ご当地ソングは日本を元気にする?
はるか昔の1980年代初め、勤め人だったころの話です。仕事の付き合いで行ったカラオケで、私がよく歌っていたのは「舟唄」(八代亜紀)でした。
単純に歌いやすかったからです。とくに「しみじみ飲めばしみじみと~/想い出だけが行き過ぎる~」のところは、コブシをきかせて歌うと上手っぽく聴こえたので。
これぞ演歌、掛け値なしの名曲です。阿久悠・作詞、浜圭介・作曲。八代さんは翌年(1980年)に出した「雨の慕情」でレコード大賞を取るのですが、個人的にはこの「舟唄」こそがふさわしかったといまも思っています。
その後、演歌とは無縁となり、いつしか忘却の彼方に。オカリナを吹くようになって、つい最近、唐突に「こんな“ド演歌”を吹いている人はいるのだろうか?」とyoutube で検索してみると……意外にもたくさんいました。
歌うときは出だしの低音がむしろ魅力なんですが、オカリナの場合、キーは高めで吹いたほうがこの曲の良さを表現できるような気がしました。
それはともかく、「舟唄」に次いでよく歌ったのは「津軽海峡冬景色」(石川さゆり)。いうまでもなく、幅広い層から支持されている名曲です。オカリナの定番曲でもあります。
当時、カラオケではオジさんたちがよく歌っていました。楽曲の素晴らしさももちろんですが、同世代の「花の中3トリオ」(森昌子・山口百恵・桜田淳子)に人気で先を越され、ブレイクするまでにずいぶん苦労した石川さんの「出世物語」に共感して、ということも大きかったと思います。
いまや日本を代表する女性演歌歌手の一人であり、年末の紅白歌合戦では12回、2007年以降は「天城越え」と1年おきに歌唱している、まさに演歌を代表する楽曲といえるでしょう。
(リーナ★リーナ教室の講師いわさきかおりさん。安定の模範演奏です)
ご当地ソングは「地名のついた歌」ではない
「津軽海峡冬景色」はご当地ソングのくくりで語られることも多く、実際、青森へゆくとそこかしこでメロディを耳にする機会があります。
ご当地ソングとは、タイトルや歌詞に「地名・方言・その土地独特の風物などを織り込んだ歌」(大辞泉)。日本の音楽業界では大きなジャンルになっています。
たんに「地名のついた歌」ではありません。「津軽海峡冬景色」でいえば、歌の主人公は津軽海峡を渡って北海道へ帰る女性ですが、歌詞には青森駅、竜飛岬、津軽海峡があり、さらに、雪の中、海鳴り、こごえそうな鴎など具体的な描写がなされています。
つまり、地名を変えたら決して成立しない、明確な世界があるわけです。
お国自慢でもある「ふるさとの唄」は昔からありました。民謡です。
たとえば、「会津磐梯山」(福島県)は最初から、
エイヤー 会津磐梯山は 宝の山よ
笹に黄金が エーマタ なりさがる♪
で始まり、鶴ケ城(3番)、翁島(4番)とお国自慢が続きます。
ある限定されたエリアで熱烈に支持され、歌い継がれてきた楽曲は日本全国にあるわけです。言葉を変えれば、一定の需要が見込めるということ。戦後の大衆音楽の市場拡大ととともに、昔からあった「ふるさとの唄」の需要を見込んで「ご当地ソング」として売り出そうと考えた知恵者がいたのです。
その後の隆盛をみれば、名付け親の着眼はみごとというしかありません。
ドリカムもご当地ソングを歌ってる!
なお、ご当地ソングは地方だけではなく、東京や大阪といった大都市にもあります。当然のことながら、東京や大阪をふるさととする人はいるから。
一時期、関西のテレビで盛んにドリカムの「大阪LOVER 」が流れたことがあります。「大阪LOVER 」は、2007年3月にリリースされた38枚目のシングルで、もともとユニバーサル・スタジオ・ジャパンのアトラクション(ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド)のために書き下ろされた曲だったのです。
ドリカムもご当地ソングを歌うんだ、とびっくりしました。
前述のウィキペディアに出てくる「女ひとり」(永六輔・作詞、いずみたく・作曲)は鮮明に覚えています。高校生のころ聴いていたラジオからよくデュークエイセスの歌声が流れてきました。
京都 大原 三千院
恋に疲れた女がひとり♪
具体的な地名と恋に疲れた女性──お手本のよう歌い出しです。「津軽海峡冬景色」もそうですが、その後のご当地ソングの原型になっています。
(豊蜂さんのオカリナ)
社会人になってから京都へ出張のおり、わざわざ京都・大原の里を訪ねました。ご当地ソング、というより、名曲の力ってすごい!
ちなみに、ご当地ソングが多い都道府県ランキングというのがあって、それによると上位は、
1位・東京、2位・大阪、3位・北海道、4位・神奈川、5位・青森
となっており、青森の健闘(?)が目を引きます。
「柳ヶ瀬ブルース」の美川憲一さんをご“当地ソングの元祖”とし、43都道府県に足跡を残す水森かおりさんを“ご当地ソングの女王”とすることも。
魅力あるまちにはいい歌がある、だから、いまや死語となった感のある「地方創生」の一役をになう、後世に歌い継がれるご当地ソングの登場を期待したいですね。
地方を元気にするということは、日本を元気にすることですから。