『妻の終活』

坂井希久子さんの作品。

製菓メーカーの嘱託職員として働く廉太郎は、ある日妻の杏子からがんになったと伝えられる。


点滴でしか栄養を取れないというのは、もどかしいだろうと感じた。

廉太郎が会社にポロシャツで行った場面が印象に残っている。

今までカレンダーにバツをつけていたが、マルにしないかと提案した廉太郎の考えが、とても良いなと感じた。

杏子さんは廉太郎のお茶の成長ぶりに気づいていていて、素敵な人だと感じた。


印象に残っている文

まるで絵の具のチューブから出した青を、そのままベタ塗りにしたような空だった。絵画教室ならば、たぶん先生から指導が入る。だが一年のうち一日か二日は、嘘みたいに空が青くて遠近感が馬鹿になるような日がある。

年長者の意見を昔の人は知恵と呼んだが、今の若者は「害」と切り捨てる。

なぜ帰ってこなかったのかと問い詰めたいのに、喉元で渋滞して言葉が出ない。

なにに腹を立てているのか自分でも分からないが、苛立ちはいっこうに収まらない。もしも廉太郎に人外の力があったなら、暴れ狂って東京の街をめちゃくちゃにしていただろう。アニメ監督が手掛けたらしいという情報だけで観る気をなくしていた「シン・ゴジラ」を、今なら観られるかもしれなかった。

「俺も何人か見てきたよ。仕事一筋だった奴ほど、定年で辞めたとたんに老け込んだり惚けたりしちまうもんだ。あとは嫁さんに先立たれた奴な」

「男なんてのは、弱いもんだよ。この先の生きかたが決まってないんなら、奥さんの言うことを聞いておけ」

「シュート?」「春夏の間に新しく伸びた太い枝のことです。ほら、古い枝と比べると色が違うでしょう」

「きっとさ、お父さんが心の中で思ってるだけの言葉って、言ってあげると喜ぶ人がいるよ。だからちゃんと、言ってあげなよ」

「熊先生」の説明によると、腹水というのはタンパク質や糖質、脂質、アミノ酸、電解質など、体に不可欠な成分が多く含まれているという。つまり栄養の塊と言ってもよく、それを抜くことによって、衰弱を早めてしまうのだ。


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