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「創る覚悟」と「面倒の壁」
新しいものを創る、こと。
これにはかなりの「覚悟」がいる、と私は思います。
「アイデアを出すのは簡単ですが、実行するのは難しい。」
「アイデアに価値はない、実行にこそ価値がある」
多くの人がこのように言いますが、それはなぜでしょうか?
その理由は、実行するのは、いろんなコストが発生し、それをやるために他のことを「やらない決断」をしなければならないから、だと思います。
考えてみると、人間って、面倒なことを無意識に避けてしまいますよね。
例えば、通勤の経路で、いつもと違う感覚を味わうために、違う経路で行ってみ流のはどうだろう、というアイデアを思いついたとします。
でも、少し遠回りしたり、山手線を反対回りしたり、それだけで達成するこの単純なアイデアは、ほとんど実行されずに終わると思います。
「今日は忙しいから、また今度にしよう」
「あれ、これって本当に意味あるのかな?もう一度考えてからにしよう」
「1回やってみたけど、何にも起きなかったからやめよう」
こんな感じで、すぐに面倒なことは排除されていきます。
だから、「実行する」「実行し続ける」ことに絶大な価値があるんだと思うのです。
そして、サービスやプロダクトを「創る」のも同じだと思うのです。
大手の企業で大々的にサービスが始まったかと思いきや、社会的に意義があるのに、結構盛り上がっていると思っていたのに、サービスが急に終わったりすることがありますよね。
これは経営者、事業責任者の「面倒だな」で打ち切られるようなものだと思ったりします。(実際は色んな理由があると思いますが)
儲からない事業を続けることは、サラリーマンにとっては特に、苦しいし、重たいし、面倒です。儲かる簡単なこと(既にあるサービスや、海外で受けているサービス)に集中する方が、費用対効果が圧倒的に良いのです。
でも、本当はみんながやめていくその先に、お宝があったりすると思いますが、みんないとも簡単にそれを諦めるのです。
一方で、それしかないスタートアップにとっては、イコール命であり、存在意義だったりするので、なかなか諦めが悪いです。
ゾンビのようになっても、生きているうちはその勝負ができると考えているフシがあります。(外部資金を入れなければ、ですが)
この意味で、新規事業は失敗しやすく(リリースが早い)、新しい事業が、起業家から生まれる1つの理由かな、と思います。
「面倒の壁」
私は、「創る覚悟」というのを最近特に意識しています。
「創る覚悟」とはなんなのか。それは、何度も来る、誰もがやめたくなる「面倒の壁」を乗り越え続ける、覚悟です。
何か新しいアイデアを作ると絶対に、「面倒の壁」が3回くらい(小さいものを含めると無数ですが)はくると思います。
感覚値ですが70%の人が1回目でやめ、25%が2回目でやめ、4.9%が3回目でやめます。(つまり、99.9%の人がやめる)
では、「面倒の壁」を超えるためにはどのようなことを意識しておけば良いのでしょうか?私は、必要なことは、3つだと考えます。
①1万時間やるまで、見込みがないと言わない、諦めない
②信念や命をかけられる対象であることしかやらない
③プロダクトを従えるのではなく、プロダクトに従う
①1万時間やるまで、見込みがないと言わない、諦めない
1万時間というのは1日15時間没頭したとして、666日を費やすくらいのボリュームです。多くの人がその1つのことだけをできるわけではないので、例えば1日2時間しか費やせないと、休日なしでも14年弱かかります。
でも、そこまで「センスがない」「才能がない」「できない」「見込みがない」とはいう理由を出来るだけつけないことが重要だと思います。
これは、私の子供にもいうのですが「『僕は、○○の才能がない』というのは1万時間早い」、と思うのです。それまでは「やりたいかどうか」だと。
これくらいの意識でいて、ちょうどいいかな、と思っています。
②信念や命をかけられる対象であること
これは重要です。ちょっと面白いとか、ちょっと儲かるとかそういうことを安易に対象にしてはいけません。1万時間も突っ込む対象なのですから。
そして、何かプロダクトを始めると、いずれ必ず競合が現れます。競合も必死です。そんな相手に対して、片手間や軽い気持ちでは絶対に勝てない、と思うのです。
だから、命をかけられるくらいの対象であるかは、一度自分に問う方が良いと思います。企業であれば、その担当者にそう考えられる人をつける方が良いと思うのです。
「命をかける」というとちょっと物騒な感じもしますが、違う言い方をすると「人生の中で5個しかできないとしても、その対象に含めるやりたいことか」という言い方でも良いかもしれません。
きっちり、時間をかけ、思い入れを持ち、誰に何を言われようと、無視されようと、唾を吐きかけられようと、やめない。
そう思える対象でなければならないと思うのです。
③プロダクトを従えるのではなく、プロダクトに従う
そして、一度やると決めたら、主役はそのプロダクトになるべきです。
多くの人が、プロダクトを作る人やオーナーが主従でいうと主だと捉えがちですが、これは間違っていると考えます。
プロダクトの理想像を描き、それに自分が雇われる感覚で仕事をしなければなりません。つまり、家来を選んでいるのではない、ということをきっちり把握すべきです。あなたの主を選んでいるのです。
能力が不足していれば、そのプロダクトに首を切られるのは自分なのです。その場合は、より良い能力を持つ人を連れてくることが、最善です。
プロダクトの内なる声を聴き、それを創っていくのであって、決して「自分が創りたいものを創るわけではない」んです。
自分がやりたいことだけをやるような感覚でいたら、「面倒の壁」は超えられないと思います。
「なぜ好きにやってるプロダクトなのに、こんなことをやらなければならないんだ」という発想になってしまいます。
違うんです、そのプロダクトはスタートした瞬間から、自分の主なのです。だから、そこに忠誠を尽くせるかどうか、が重要です。その覚悟をしなくて、「面倒の壁」は超えられません。
「仲間うちで楽しくやりたいから」、そんな理由ではダメです。
「自分たちが目立ちたいから」「楽をしたいから」、それは論外です。
「自分の夢を実現したいから」、それはわかりますが、まずプロダクトです。
主(プロダクト)のためになら、誰とでも面倒なケンカも争いも厭わず、主が「出陣」といえば出陣するし、「引け」と言ったら引くべきなのです。
そして、主が「切れ」と言ったら、たとえ自分が気に入っていても同僚・部下、例えば上司でさえも切る覚悟が必要なのです。(注:もちろん、本当に切るわけではありません。プロジェクトから外すとか、違う役回りに回すとか、そういうことです。)仲良しプロジェクトでは、これができません。
このような意識を持って最初から取りかかることが「面倒の壁」を超える手段であり、「創る覚悟」である、と私は考えています。
これのどれかが嫌なら、「創る」のは諦めた方がいいのでは、と思います。