“ナシ婚”時代のウエディングソング
6月といえば「ジューンブライド」。6月の花嫁は幸せになれる、というヨーロッパの古い言い伝えを引っ張ってきて、梅雨の季節で閑散期の結婚式を何とか盛り上げようとブライダル業界が広めたといわれています。
その意味ではクリスマスのケーキ、バレンタインデーのチョコレートと並んで、日本において成功した業界主導のイベント戦略ではないでしょうか。
結婚式をあげる月としては、昔もいまも5月と10月が一番人気で、やはり、気温・湿度が高くなる前や暑さが落ちつく、気候のよい時期が選ばれるようです。
いまや2組に1組が「ナシ婚」(入籍しても結婚式・披露宴はしない)といわれるご時世。披露宴の余興で歌われる“ウエディングソング”も淋しい状況なのかと思いきや、新しい定番曲・名曲が続々と登場して活況らしい。
昭和世代にとっては「乾杯」(長渕剛)、「てんとう虫のサンバ」(チェリッシュ)が超定番ですが、2000年代に入ってからは、とりわけ若い女性に人気なのが「Can you celebrate?」(安室奈美恵)、「Butterfly 」(木村カエラ)、「Der Bride 」(西野カナ)など横文字の曲が多いですね。
男女ともに人気なのが「家族になろうよ」(福山雅治)。さすがです。
ウエディングソングは、新たな門出をするふたりに贈る歌ですから、幸せな未来を願う、希望と愛の言葉がいっぱい詰まっています。なので、歌っている方も幸せのお裾分けというか、心があったかくなるのがいいですね。
教科書にも載った長渕剛「乾杯」
「乾杯」(1980年)はオカリナの定番曲でもあり、私も時折吹きます。小学校の音楽の教科書にも載り、長渕剛さんの代表曲です。
(笛吹きふんずさんのオカリナはいつもしっとりした音色です)
地元の友人が結婚するのを聞き、書き下ろした応援歌で、情感豊に朗々と歌い上げるスケール感がすごい。歌詞も一つひとつ力強く、メッセージがストレートに伝わってきます。そして繰り返される、
乾杯! 今君は人生の
大きな 大きな 舞台に立ち
遥か長い道のりを 歩き始めた
君に幸せあれ!
このあたりは歌っているうちに気持ちが高揚してきて、脳内に“幸せホルモン”が溢れだす──長年にわたり歌い継がれる理由がわかります。
「乾杯」からほぼ半世紀後に出た「Butterfly 」(2009年)は、結婚情報誌のCMソングとして一躍注目され、すぐに不動の定番曲となりました。
Butterfly から始まる歌詞は全体にファンタジーっぽく、主人公の花嫁をチョウになぞらえて展開されています。
メロディラインがきれいで、新婦の友人が歌えば会場が華やぐこと間違いなし。女性に人気なのも当然ですね。
Butterfly 今日は今までの
どんな君より 美しい
白い羽ではばたいてく 幸せと共に
Butterfly 今日は今までの
どんな時より 素晴らしい
赤い糸でむすばれてく 光の輪へ
運命の花を見つけた チョウは青い空を舞う♪
オカリナを吹くようになってすぐ、私もこの曲に挑戦しようと思い、楽譜を取り寄せたのですが、♯が4つもあって愕然、早々に挫折しました。
(関稔さんのオカリナ演奏リストはすごいです)
隠れた名曲五木ひろし「契り」
私がもし今後、誰かの結婚式に招待され、オカリナで一曲頼まれる日がきたらこれにしようと狙っているのがあります。
五木ひろしさんの「契り」です。
作詞・阿久悠、作曲・歌唱は五木さんご本人。地味だけど、ランキングにも入っていないけど、隠れた名曲といっていいでしょう。
最初に聴いたのは、映画「大日本帝国」(1982年)のエンディングでした。戦死した夫を思いながら海を見る夏目雅子さんの姿とともに流れてきた「契り」の歌に、暗い映画館のなかで泣きそうになったのを覚えています。
あなたは誰と契りますか
永遠の心を結びますか
波のうねりが岸にとどく
過去の歌をのせて
激しい想いが砕ける涙のように♪
戦争映画の主題歌という先入観があると、出征した兵士が祖国(家族や妻子ら)に寄せる思いを歌っているととらえがちですが、平和を願い、人を愛することの尊さを伝えようという普遍的なテーマを歌っています。
緑は今もみずみずしいか
乙女はあでやかか
人の心は鴎のように
真白だろうか
愛するひとよ 美しく
あいするひとよ すこやかに♪
五木さん自身もこの歌への思い入れは強いらしく、自著(『昭和歌謡黄金時代』)でこう述べています。
「もし私が死んだとしたら、五木ひろしをしのぶ曲としていちばんかけられる、そういうリクエストがもっとも多くなるだろう曲は『契り』ではないかという気がします」
(本島慎也さんの演奏はいつも素晴らしい)
と、ここまで書いてきて、ヤフーニュースをみたら「2022年版男女共同参画白書」に衝撃的な調査結果が出ていました。同白書によると、30代の独身者は男女とも4人に1人が結婚願望なしというではないですか。21年の婚姻数(速報値)も約51万4千組と戦後最少。
いやはや少子化も進むはずだわ。日本はどうなってしまうんでしょう? ウエディングソングもそのうち“伝承口芸遺産”になるかも……。