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優しい人たちが見守ってくれていた

私は幼い頃から人に頼るのが苦手で、何事も自分の力で乗り越えてきました。それは、父から「自分のことは自分で責任を持て」と教えられた影響によるものです。

この教えは社会人としての私に大きな助けとなりました。身の丈に合わないことには手を出さず、自分に足りないものを把握しながら、必要な知識やスキルを身につけ、一つひとつ確実に実行して信頼を得る仕事の進め方を築いてきました。

しかし、この考え方は同時に私を孤独にもしました。自立を意識するあまり、人に頼らず、甘えることもなく、チームで協力する経験が少なかったのです。

そんな私の人生観が変わったのは、モトットの躁転をきっかけに、多くの人に助けられたことでした。話を聞いてもらい、貴重な助言や知識を得る中で、人の支えの大切さを実感しました。

当事者や家族の方々には、ぜひ周囲の経験者や支援者を頼ってほしいと伝えたいです。孤独な戦いは辛く、心をすり減らしてしまいます。当事者を支えるには、個人の愛情だけでは限界があります。



やはり怪しかった事業者

私と義母は韓国のプロジェクトの事業者の会社がある駅へと向かいました。駅から目的のビルの前に到着します。

事前に調べた会社のホームページによると、その会社はビルの3階にあるはずでした。しかし、ビル前の看板を確認しても、その会社名は見当たりません。代わりに記載されていた別の会社名を検索すると、「コワーキングスペース」であることが判明しました。

「お義母さん、この人に会うのはやめましょう。怪しいです。」

私はそう判断し、何もせずにその場を後にしました。

なぜ怪しいのか。それは、おそらくその人物がコワーキングスペースの住所を法人登録の住所として使用しているためです。それ自体は違法ではありませんが、彼の年齢が50代から60代であることを考えると、若いスタートアップ企業ならともかく、その年代でコワーキングスペースしか借りられないというのは、事業が順調でない可能性を示唆していました。

もし会って事情を話せば、逆に利用される可能性もあります。私は一旦引くことにしました。

女性と接触する

さて、帰宅後すぐにマミさんへFacebookメッセンジャーでメッセージを送りました。繋がり申請をするとモトットに動きが察知される可能性があったため、それは控えました。「Zoomでお話を伺いたい」という内容で時間を調整し、後日、面談を行うことにしました。

Zoomで初めて顔を合わせると、私も義母も「色々ご迷惑をおかけしました。そして見守っていてくださったこと、本当にありがとうございます」と感謝の言葉を伝えました。

20代の彼女はとても可愛らしく、若いながらも非常に聡明な印象を受けました。

彼女によると、コロナ禍の中でモトットたちが主宰する研究会を通じて知り合ったものの、実際にリアルで会ったことは一度もないとのことでした。それにも関わらず、留学中の忙しい時期に、モトットの話を根気強く聞いてくれていたそうです。

「私の知人に同じ病を持つ方がいて、以前、躁状態の方への対応を学んだことがあるんです。『肯定せず・否定せず』で話を聞き、刺激を与えず、間違った方向へ行かないように気をつけていました。」

(こんなにも献身的な方がいてくれたなんて…本当にありがたい)

「先日なんとか彼を病院に連れて行くことができ、躁を抑える薬が処方されました。ただ、家はでていっているので、誰も薬をきちんと服用しているか確認できません。お願いしたいのは、マミさんのご実家の旅館でのバイトの件です。できれば、やんわりと断っていただけませんか?」

「わかりました。連絡を減らしつつ、その話を自然に遠ざけるようにします。ええと…私はモトット君の前から、そっとフェードアウトしても大丈夫でしょうか?」

「え?あ…はい。たくさんの時間を割いていただいて、感謝しています。」


幸いにも、彼女が留学中であったため、大きな問題に発展せずに済んだのだと思います。もし近くに住んでいたのなら、より複雑で厄介な状況になっていたかもしれないと私は彼女との会話から感じとりました。

もう一人の優しいモトットの友人

後日、モトットの研究会チームの一人の男性Sくんにも連絡を取りました。彼はモトットの同期であり、私も何度か会っています。彼らは若いながらも非常に優秀で理知的な人たちです。Zoomでの会話が始まり、私はこう切り出しました。

「なかなか連絡できずごめんなさい。モトットが迷惑をかけているのではないかと気になっていたのですが、病気のことを話さなければならなくなるため、アウティングを懸念して躊躇していました。」

「モトットくんの様子が普通ではないことはすぐに分かりましたし、彼自身、比較的早い段階で双極性障害であることを開示していました。ですので、この連絡はアウティングには当たらないと思いますよ。」

「何か問題は起こしていませんか?」

「実は、研究会のメンバーに対して不義理がありました。」

「不義理…とは?」

「彼は研究会をマネタイズしようとして、いろいろと問題が生じたという感じです。」


彼は問題をぼかします。彼はこれ以上この話はしたくないのだとわかります。

「何か、言っていましたか?」

「やよいさんに『金にならない仕事はするな』と言われたことが、ずいぶんと引っかかっているようです。」


(めちゃくちゃトリミングされてるな…「お金にならない名誉のための仕事は、ちゃんと生活できるレベルで引き受けろ」と言ったけど)

「僕たち研究者というのは、やよいさんのような実践者には到底かないません。僕たちの研究は、ある意味、好きなことをやっているだけですし、大きな責任を負うこともないですから。」

「最近はシェアルームビジネスを始める話をしていました…。」

「ああ、それも聞きました。モトットくんは、躁転していても頭が良いので、話している内容は面白いんですよね。内容としては興味深いですが、実現性はかなり難しそうですけどね(笑)。マミさんの件ですが、彼女への負担が大きすぎるので、そろそろフェードアウトさせたいと考えています。」

「なるほど。その話は私も聞きました。ここまでのことだけでも、本当に感謝しかありません。」

「ご家族も、いろいろとご苦労が多いと思います。どうぞご自愛ください。」


彼らは、冷静にモトットと向き合ってくれていることがよく分かりました。そして、当事者家族である私たちに伝えるべきことと伝えない方がよいことを、慎重に線引きしているのも、彼の口調から感じ取れました。

気になる点はいくつもありましたが、彼らの配慮に甘んじ、心苦しいことを無理に聞き出させることのないよう、深入りするのはやめることにしました。

また、今後何かあれば連絡を取り合うことを約束し、この話し合いは終わりました。

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