ミーティングで野球の話を全然しなかった野村克也監督【作戦タイム】No.8
脇目もふらず一筋を善、他の世界に目を向けるのは邪。
日本では、特にスポーツ界ではこの風潮が強いけれど、今や海外では盲目的な一筋ではなく、むしろ外とつながり自己を客観視する意識が当たり前になっている。
名将だった野村克也監督は、既に当時から「野球以外」からの学びを説いていた。
<スポーツ×人間社会>をつなげていくラジオ【作戦タイム】のシェア。日本学術振興会と大阪大学大学院の研究助成により、一般社団法人アスリートデュアルキャリア推進機構(ADCPA)がお届けしています。
MCは奥村武博(ADCPA代表理事)×岡田千あき(大阪大学大学院人間科学研究科・准教授)。
ゲストの立正大学法学部准教授・西谷尚徳さんは元プロ野球選手。2009年楽天を戦力外通告、トライアウトを経て阪神タイガースに育成として入団するも2010年に現役引退。引退後、大学教員へ。
時期や球団は違えど、西谷さんも奥村も野村克也監督の指導を受けた経験があり、指導法やキャリアの考え方など幅広く語る。
プロフィールなど詳細はhttps://www.adcpa.or.jp/sakusen-time
ダイジェスト⇩
他の世界のメソッドや視点から学ぶ
西谷さん
「野村さんのミーティングって野球の話を全然せずに、家康の訓戒とか戦国時代の書物とか歴史の話とかがおもしろくて、みんな聞き入ってた」
奥村
「あらためて『野村ノート』を読むと、野球と関係ないところから選手を教育するとか、外とつながる考え方が多い。外の世界に目を向けることを「悪」として排除して盲目的になるのではなく、野球を軸に、他所から色々取り入れるともっと良くなるというのが野村さんの指導。これがキャリアの問題に必要なことだと思います」
西谷さん
「楽天では、ファンの期待値を上回らなければいけないと教わった。お金を払って見に来たお客さんの期待を上回って初めてリピーターになるんだからって」
奥村
「ファンや周囲への意識ですね。その競技が好きなら、関わり方はプレイヤーだけじゃなくて周辺産業もあるから、そういう視点を持っておくことも大切だと思う」
いつか現役選手としては終わる 現実の客観視も
岡田先生
「中学の段階でプロ目指して留学したりして必死になってる子も多い。キラキラしてるようで悲壮感漂ってます」
西谷さん
「だからこそ野球終わったらどうしようってなる。大学くらいになると、上の世界に行けるかわかるようになるし、キャリアの現実を考えなきゃいけない」
奥村
「ただ、プロに行けないから野球やらない、とか、野球やったら就職失敗ではなくて、競技成績を評価基準にせずにスポーツ経験を社会的な価値にどう変換するのかの意識を持ってほしい。
体力と根性で営業というのは違うと思うし、僕個人は、突き詰める農業とか酒造りとかにも広げていけるような気がする」
西谷さん
「僕はまさかプロになれるとは思ってなかったけど、プロ入りしてすぐ、ここでは生きていけないと思った。レベルがすごいから、プロはうまくいって10年、30歳手前で終わるなと逆算して、大学で教職免許もとって、プロ終わったら教員しようと計算高く(笑)、常に客観視してました」
奥村
「引退する年齢の目安もあるからこそ、その先のプランBというか、他に興味あることやできることを知っておくと安心感にもなる。
メジャーリーガーの長谷川滋利さんは、読書が好きで著者に手紙書くのが好きだったみたいで、自分には野球以外の興味があることを知って、その安心感で振り切れてパフォーマンスが上がったそうです。
むしろ近いジャンルよりも、かけ離れてるほうが掛け合わせのエッジの効き方が大きいし、広くなる」
かけ離れたフックを持つほど 可能性が拡がる
西谷さんは大学で「見えないものを見る」意識を社会学として教えている。
魚や野菜を見たら、その背景に関わる人やコト、ルールなど広い背景に目を向け課題を探る。
岡田先生
「正解がないことを情報を集めて整理して分析して課題を見つけていく。まさに見えないものを見る、ですね」
奥村
「正解がない世界で解を求めていくのは、スポーツの試行錯誤も同じ。
何に意識を持つかで、同じものを見てもフックのかかり方が違ってくる。軸を持った上で興味の幅を広げるとフックが沢山かかって同じ言葉を聞いても発想が違ってくる」
西谷さん
「そういう意味では僕は幼い時からへんなフックを持ってたのかもしれない。変わってるね、ってきっとフックの違い」
奥村
「そこが個性、差別化になる。変わってるよね、は最高の誉め言葉。僕は選手時代、スポーツ新聞読んでても何も言われないけど、経済誌を読んでたら茶化された。一般的には最重要ではないタイガースのことを大きく取り上げる地元新聞ばかり読んでいると、選手の視野は狭くなってしまう(苦笑)」
西谷さん
「全国紙と地元紙で取り上げ方が違うから、俯瞰で自分の活躍を見る感じですね」
奥村
「学びって机の上だけじゃない。アンテナにひっかかるフックをたくさん持つと視野が拡がって可能性が拡がる。どんなフックを持つかはアスリート以外の誰にとっても大切なことだと思います」
ノーカット音声はSpotifyで⇩
必要に迫られたロジカルライティング #4-1
野球以外の素養を取り入れていた野村克也監督 #4-2
現役期間は限られるからこそ、引退後のイメージも描いていた #4-3
競技以外のフックを沢山持つことが応用幅を広げる #4-4
【作戦タイム】へのご感想やリクエストをぜひこちらにお寄せください
+++++
「組み合わせ」が新しいものを生む
【アディショナルタイム】 配信考記 byかしわぎ
さすが野村監督。
野球ファンでもなく、選手や監督に詳しくない私でも、野村監督だけは昔から気になる存在で『野村ノート』も買った。
「水泳の悩みは水泳で解決するな」
競泳の元日本代表選手・萩野公介さんは、現役時代に「水泳の悩みは水泳で解決するな」とコーチから言われたそう。
そればかり集中しすぎていると、煮詰まることもある。
特にアスリートであれば、常日頃から繊細な技術や身体の動きに神経をとがらせて、目の前の試合や成績で気持ちがいっぱい。
良くも悪くも近視眼的になってしまう。
だからこそ、一旦、そこから離れる。
すると、肩の力が抜けて気持ちに少し余裕が生まれる。
その心の余白に、新しいものが素直に入りやすくなって視界が拓け、今まで見えなかったものが見えたり、ハッとひらめくことや気づくことがある。
視点が解放されると、新たな解決につながることもある。
かけ離れたところとつながるのは「掛け算」
とはいえ「俯瞰で見る」とか「客観視」は、そんなに簡単ではないと思う。
そんなときに助けになるのが、物理的に全く異なる世界に触れること。
「勉強」という意識をわざわざ持たなくても、些細な気になる関心事でも。
かけ離れた世界は新たな刺激として、単純に楽しい気分転換になる。
一方で、一見かけ離れて見えるけれど、何か普遍的なつながりや、通底するものを発見すると視点が変わり、それが自分の本道へのヒントになることもある。
実は、世の中の企画やモノは「組み合わせ」から生まれて、それが常に新しい価値になっている。
私自身のコンテンツ制作の仕事でも実感している。
人も同じだと思う。
一つの軸に何かを掛け合わせると、唯一無二性が高まり、その人らしい価値になる。
外に目を向ける"寄り道"は、ムダに時間を割く「引き算」ではなくて、むしろ自分の軸を太く拡げる「掛け算」。(足し算でもなく)
その距離が遠いほど、掛け率が高くなるイメージ。
割いた時間以上のものが自分に返ってくると思う。
ムダにこそ学びがある、は私個人のモットーです。
+++++
講演やお仕事のご依頼、お問い合わせはお気軽にぜひこちらへ
☆☆☆☆☆
ADCPAは、活動にご賛同ご支援くださる賛助会員や、
アスリート個人の会員登録も募っています。
ご興味のある方は公式HPもご覧ください