『オールマイティ』
本城雅人さんの作品。
敏腕代理人である善場が過去の高校野球優勝投手の死の謎を探る物語。
球団との交渉のシーンでは、いかに希望の条件を出させるか機転の良さが問われると感じた。それぞれの思惑が実現するように駆け引きする姿が、とても印象に残っている。
途中、スポーツに対するアメリカと日本の大学の違いが書かれていた。アメリカのように、学力の基準を下回ると試合に出られない制度を、日本でも導入した方が良いのではと考えた。
ボクシングの試合の撮影をするカメラマンはすごいのだと改めて感じた。
印象に残っている文
「善場さん、アメリカの代理人の間には『一晩寝かせれば打率は上がる』という格言があるそうですね」代理人が返事を渋れば渋るほど、球団の方が痺れを切らして条件を吊り上げてくれるという意味だ。
最高の結末というのは、自分だけでなく、相手にも仕事をした気分にさせる交渉を言うーー米国では二十年も前から言われている交渉術の基本である。
往年の名テニスプレーヤー、ジミー・コナーズは、自分がガッツポーズをしているシーンだけを集めたビデオを見て、四大大会を制したと言われている。
「アメリカでも奨学金制度はありますが、成績優秀者に限られますし、入学してからも成績が悪いと試合に出られません。一方、日本は高校から特待生として、授業料どころか授業まで免除され、卒業しなくても問題視されず、四年間、野球を続ければ、卒業していなくとも、体育会野球部卒として認知されます。結果的にそれが選手の人生を苦しめてしまっているんです」
「カメラマンがシャッターを押そうと思ってから、実際に押すまでどれくらいの時間がかかるか分かるか」中略「よく言われているのはコンマ四秒だ」
「球団との契約交渉というのは銀行から融資を引き出すのとよく似ています。こっちが金が必要のない時はいくらでも出してくれますが、本当に金が必要な時はまったく出してくれない。ただし、銀行に金を借りる中小企業の社長と野球選手が大きく違うのは、年俸というのはいくら貰っても返す必要がないということです。だからこそ貰える時はとことん欲を出すべきです」
まるで、選手を言葉巧みに騙し、洗脳していく新興宗教の教祖のようだと書かれることもあるが、実際はそうではない。交渉相手となる球団に自分の要求を押し付けるほうが、選手の心を摑むよりはるかに簡単だ。