アシッド飯は馴染まない

時は令和。
すでに飽和した食を樂しむばかりの我々地球人。
そしてその食生活に馴染みながら、
違和感なく在る異物。
日常に蔓延り、無意識下で私達を支配するそれは
アシッド飯───


おい、テメェ…“馴染んで”ねぇなァ。


第一話 邪魔飯の名を以て



俺の名前は邪魔飯 捨照(じゃまめし すてる)。
ただの平凡なオッサンだ。
俺は邪魔飯家の末裔なんだけど、
邪魔飯家に先祖代々継承されてきた
飯に混ざった邪魔を取り除く仕事、
『飯中悪具駆除師(はんちゅうあくぐくじょし)』
ってのをやってんだ。

んで、今もまさにその最中ってワケ。
今回の飯は見ての通り、炒飯だ。
炒飯はこの仕事ではかなり常連だ。
まぁ少なくとも週1は対峙してるな。
炒飯は色んな奴が色んな改造を施すからな。
節操ねぇよなぁ、まったく。
アイデアぶりたい能無しが、
知ったような口ぶりで簡単アレンジとかほざく
って、いけねぇ。
つい口が悪くなっちまうな。
まぁ大目に見てくれや。
こういう、具材を多く入れがちな飯を
俺達は“アシッド飯”って呼んでんだ。
これから具体的に何をするかって言うと、
この炒飯に入ってる邪魔な具をブッ殺す。
おいおい、そんなにビビる必要はねぇ。
ブッ殺すってのは比喩よ。(目が笑っていない)
とりあえずこの炒飯を形成する具を全て洗い出す。
ゴソゴソ…
そのためには、これを使うのよ。


【悪具駆除具-壱-】
・食解器(アナライズトーチ)
トーチ先端部から放出する光を対象に当てると、
その対象に使用された具材が全て分析され
レシートサイズの紙が印刷される。


よし、今回は具が少ないからすぐに分析できたな。
もう少し待つと…
ほらみてくれよ、紙が印刷されて出てきた。
あッ!!!!
わりぃな、ロール紙が切れたっぽい。
交換するからちょっと待ってくれ。
あんたツイてるぜ。
紙が切れるなんてそうそう無ぇからな。
ツイてるぜ、マジでよ。(目が澄んでいる)

ようやく印刷されたな。
どれどれ…
今回の具は、
卵、バラチャーシュー、ネギ、
なると、グリーンピース、桜海老

なるほどねぇ。
言うまでもねえと思うが、わかるよな?
この具の中で邪魔になってるやつが。
まぁ言ってみろなんて意地悪はしねぇよ。

なると、テメェ…“馴染んで”ねぇなァ。
まずその見た目が炒飯の色合いを邪魔してる。
クラスにこういうイタイ奴、一人は居たよな?
んでもって協調性がねえところも似てるだろ?
味があり過ぎるんだよな、コイツには。
すり身特有の甘みが、炒飯から漏れ出てんだ。
炒飯の味の主体は塩味だろうが。
味を増やすんじゃねぇ、味を。
グリーンピースもなぁ?
緑色の砂袋。
髪だけ染めたけど全然垢抜けねえ奴みてぇだ。

お前ら、
さっさと死んでくれやなぁ?


【悪具駆除具-弐-】
・絶(クリーンアッパー)
手のひらサイズの球体で、
スーパーボールのように弾力がある。
電源を入れて対象が含まれた飯に投げつけると、
不思議かな、対象のみが全て外へ弾き出される。


行くぜ─────
「「絶ッッッ!!!」」
(15m離れた所から大振りかぶりで絶を投げる。)

見てみろ。
完全になるととグリーンピースが出ていったぜ。
炒飯が笑ってらぁ。
いや。
これは俺の笑み、か。
呆れのな。(飛び出た具を見て鼻で笑っている)

今日は簡単な仕事だったが、
時たまトンデモねぇアシッド飯も出てくる。
そん時はまた呼んでやるから、
楽しみにしときなよ。
俺はこれから揉みほぐし予約してあんだわ。
んじゃな!

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