絶望から猛勉強へ
話を本筋に戻します。
たった一週間で人生がひっくり返るという絶望
モトットが躁転し、家を出ていきました。ほどなくして、彼から離婚の意思と「財産分与の要求」を伝えるメールが届きます。その内容は、私が結婚前に購入した不動産の価格上昇分について、自分にも権利があるというものでした。(しかし、法律上、結婚前に取得した財産は共有財産にはならないため、彼には権利がありません。)
突然の出来事が次々と私を追い詰め、気がつけば渋谷マークシティの中を、あてもなく歩いていました。頭はぼんやりとして、「何かしなくては」と思うものの、思考はまとまらず、どこへ向かえばいいのかも分からない。ただ、人混みの中を歩きながらも、まるで霧の中を彷徨っているような感覚でした。離婚、ワンオペ育児、そしてモトットの異常な行動——それでも仕事と育児は止めるわけにはいきません。
あれほど私に愛情を注いでくれたモトット。(実際には、半ば追い出してしまったような形ですが。)昼間は子育て、夜は仕事という無理な生活を続けながら支えてきた日々さえも、すべて否定されたように感じ、これまでの努力が無駄だったのかと、深く落胆しました。
これらは、正月の帰省から東京に戻り、わずか一週間の間に起きた出来事でした。一ヶ月前には順調だと思っていた生活が、突然すべて崩れ去り、解決の糸口すら見えないまま、思考が停止してしまったのです。
ここ数日、「やよいさん……言葉が出ていないよ」と何人かに言われましたが、「ああ……はい……」と返すのが精一杯でした。頭の中では、どうにかして解決策を見つけようと必死でした。しかし、いつもならひとつの問題に対して10の解決策を考え、短期プランと長期プランを組み合わせ、相手の出方を見ながら建設的に進めることができるのに、今回は何も思い浮かばない。そして何より、すでにモトットは道理が通じる状態ではなくなっていたのです。
思考停止からアクセル全開へ
しかし、3日間の思考停止を経て、ふと気づきました。
「私の中に解決策はないのか……。」
これは私にとって大きな発見でした。つまり、今の私にはこの問題を解決するための知識が圧倒的に不足しているということ。これまでインターネットで双極性障害について学んできましたが、病気の症状や説明を読むだけでは、実際の生活にどう向き合えばいいのかという視点がまったく持てていませんでした。
「これじゃダメだ!もっとリアルで身近な情報が必要だ!」
まずは少しでも冷静に考えられる余裕を持つために、義実家へ電話をし、状況を説明しました。義母は「鬱だと聞いていたけれど……とりあえず東京に向かいます」と言い、すぐに動いてくれました。
そして私は、徹底的に勉強を始めることにしました。とはいえ、日々の仕事は続けなければならず、息子は保育園から夕方には帰ってきます。当時はまだ感染対策が厳しく、人と直接会って情報を得るのも難しい状況でした。
そこで、双極性障害を持つ人たちが数百人集まるLINEのオープンチャット(以下オプチャ)を見つけ、参加しました。実は以前、モトットがADHDではないかと思い、2年ほどADHDのオプチャに入り浸っていたことがあり、そこで発達障害について学びながら多くの人と交流していました。その経験が、ここで大いに役立ちました。
さらに、当時コロナ禍で流行していた音声SNS「Clubhouse」も大きな助けになりました。仕事をしながら日中、そこでモトット問題について話してみると、想像以上に多くの人が親身になってくれました。双極性障害の当事者やその家族、医療関係者など、さまざまな立場の人たちが手を差し伸べてくれたのです。中には、同じ悩みを持つ家族とのつながりを作ってくれる人もいました。その中のリアルで会ったことのある飲食の経営者は、夜にご飯を届けてくれたり、他の仲の良い方は子供を預かってくれたりと、様々な手助けをしてくれました。
特に病気の理解の助けになったのは、大きな精神病院の院長を兄に持つ川尻さん、双極性障害当事者RUKAさん、精神病院で働いている心理士さん、そしてクラブハウスの知人を経由して紹介された当事者家族の及川さんでした。
当事者が集まるLINEのオプチャは覚悟が必要
Clubhouseで話をしていると、多くの人が私の寄り添おうとする姿勢を見せてくれました。しかし、LINEのオプチャでは事情が違いました。
そこは双極性障害の当事者が中心のコミュニティで、一応、当事者の家族も参加は許可されていましたが、突然やってきて質問を繰り返す家族に対して、強く当たる当事者も少なくありませんでした。イライラされながらも、粘り強くどうしたら良いのかなどを相談し続けます。
当事者さん「こんなところで油売ってる場合じゃないでしょ? さっさと警察に連絡しなよ。」
やよい「いや、警察にはすでに相談しました。自傷他害の恐れがないと強制入院はできないと言われて……。でも、今のところその危険性はないようで、他に方法がないかと思って……。」
当事者さん「だったら、さっさと保健所に連絡しなよ!!」
やよい「保健所……? 保健所が対応してくれるんですか? 明日、連絡してみます! ありがとうございます!」
こんなやりとりが日常茶飯事でした。
「このままだと離婚するしかない」と相談すると、躁転して離婚された経験のある当事者から、ものすごい勢いで責められることもありました。オプチャでは、厳しい言葉をかけられることも多く、落胆することも多かったのですが、それもこの病気の特徴のひとつなのかもしれないと考え、ひたすら居座ることにしました。