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もう、二度と会えない

はたと思い立ち
少し遠出をすることにした。

遠出と言っても
電車で1時間半ほど。

神戸は、何度か訪れたことがある。
だからこの街を分かっているつもりだったけれど
駅に降り立った途端、ぽつん。
そこは見知らぬ街で、
私は紛れもなく訪問者だった。

公園を歩いていると、
朝からジョギングをしている人や
バスケットボールをする少年たち、
手を繋いで散歩をしている家族。
私の住む場所ではあまり見ない
平和な光景に心がほぐされる。

ふらふら歩いていると
私を呼ぶ懐かしい声がして、ドキリとした。
そんなはずない、そら耳だと分かっていても
つい振り向いてしまう。

懐かしさはまるで、
乱暴に私を放り込むように、一瞬にして、
あの時の感情やあの人の顔、癖なんかを思い出させる。

そうか。
もう会えないんだね。

「またね」とわかれた時から今まで
もう会えないんだと思うことは無かった。けれど
懐かしさが、そら耳で蘇るあの声が、
取り返しのつかない時間とそれぞれの人生の重さを痛感させる。

一度でも深く心が通ったひととのこのような別れは、やっぱりさみしい。
私にとって、大きな救いだった。
あの人にとって私は、どうだっただろうか。

もし、また会うことができれば。
夢だとしてもいいから
このそら耳の話をしよう。

美しい港町で、あなたに似た声を聞いた。
その時初めて、もう、二度と会えないと実感した。
だからまた会うことができて夢のようだ。
どうしても、向かい合って伝えたかった。

ありがとう。
あなたと出会えて私は、本当の友人と、その温かさを知った。
さようなら。
もう、ふたたびお目にかかりません。

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