ビジネス・エコシステムの企業事例:三井住友カード
ビジネス・エコシステムというと、〇〇経済圏が注目され、楽天やKDDIなどといったIT企業に目が集まっている。しかし、こうした企業は自社で完結するエコシステムであり、研究材料としては適切ではない。そのため、本記事ではクレジットカード会社の三井住友カードを取り上げるものとした。
また、ビジネスエコシステムに関する基本事項は以下の記事にまとめているため、ご参照いただきたい。
三井住友カードの概要
三井住友カードの概要とはしているが、企業概要ではなく事業領域の概要について説明する。また、企業の選定理由は、エコシステムを理解する上でクレジットカード会社は注目に足る業界であるが、三井住友カードは分かりやすく正解とも言える企業行動をしていると感じるためである。
初めに、クレジットカード会社の基本構造について軽く記述する。クレジットカード会社は、小売店事業者(EC含む)と消費者を決済機能によって結びつけるプラットフォーム事業者である。また、消費者は個人の場合と法人とに分けられる。
三井住友カードの提供する注目したいサービスは以下の通り。
・決済インフラとの戦略的提携
・販売促進サービス
・Vポイント
決済インフラとの戦略的提携
最初に、決済インフラとの戦略提携、である。決済インフラとは、IDやApple Pay、Squareなどとの提携である。つまり、他のエコシステムと融合することで三井住友カードのエコシステムにおける市場規模を拡大することができる。分かりやすいのは、Apple Payだろう。Apple Payは、米Apple社の提供するスマートフォンiPhoneやスマートウォッチApple Watchで非接触決済を使用するための機能である。つまり、挙げた端末で決済をしようとするならば、このApple Payに対応する必要があり、巨大な米Apple社の抱えるエコシステムを潜在顧客基盤とすることができる。IDやQUICPayも概ね同等の機能で、IDはNTTドコモがQUICPayはJCBが始めたサービスである。どちらも提携によって様々なカードや端末で使えるようになっているが、利便性向上によって契約者数を増やすことが目的だろう。
販売促進サービス
次に、販売促進サービス、である。これは小売店事業者(EC含む)のプロモーションをカード保有者に向けてプロモーションを行うというものだ。成果連動型広告をカードを保有する消費者に向けて、行うことで集客を担うというものだ。
ココイコ
実店舗に向けたエントリー式のポイントアップキャンペーン
ポイントUPモール
ECサイトに向けた常設式のポイントアップキャンペーン
Vポイント
基本的には普通のポイントサービスだが、注目すべきはポイント交換サービスである。例えば、以下の通り。
他ポイントへ移行
・Tポイント
・Pontaポイント
・楽天ポイント
・nanacoポイント
・ヨドバシカメラゴールドポイント
・ビックポイント
・スターバックスカード
・タリーズカード
マイレージへ移行
・ANAマイレージ
・その他
ポイントの交換レートは必ずしも1P=1円ではないため注意が必要だが、これもエコシステムの融合である。大規模な小売店は自社でポイントサービスを展開していることは少なくない。そのため、それらとのポイント交換機能はエコシステムの融合を意味する。執筆現在、支払いキャッシュバックが1P=1円、であることからポイント交換の活用はあまりないかもしれない。ポイントの還元に関するキャンペーンなどで利点があれば活用する価値があるだろう。
まとめ
エコシステムの構成する基本的な考え方として、構成主体全員が互いにビジネスパートナーと認識するというものがある。三井住友カードの場合、小売事業者(EC含む)は加盟店として大切にしなければいけない。また、消費者に対しても買い物をするから手数料が入るという意味で大切にしなければならない。そしてまた、クレジットカードによる基本的な利便性のみならず様々な価値を提供している。加盟店側には、クレジット決済端末機の開発やデータ分析支援サービス(マーケティング支援)などを提供している。消費者側にはVISAのみならずMaster CardやJCBなどの多様な決済ブランドへの対応、ポイントサービスなどを提供している。誰をお客様とするのかを正しく認識することによって、必要なサービスや事業が見えてくるという、マーケティングへの重大な示唆を与えてくれる。