試合前日に練習を休んでも試合に出す理由
前回
「遅刻や忘れ物をしても試合に出す理由」という記事を書きました。
今回はその続編として
「試合前日に練習を休んでも試合に出す理由」を書いてみたいと思います。
遅刻や忘れ物と同じく、試合前日に練習を休んだら翌日の試合には出さない、もしくはスタメンから外すというチームは多いと思います。
前日だけでなく、その週の練習を全て出ていないといけないとか。
うちのクラブ(LINDA SMILES)では、選手が前日に練習を休んでも試合には出します。
前日だけでなくその週の練習に1回しか出ていなくても、いや時には1回も出ていなくても出します。普通なら「何だそれあり得んだろ」と思われるかもしれませんが、この方針にしているのには明確な理由があります。
ひょっとしたら前回の「遅刻や忘れ物」よりも反発を喰らう記事かもしれませんが、よかったら最後まで読んでみて下さい。
別に他チームのやり方を批判も否定もしているわけではなくてあくまでもうちは(僕は)こうというだけなので、まぁ気にせずに。
一週間をデザインしている選手たち
まず大前提として、うちのクラブは平日3回、土曜に1回、と週4で練習日を設定しています。
でもその週4の練習すべてに出ないと試合なんか出れねぇぞコラ、という空気も決まりも一切ありません。
週4にしている理由は、それぞれ塾や部活、バイト、その他さまざまな事情がある子たちが少しでも「選べる」ようにしたいから。
なので週4すべてに参加してねということではなく、この中でそれぞれのサッカー以外の用事とうまくバランスをとり時間をコーディネートして、自分の一週間をデザインしてサッカーにも来てほしい、ということなんです。
週4すべての練習に来る子は2〜3人くらい。一番多いのが週2かなぁ。
いろんな子が集まるクラブ
なでしこジャパンになりたい、WEリーガーになりたい、全国大会に出たい!という天井知らずの上昇志向を持った子は少なく、大勢が「サッカーを楽しみたい」でも決して緩くやりたいわけではない、という「ちょうどいい」クラブを求めてうちに来てくれた子たち。
今の中高生はやることがたくさんあります。サッカーだけでなくもちろん勉強もめちゃくちゃやってるし、塾に行ってる子も多い。
部活をやりたい子もたくさんいて、部活とうちをうまく両立させてる子も多い。バイトをしながら来ている高校生もいます。
サッカーのクラブチームを選んだからといって
「サッカーを最優先にして他のものを犠牲にしなければいけない」とこちら側が思いそれを彼女たちに強制したら、きっと彼女たちはうちのクラブから離れていってしまうでしょう。
上にも書いたように、うちにはサッカーに対してさまざまなニーズを持った子たちが同居しています。
試合をたくさんやりたい!という子もいれば試合はそんなになくていい、中には試合とか出たくない、ただ楽しくサッカーをしていたいという子もいる。それぞれの目標もさまざまだし「サッカーを通じてこうなりたい」という未来像もさまざま。
これらはとても健全なことだと自分は思ってます。
同じクラブだからといって目標を同じにする必要もないし、サッカーに対して同じ熱度、優先度にする必要もない。
いろんな子が来てくれる。いろんな子が集まれる。
これを満たせるクラブが、実はあまり多くない。だからこそ、うちにこれだけの選手が集まってくれているとも思うのです。
昔と違ってたくさんの娯楽や情報に溢れ、スポーツにおいても種目はさまざま。何か一つに絞って打ち込め!なんて時代はとうの昔に終わってる。
その中でもサッカーを選んでくれた。それだけでもありがたいことだし、数あるサッカークラブの中でうちを選んでくれた。これは本当に奇跡的なこと。クラブ側そして指導者側が、まずそのスタンスに立ちましょうよと僕は心の底から思ってます。
「練習休んだら試合出さないよ」
何を偉そうに言っとんねん、て話です。僕の中では。
試合用の練習をしない
極論を言えば「試合用の練習」をしようとも思っていません。
今週末の試合のために練習する、明日の試合のために練習する、という練習を僕はしたくない。
試合を中心に考えていない。試合も練習のうちの一つなだけ。
先に結論言っちゃえばこれです。
もちろんサッカークラブだからサッカーに必要な技術、個人戦術、考え方、味方のこと、大切なこと、、などをしっかり伝えたいし毎回伝えているつもりではいるけれど、それはいろんなことが出来るようになって、サッカーをもっと知って、味方とのつながりの中でプレーする喜びを味わって、もっともっとサッカーを心の底から楽しんでほしいから。そして自分の意思でプレーするフットボーラーになってほしいから。
試合のためだけに練習するのではなく
・イカしたフットボーラーになってもらうために練習する
・サッカーの喜びを味わってもらうために練習する
・心の底からサッカーを楽しんでもらうために練習する
その結果として強くなる。試合にも勝つ。この理想を僕は追い求めています。
この理想サイクルを求めていくほうが、それぞれの理由やニーズを持って集まってくれた一人一人全員に対し、誰かにミスマッチや無理強いをすることには決してならない。そう確信しているからです。
だから「その週の練習」とか「試合前日」の練習とか、試合に対してそれほど重要度を持たないんです。少なくともうちは。
事情(違い)を受け入れる
話は前後しますが、うちにはいろんな子がいます。
部活も頑張っている子、勉強めっちゃ頑張って塾に週6で行っている子、バイトをしながらサッカーにも来ている子、その他、、本当にさまざま。
サッカーしかしてません、サッカーが全てです!という選手の集まりよりも
「サッカー以外のこともたくさんしている」「サッカー以外にも大切なものを持っている」選手たちの集まりのほうが個性的でおもろい集団だと僕は思うし、
いろんな子がいるからこそ、それぞれの違いも認識しやすいですよね。
その「違い」は、時には「事情」とも言い換えられる。
いろんな理由や事情で学校になかなか行けていない子たちもいるし、気持ちの問題で外に出づらい子もいる。でも気分が晴れた日にはサッカーに来てくれる。そんな子もいます。
家庭の事情で留守番をしなければいけない子もいるし、バイトをしながら来ている子、中にはバイトを掛け持ちしながらもサッカーに来ている子もいる。
亡くなったお母さんとの約束で「勉強も頑張る。サッカーもやめない」というある子は塾が忙しくてサッカーへの練習参加頻度も多くない。でも、時間を見つけて練習に来る。
そんな子たち以外にも、たくさんの事情(違い)を持った子がいます。そんな子たちに対し「練習休まず来いよ」なんて言えないし言いたくもないし、他の選手たちにも、そんなことを思ったり言い放つ人にはなってほしくない。
繰り返しになりますが、いろんな事情を抱えながらサッカーをしてくれている子たちに対し
「はい、休んだから明日の試合なしー」なんて絶対に言えないし、僕は一生言わない。
人にはそれぞれの事情が色々あって、違いがあるんだということを理解する。その違いを当たり前のように受け入れて尊重して、仲間として共に付き合い、優しくもしていける。
さまざまな子たちが集まるクラブだからこそ、そんな人間性をサッカーを通じて養っていってくれたらと思っています。
そしてそれはこちらの言動でもきちんと伝えていかなければいけないとも、強く思っています。
「休まず来ている子たちに対して【しめし】がつかない」
という意見には、これで説明がつきます。
「しめし」とか大人の勝手な論理を通り越して、人間同士、もっと深いところで繋がっていたいし選手同士でそうなってほしい。
もちろん、練習を休まず来ている子に対してしっかりと評価してあげるのは、もう言うまでもないことです。
これまでとこの先を繋ぎ合わせる
僕は彼女たち一人一人に対して「責任を負う」立場であり、もちろんそれぞれの親御さんが彼女たちに注ぐ愛情には決して勝てないけれど、でも彼女たちのサッカーに関して言えば、間違いなく世界で一番本気で考えているし、一番の愛情を注いでます。
だからもっとこの先を見据えて考えて「試合に呼ぶ、呼ばない」を決めなきゃいけないし、先だけじゃなく彼女たちが歩んできた「これまでのサッカー人生」をも請け負って、そのストーリーと今をどう掛け合わせ、ここからどう導いていってあげるのかを考えなきゃいけない。
その週とか「翌日」の試合のことだけを考えて練習したり、そんな目先のことだけで試合に出す出さないを決めるわけにはいかないんです。
だから全然、その週の練習に来ていない子だって「今はそのタイミング」だと思ったら平気で出します。
こんなの、当たり前の話なんですよね。
サッカー以外の大切なもの
先ほども少し書いたけれど、サッカー以外にも楽しみを知っている、大切なものを持っている、いろんな毎日を送っている。
そんな子たちが表現するサッカーのほうが、とても魅力的だとも思うんです。
つい先日のU-18公式戦の前日
「お父さんの会社の運動会に一緒に参加した」という理由で練習を休んだ中1の子がいました。
それ、めっちゃ素敵な理由じゃないですか。普通ならだんだんとお父さんがうざくなっていく年齢なのに。
お父さんも娘が一緒に参加してくれたことがとても嬉しかっただろうし、自慢の娘を仕事仲間に見せれたこともきっとすごく嬉しかっただろうし。
彼女、翌日の試合でセンターバックとして大活躍でした。そりゃそうだろと納得ですよ。
その日は他にも前日の練習を休んだ子がいましたが、やはりその子もリフレッシュしたのが良かったのか、試合ではめっちゃキレキレ。右サイドほぼ無双状態。
彼女(中1)はほぼ週2ペースで練習に来ているのだけれど、お母さんいわく
「他の用事とうまくバランスをとりながら、いつどれくらいサッカーに行くかを全部自分で決めてるみたいです」とのこと。
わぉ、もうめっちゃフットボーラーじゃないですか。
最後に
もちろん彼女だけじゃなく、他の子たちも「自分の一週間をデザインしてサッカーと付き合う」ことができている子たち。
そんな彼女たちが魅せるフットボールがどうなっていくのか僕はとても楽しみだし、今はまだ試合では負けることの方が多いけれど、時間をデザインできる選手たちが練習していく毎日の積み重ねの結果として、これから必ず「気づいたら強くなってた」となっていけるとも確信してます。
そこに自分の指導者としての最後の腕を振るわなきゃいけないと思っているし、その自信もある。僕の現在地は、今ここにあります。
試合を中心に考えていないとは言いつつも、やっぱり強くなっていければ自信もつくし楽しくなっていくのは間違いないし。
でもそれを「練習休んだら試合出さねーぞ」と追い詰めて実現させるのではなく、あくまでも「いろんな選手たちの集まりの中で、自然に無理なく集まれる場所」としてそれを実現できたら、もうめちゃくちゃカッコいいじゃないですか。
それを必ず実現します。できる選手たちだとも思ってます。
そしてそれ以上に、それぞれにとっての大事な居場所になり、居場所でい続けること。クラブとしてそこは決して外さないように、これからもジムの中にあるスタバでい続けよう、そんなスタバの店長であり続けよう、と思っています。
よかったら応援してください。