのは
ミルトン・フリードマンの「資本主義と自由」という本を読んだ時のことでした。
簡単に言ってしまうと、政府が子供に教育を受けるためのクーポン券を配って、子供や保護者は自由に教育機関を選び、教育機関は集めたクーポン券の数によって政府から学費を受け取るというものです。
Wikipedia には以下のように書かれています。
「教育バウチャー(きょういくバウチャー、英: school voucher, education voucher)は、私立学校の学費など、学校教育に使用目的を限定した「クーポン」を子供や保護者に直接支給することで、子供が私立学校に通う家庭の学費負担を軽減するとともに、学校選択の幅を広げることで、学校間の競争により学校教育の質全体を引き上げようという私学補助金政策。」
ただ、僕の記憶ではフリードマンは公立校も私立学校も同じように扱われるとされていたように思います。
海外ではいろいろな国ですでに教育バウチャー制度が実施されていて、例えばオランダは1917年から今もこの制度が続いています。もう100年以上前から実績があるわけですね。 オランダにはイエナプランやモンテッソーリなど多様な教育機関があることで知られていますが、その背景にはこうした制度があることが重要なのではないかと思います。その他にもチリやイギリスやニュージーランドなどでこの教育バウチャー制度が取り入れられているそうです 。
日本では2006年に検討されましたが、文部省に潰された経緯があります。
さて、僕が今日ここで申し上げたいことは、義務教育段階ではなく、これから急増すると思われる移民への日本語教育に、この教育バウチャーを使うのはどうかという提案です。
Twitter などでも僕はよく「国家予算を移民のための日本語教育に投入すべきだ」ということを申し上げていますが、その方法の一つとしてこの教育バウチャーはどうかと思っています。本来でしたら旧「国際学友会」(現「東京日本語教育センター」)などのような公立の日本語学校をどんどん立てるといいと思うのですが、そのためには建物を準備したり学校という組織そのものを作らなければいけないので、かなりの時間と手間が必要です。しかしこの教育バウチャー制度なら、実際に日本語教育を行うのは今すでにある民間の日本語学校でもいいわけですから、そうした時間は全く必要ありません。すぐにでも始めることができるわけです。
国際結婚や難民などはちょっと違いますが、日本政府が最近公式に受け入れを開始した外国人労働者は、日本の労働力が足りないという問題を解決するために日本政府が始めている制度なので、当然、この制度によって来日する人たちの日本語教育も日本政府が責任を持って行うべきです。 今のところ民間に丸投げ状態になっていますが、零細企業などで作る監理団体にそのようなノウハウがあるとはとても思えませんし、監理団体の中には受入団体とグルになって外国人労働者を搾取する例がいくつも報道されていて、相手を支配して搾取するための日本語教育が行われてしまうという懸念もあります。
従ってドイツなどのように国家予算を社会統合のために大規模に投入する必要があります。日本で言えば日本語教育に国のお金を使うということです。そしてそのためにこの教育バウチャー制度が効率的で良いのではないかと僕は思っています。
先ほど移民に対する日本語教育は国の責任であると書きましたが、これは別に福祉事業として行うべきということではありません。というのも、移民に対する日本語教育に税金を投入したとしても、その移民が日本社会に受け入れられて納税者になってくれれば、簡単に投入した以上の税金を回収することができるからです。つまりお金がもったいないから日本語教育をしないという理由はありません。むしろお金がないからこそ、税収を増やすために必要な政策なのです。
逆に今こうした日本語教育を公的の予算で正式に始めないと、ヨーロッパが後悔しているように20年か30年後に社会の深刻な分断をもたらしてしまいます。今からきちんと準備をしておけば、カナダのように活気のある統合されて社会を維持することができるでしょう。ヨーロッパのようになるか、カナダのようになるか決めるのは今を生きている僕たち以外にありません。
そして僕たちの世代の中でも、移民の皆さんに一人の人間として向き合っている人たちは日本語教師以外にはいないのです。日本語教師が自分たちで声を上げなければ、日本語教育を通して移民の皆さんを社会に統合し、活気のある未来を作ることはできないでしょう。
そして何よりも国家予算が日本語教育に投入されることにより、日本語教師の待遇を改善することもできます。僕たち日本語教師自身のためにもなりますし、共同体の統合を維持するという意味で社会にも大きく貢献することができるのです。
最後にドイツ在住のたこさんが2018年5月15日に投稿していたツイートをご紹介します。
@takochan_de
「今年のデモでベルリンのドイツ語教師達は、時給(45分)44€を勝ち取ったらしい(日本円にするには130かけてね)。「マトモな金額払え!電気工事や水道工事の人にはもっと払うだろ!」って。」
ここに出ている44ユーロは今日のレートでは6000円を超えます。45分で6000円以上なのですから、60分にすれば8000円を超える時給を受け取っていることになりますね。これもドイツでは移民などへのドイツ語教育に国家予算が大量に投入されているからです。
日本国内の日本語教師のみなさん、是非声を上げてください。社会のために日本語教育が必要であり、そのためには今のような民間やボランティアだよりの体制には大きな限界があります。社会の分断を防ぐためには今この時点で国家予算を日本語教育に大規模に投入する必要があります。それを僕のような海外在住の人間が言うのではなく、日本国内で苦労している日本語教師の皆さんに自分自身の声として言っていただきたいのです。それは皆さんの待遇を改善することにつながりますし、僕の故郷である日本の社会統合のためにも必要なのです。
そして冒険は続く。