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医療保護入院の段取り

モトットの資金も、いよいよ底をつき始めていました。義父のもとには、お金を無心する電話がかかってきたそうです。

「僕は年収700万円を約束されている男やから!!すぐ返せるし!!」

そんな言葉を口にしながら、かなり高圧的な態度だったとか。義父が声を荒げて断ると、モトットは舌打ちをして電話を切ったそうです。

一方で、私のもとには知人たちから次々と「モトットくん、大丈夫?おかしくなってない?」という連絡が届き始めました。

共通の友人の妻が、あるパーティーでモトットに遭遇したといいます。彼は自作の作品集を売り歩いており、お釣りがないことを理由に700円の冊子を「1000円でいいですか?」と強引に売りつけたそうです。

さらに、Twitter(現X)での異常な投稿頻度と、内容の異様さも話題になっていました。わずか15分おきに更新される投稿に、心配した人たちから次々とメッセージが届きます。

そんな中、義父がようやく3日間の休みを取り、上京しました。モトットが躁転してから、すでに3週間が経過していました。

彼はSNSを通じて、自ら「おかしくなっている」ことを全世界に発信している——そんな状況の中、私たちは一刻も早く入院の段取りを進めなければなりませんでした。



モトットを呼び出す

モトットは熱海にいました。そろそろ確定申告の時期です。彼の確定申告に必要な書類はうちにありました。その書類一式を渡したいと伝え、義両親が揃っているのは秘密にして、いつも会っていたビルの最上階の展望階に来て欲しい旨を伝えました。

高額すぎる民間救急

警察や主治医から勧められ、民間救急には何軒か問い合わせをしました。
20万円から30万円くらい...。おお...。高い...。

これに関しては、私だけの問題ではないので、義両親に相談しました。義両親が料金を出すとのこと。

病院を紹介される

再び保健センターから連絡があり、新たにいくつかの病院を紹介してもらいました。これまで自宅から近く、通いやすい病院を優先的に探していましたが、どこも入院は叶わず、やむを得ず範囲を広げ、より遠方の病院も視野に入れることになりました。

川尻さんのお兄さんが勤務する病院も候補に挙がりましたが、「結構ヘビーな人が入院しているけど、大丈夫?」と言われ、モトットには厳しい環境かもしれないと判断し、断念しました。仮にそこへ入院するにしても、個室で一泊2万円程かかるとのこと。他の病院でも個室は必ず空いているはずだと教えてもらいました。

紹介された病院のひとつに問い合わせたところ、「なんとかベッドを用意できます」との返答がありました。ようやく、入院できる場所を見つけることができたのです。

紹介状を書いてもらう

元の主治医に紹介状の作成を依頼するため、電話をかけました。病院名を伝えると、「そこは付き合いがあります。いい病院ですよ」と安心できる言葉が返ってきました。すぐに紹介状を書いてもらえることになり、翌日受け取りに行くことが決まりました。

ようやく、モトットの入院に向けた準備が一歩前進したことに、わずかな安堵を感じました。

警察を配備する

これまで何度も相談してきた警察署の生活安全課に、私は再び連絡を入れます。

「◯日◯時に△△で、民間救急を使ってモトットを移送します。彼が暴れる可能性があるため、状況によってはその際に応援をお願いするかもしれません。」

警察からは落ち着いた声で返答がありました。

「わかりました。近隣の交番にも情報を共有しておきます。」

最悪の事態に備えながら、着々と準備を進めるしかありませんでした。

モトットの躁鬱の波をグラフにする

もしかしたら話が通じるかもしれない——そんな一縷の望みを抱きながら、私はモトットが双極性障害Ⅱ型と診断される以前、まだ鬱と診断されていた頃からの状態を振り返り、彼の気分の波をグラフにまとめました。

これまでの浮き沈みをできる限り可視化し、彼自身に理解してもらおうとしたのです。伝えたかったのは、これまで経験してきた波とは比較にならないほど、今の状態が極端に振れすぎているという事実。その異常さを客観的に示せば、少しでも状況を受け止める手がかりになるのではないか——そんな思いからの試みでした。

「入院」という言葉を口にしない約束

これは非常に重要な約束でした。

4月からの就職が決まっているモトットは、入院を強く拒むことが予想されました。それでも適切な治療を受けさせるため、義両親と話し合い、「入院」という言葉を使わずに病院へ連れて行くことにしました。

「もう一度、別の医師に診てもらい、その先生の意見を聞いてみよう」

そう伝えることで、警戒心を抱かせず、病院へ向かわせる作戦でした。
しかし、この約束は感情的になった義母の一言で、あっさり破られてしまいました。


さて、モトット捕獲作戦が始まります。

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