ふるさとに歌あり by Ocarina ①
熱き心の“青春賛歌” 時代を超えて
「栄冠は君に輝く」(兵庫県西宮市)
西宮市を知らない人はいても、甲子園球場を知らない人はいない。
高校野球の聖地・甲子園球場のある兵庫県西宮市の人が自虐(自慢も含む)を込めてよく口にするぼやきです。野球そのものに興味のない人が世の中にはいるから少し言い過ぎかもしれませんが、関西人はみな納得します。
1カ月ほど前、仙台育英(宮城)の優勝で幕を閉じた夏の甲子園。大会期間中はもちろん、その前から関西圏ではつねに耳に入ってくるのが「栄冠は君に輝く」のメロディです。
正式には「全国高等学校野球選手権大会」の大会歌ですが、いまでは一投一打に青春をかけるすべての高校球児への応援ソングとして定着しています。
シンプルかつ力強いメロディ。作曲した古関裕而は、2020年のNHK朝ドラ『エール』のモデルとして知られていますが、作詞者の加賀大介についてはあまり知られていません。
野球大好きの加賀大介少年は、試合中のけががもとで骨髄炎になり右足の膝下切断、野球を断念したのでした。「栄冠は君に輝く」には、ですから、野球に対する加賀の熱い想いが強く込められています。
「天高く純白の球」「風を打ち大地を蹴りて」「一球に一打にかけて」など、かつて憧れたグランドを駆け回る青春が綴られているのです。
「夏の甲子園大会」は、とにかくアツい。夏の盛りの炎天下で試合するわけですから当然なのですが、それだけではありません。
白熱した試合が多く、選手や出場チームはもちろん、スタンドのブラスバンド、親御さんや家族、故郷の応援、運営スタッフやメディア関係者、観客やファンまで、大会にかかわる人たちすべてがアツいのです。
高校球児の汗と涙、勝敗をめぐる光と影。一球、一打にかける気迫は筋書きのないドラマを生み、人々の感動を呼びます。運営のあり方について批判はあっても根強い人気があるのはそのため。
(笛吹きんずさんの無伴奏オカリナ)
思うに、夏の甲子園大会は一種の“パワースポット”なのでしょう。
ももクロやエグザイルのライブに行って元気になる人はいっぱいいます。万を超える人々の「楽しい」という想いがものすごいエネルギーになってあふれているからです。
帰る道すがらもグチグチと文句を言う人はおらず、友人と「楽しかったね、絶対また来ようね」と語り合っています。
夏の甲子園大会も同じです。勝っても負けても、勇気と元気をもらえます。
「栄冠は君に輝く」は、暑い、熱い、甲子園という「青春劇場」の通奏低音といえるのではないでしょうか。夏の甲子園大会が続くかぎり、先輩から後輩へ大切に歌い継がれ、語り継がれていきます。
記念館や歌碑のある福島(古関裕而)や石川県根上町(加賀大介)の人には申し訳ないけれど、「栄冠は君に輝く」の生まれ故郷は甲子園です。
(「ふるさとに歌あり」は不定期掲載)
「栄冠は君に輝く」 作詞・加賀大介 作曲・古関裕而
雲は湧き 光あふれて
天高く 純白の球 今日ぞ飛ぶ
若人よ いざ
まなじりは 歓呼にこたえ
いさぎよし ほほえむ希望
ああ 栄冠は君に輝く
風を打ち 大地を蹴りて
悔ゆるなき 白熱の力ぞ技ぞ
若人よ いざ
一球に 一打にかけて
青春の 讃歌を綴れ
ああ 栄冠は君に輝く
空を切る 球の命に
通うもの 美しく匂える健康
若人よ いざ
緑濃き 棕櫚の葉かざす
感激を 目蓋に描け
ああ 栄冠は君に輝く