『銀河鉄道の父』
門井慶喜さんの作品。
宮沢賢治の父である政次郎の視点から宮沢賢治の人生が描かれる。
妹のトシがとても優秀だったとは知らなかった。
幼い賢治が熱を出した際に、父親自ら看病をする姿がとても印象に残っている。政次郎のような人物が父親だったからこそ、賢治の作品が生まれたのだと感じた。
賢治と政次郎が浄土真宗や釈迦について論争を繰り広げるシーンが印象に残っている。
印象に残っている文
店や家族がじかに被害を受けないかぎり、ーー天災は、もうかる。それが質屋の法則だった。
そもそも全国的に、ーー本を読むと、なまけ者になる。というのは、質屋にかぎらず商家の常識にほかならなかった。
大人の世界もおなじだが、議論に勝つのは弁の立つ人間ではない。話を聞かない人間なのである。
父親であるというのは、要するに、左右に割れつつある大地にそれぞれ足を突き刺して立つことにほかならないのだ。いずれ股が裂けると知りながら、それでもなお子供への感情の矛盾をありのまま耐える。ひょっとしたら質屋などという商売よりもはるかに業ふかい、利己的でしかも利他的な仕事、それが父親なのかもしれなかった。
「好きなことを仕事にするなど本末転倒もはなはだしい。そんなのは謡や噺家の生きかただじゃ。堅気の人間には順番が逆だ。仕事だから好きになる、それが正しいありかただじゃい」