SDGsブームを弱者の台頭と捉えてみる
「サステナビリティ経営」「パーパス」「SDGsへの取り組み」と大企業を中心にこの数年で急速にSDGsブームーーより正確にはサステナビリティへの注目ーーが起きている。しかし、急に「パーパスをもっとアピールするように」「当社のSDGsへの取り組みをちゃんと伝えていきたい」と経営陣に言われたところで、”一体何故急にそんなことを言うのか?”が納得できないとマーケティング部隊も施策の目的が設定できないだろう。
SDGs・サステナビリティ関連では、様々な思惑が複合的に重なった結果の複数のブームの集合体であり、1つの理由で俯瞰することが難しいのだが、一つの視点として「弱者と思っていた人たちが弱者ではなくなってきたことへの対応」と捉えてみたい。
SDGs・サステナビリティを急速に広めたプレイヤー
様々な思惑が重なったと述べたが、主に以下のプレイヤーが存在し、彼らにとって都合の良い視点で情報発信される。従って書籍から得られる情報や記事から得られる情報も常に発信者の立場を割り引いて考察する必要がある。
・世界の国の均衡を保ちたい国際連合UN
・エコ関連市場で競争力を得たいEU
・社会問題解決を唱えるNGO
・エコ関連で新しい企業評価指標を提唱したい監査法人系コンサル
・エコ関連で新しい投資商品を作りたい投資関連企業
・新しいブームに乗りたいマーケティング支援会社各社
気候変動への対応や発展途上国の過酷な労働者環境は今に始まったことではなく、日本でも公害対策、ゼロエミッション、LOHAS、ディーゼル車推奨とガソリン車規制など、90年代から様々な形で問題提起或いはポジショントークが行われてきた。提唱されている内容自体については、本質的に変わっていないと認識して問題ない。
一方で、今回のブームが一過性なのか?中長期的な現象になりうるのか?何故、大企業が日本政府より先に注目し始めたのか?については慎重に見定める必要があり、私は一過性では終わらないだろうと見ている。
特に、国が法規制で対応すべき環境問題について何故企業側が利益を削ってまでサステナビリティに取り組まないといけないと判断しているのか?を知る必要がある。
企業がサステナビリティを重視するに至った幾つかの社会背景
一番のポイントは、「発展途上国の声が大きくなった」ことだ。
ファブレスメーカーにとって工場の労働環境の問題はサプライヤーの責任であり、途上国で過酷な労働を強いているかどうかを全てのサプライヤーを確認するコストはかけてこなかった。しかし2015年にユニクロのサプライヤーの労働環境改善が問題化し、ユニクロが改善することを約束したことは記憶に新しいだろう。
発展途上国の労働環境問題は、プランテーション・モノカルチャー経済の問題点として教科書に載るくらい古くから認識されてきたが、完成品メーカーが取り組むべき問題としては認識されていなかった。
同様に、海洋プラスチック問題も、日本は廃品回収で集めたペットボトルを中国に送りその後のリサイクル方法については関知してこなかったが、中国が先進国化してきた中で、廃棄ペットボトルの受け入れを拒否したニュースも話題になった。海洋プラスチックは処理をする国だけでなく、処理後海を漂って別の国でも汚染の問題になるのだが、各国が先進国の見て見ぬ振りを問題視し始めた。
他にも国連環境計画が途上国で環境汚染になっている輸入中古車問題のレポートを出している。
https://www.eic.or.jp/news/?act=view&oversea=1&serial=44553
このように長く発展途上国側に実質的に押し付けてきたーー押し付けていたという認識すらなかったようなーー問題が、問題化される程に発展途上国側の声が大きくなってきたため、完成品メーカー側も批判を無視できないようになってきた。
労働環境・廃棄物に加え、人種面(マイノリティ面)でも大きな事件があった。D&Gが中国文化に失礼なプロモーション動画を作ったことが人種差別であると炎上した。
マイノリティへの配慮不足が炎上することも増えているため、サステナビリティの問題は環境汚染や労働環境改善だけでなく、多様性も対応範囲に含まれている。
炎上事例は主に中国ではあるが、今後、発展途上国から先進国に以降する企業が続く中で、同じ用に各途上国に押し付けてきた問題が表面化し問題視されることは予想のできることだ。
グローバルでサプライチェーンが広がる商社が掲げている配慮事項を見ると、企業が何に注意しているのか見えてくるだろう。
未来の先進国である途上国に配慮しないと資源の調達が難しくなる
途上国へ配慮しないと一部の国からしか取れないレアメタルや化石燃料の調達が今後難しくなることは用意に想像できる。しかし、問題は一部の資源に限った話ではなく、あらゆる資源がグローバルに連続する調達の中で関連するのであり、日本には豊富にある水資源も、日本が輸入品に頼る限りその先の国で水資源不足に悩まされるという形で連続した問題である。
例えば今半導体の供給不足だがその背景には半導体製造大手のある国で水不足が起きていることが影響している。
このようにサプライヤー側で資源の枯渇と対峙する形になる。
以上が、企業が何故、サステナビリティを意識しなければならないかという背景だ。
これまで弱者だと思っていたーー意識すらしていなかったーー途上国やマイノリティの声が意味を強く持つようになった結果、企業が対応しなければ炎上する時代になったと理解すると、何故自社がサステナビリティに注目するのか、何故社長はアピールせよと必死に言うのかの意図がわかるのではないだろうか。
その他のポイント
上記は、大枠の背景で、これらを契機に様々な事象が連関して発生している。
欧州がグリーン・ディールでCO2削減を特に重点項目としてアピールすることでヨーロッパ企業の復権を狙おうとしていたり、会計の報告を四半期ではなく20-30年の中長期的視点に変えるよう法制度を変え始めていたり、エコ関連の指標を作りそのコンサル費を狙う企業やエコ関連の優良企業が長期利益を出すとアピールする投資商品など、その他の事象については、それぞれの立場の人が本を出しているのでそちらを参照して頂きたい。
特に事業担当者やサプライチェーンマネジメント担当者は、サステナビリティへの配慮を「コストをかけて行うこと」という視点ではなく「利益を出せるようにサステナビリティを確保すること」という視点で捉える必要もあるだろう。例えば、次に上げる本はサステナビリティへの取り組みをかなり広く捉えて、サブスクリプションモデルが無駄な資源廃棄の削減に繋がるという視点を与えていて面白い。
また、こちらの本は投資家や会計ルールのゲームチェンジが始まっていることが非常に参考になる。
また、日本国民としては、サステナビリティに配慮したブランドを積極的に選定し、サステナビリティ配慮企業の国内マーケットを育ててあげることも、日本に法人税を収める日本企業の成長を促進することになるので、国を上げてこの新しいゲームチェンジに対応するという意味で大事なことだ。