『監督の問題』
本城雅人さんの作品。
1999安打で現役引退した宇恵が、弱小球団のアイビスの監督になる。
選手やコーチ、広報やオーナーなど様々な人々と関わりながら、クライマックスシリーズ進出を目指していく。
監督という立場の難しさがよく書かれていて、とても面白かった。野球は1チームあたりの選手が多く、まとめるのが大変だと思う。レギュラーと控えの両方にモチベーションを維持させるのは、繊細な心遣いが必要だと思う。宇恵監督と投手コーチの謎掛けの場面がとても印象に残っている。読んでいると、「宇恵監督についていきます!」と思うくらい宇恵監督の人柄が魅力的だった。
印象に残っている文
メジャーリーグ観戦、ラスベガスで思う存分カジノを楽しむ、自宅菜園を始めて自分で作った野菜をツマミに縁側で一杯やる、富士山に登っててっぺんで万歳する……だが時間があり過ぎてどれから手をつけていいか分からないまま一年が過ぎた。人間の実行力なんてものはそんなものかもしれない。口ではなんぼでも言えても、いざその立場になったらなかなかやる気にならないのだ。
「お言葉ですが監督、野球は遊びじゃないんですよ。たった一球の失投でチームは優勝を逃し、選手は、来年は違う仕事を探してることもあるんです」
「今の選手は自分が本気を出す前から、自分にはできないと決め付けてしまって、活躍している選手のことを素直にすごいと認めます。ケガをしないことが第一で、まずは自分ができそうなことを目標に設定します」
現役時代、負けるたびに熱くなる監督が鬱陶しくて仕方がなかった。選手だって腹の中は怒りで煮えくり返っているのに、「明日だぞ」や「切り替えろよ」と上から目線で言われると、そんなん分かっとるわ、と余計に気が立った。
大砲タイプの新外国人打者が来た時、どこまでバットが届くのかをオープン戦で試すのはプロ野球では常套手段だ。オープン戦で届いたところより、シーズンに入るとさらに遠くを攻める。
世の中には、似たような趣味や遊びなのに、一方は高貴に、もう一方は低俗に見られるものがある。例えばギャンブル。
〈だけどもし本当にそういう関係だったとしても、世の中の不倫の多くは、男が甘い言葉を囁いて発声しているんだからね。〉
「水と塩の両方がいいのは日本中でも新潟が一番です。だから新潟の寿司屋で地酒を飲むのは最高の贅沢なんです」
「人生も同じやで。終わったらみんな五割になるように平等にできてるんや。きみが長いこと辛い思いを続けていたとしたら、それはこれから大型連勝がくる前触れや」
監督の仕事は、家を守ってくれている嫁さんの心境とよく似ている。先発メンバーの決定や采配など監督によってチームの勝敗が左右することはいっぱいあるが、実際に動くのは選手だ。気合を入れたところで彼らが萎縮して、空回りしてしまったら元も子もない。データなどの準備はコーチやスタッフがしてくれる。宇恵がすべきことは、その日のゲームで選手が思い切ってプレーできるように、でんと構えることだ。
部下が一生懸命訴えてきた時は、部下と同じ立場に立って喋ること。否定する場合は絶対に笑みは漏らさないこと。
「だけどこのことは忘れんでほしい。選手が評価を失うのは、悪いシーズンを過ごした年より、素晴らしいシーズンを過ごした翌年の方がはるかに大きいんや。毎年、各自の『素晴らしい』を更新していく。そうやって本物のプロ野球選手だと人から認められるようになるんや」