見出し画像

私の純猥談 超々短編「赤い嘘と青い溜息」

悪い男、罪な男。私をその気にさせる癖に、火を付けた途端に、外方を向いてしまうのだ。なんて悪い男なのだろう。
今だって、私に火を付けさせておいて、自分は知らん顔をしている。まるで当事者では無い様な顔で、笑うのだ。なんだかそれも、大人の余裕に見えて煩わしかった。覗く八重歯も憎たらしくて、愛おしい。
赤く燃えた朝に、擬態する空っぽな天井が、無神経に問いかける。
答えならもう理解している筈なのに。どうして、幕を引く事が出来ないのか。
私の悪癖だ。「もう、潮時だ」なんて呟いても、青い溜息しか戻ってこない。
黙って着替えても、音を立てて扉を開けても、追いかけても来ないのだから。
「これで仕舞いだ」と、あと何回この扉を開けるのだろうか。
染みついた、セブンスターと貴方の汗の香りに嫌気が差した筈なのに、どうして嫌味をそのまま受け取れず、都合の良い解釈をしてしまうのだろう。
「次会う時は、地獄でね」なんて冗談でも言って欲しくないのに、この男は私を、とことん苦しめるのだ。失意の女は長い髪を切って、違う女に成ろうとするけど、憎らしい男の幻影に惑わされて、失敗に終わった。後何回、この扉を開ければ我に返るのか。賭けにならない賭けに、ただ胸が苦しくなって、堕ちていく。奈落の底は、私を逃してはくれないのだ。ただ黙って、赤い溜息を吐いた。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?