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《サス経》 いまリジェネレートが必要な理由

 先週(※)、2月21、22日にサステナブルブランド国際会議(SB)2024が開催され、先週はそれ一色となってしまいました。5000名以上がリアルに集まる大きなイベントだったので、いろいろな方と再会したり、あるいは初めての方ともたくさんお目にかかり、とても充実した二日間となりました。当日ご来場いただいた方には、この場を借りてあらためてお礼を申し上げます。

 さて、今年のテーマはRegenerating Local、すなわち地域を再生するということなのですが、それではイメージが湧きにくいでしょうし、もしかすると「地方創生」のことかと勘違いしてしまう方もいるかもしれないということで、私たちプロデューサーで知恵を絞り、「ここから始める。未来を作る。」と意訳しました。

リジェネレート!?

 リジェネレートという言葉自体は、もちろん古くからあるものなのですが、SBでは2021年からテーマに使っています。SBの本国であるアメリカではすっかりメジャーなのかと思ったら、最近になって少し使われている程度で、まだ普及途上とのことです。それでもリジェネラティブ農業(regenerative agriculture:再生農業)という言葉などでお聞きになったことがある方もいらっしゃるかもしれません。

 そうは言っても、日本人にとっては発音もしにくいですし(笑)、なぜ今あえてリジェネレートという新しい言葉を持ち出さなければならないのか理解できないと思う方も多いのではないでしょうか。実際私も何年か前に最初にこの言葉を聞いたときには、何を再生するのかサステナビリティとは何が違うのか、戸惑いを感じたものです。

 そして今回このテーマのもと、いろいろな課題を考え直したり、特に海外の参加者の方々とこうした視点で話をしているうちに、なるほどと腑に落ちることが多くありました。ですので、今回の記事では、このリジェネレートについてお伝えしたいと思います

リジェネレートとは?

 そもそもリジェネレートという言葉は、綴りを見ればわかるように再び(re)生み出す (generate)という意味であり、通常「再生する」と訳されます。サステナビリティとの違いとしては、サステナビリティはマイナスをゼロに近づける活動であるのに対して、リジェネレートはそれをさらにプラスにする活動であると言われます。

 定義としてはそのように区別するのは良いとしても、それではなぜそうなるのでしょうか。なぜプラスを目指すのはリジェネレートと区別する必要があるのか、私も若干腑に落ちない思いがすることがあったのですが、今回はそれをしっかりと理解できたように思います。

 どういうことかと言うと、私たちがサステナビリティを目指すのはもちろん、今のやり方では環境にも社会にも、負の影響が多いからです。ですので、このやり方をそのまま続けるわけにはいかないし、もはやそれは許されないという事態にまでなっています。なので、その負の影響をなるべく減らしていこう、できればゼロにしていこう、それがサステナブルにするということです。

 そのために様々な努力がなされていますが、それでは今私たちが行っていることを続けていけば、それで本当にサステナブルなビジネスやサステナブルな社会にたどり着けるのでしょうか? そこまで突き詰めて考えると、負の影響をゼロに近づけることはできても完全にゼロにするのはかなり難しいし、ましてやプラスにすることは非常に難しい。多くの場合、原理的にプラスにはならないであろうということが想像できるのではないでしょうか。

 そしてそれは、今あるシステムはそもそもサステナブルではないことが原因でしょう。サステナブルになるように元々設計されてはいないのです。だとすれば、本当にサステナブルにするためには、そしてプラスの影響を増やしていくためには、やはり最初からそうなるように考えて作り直す必要があるのではないでしょうか。作り直す、つまり今一度新しく生み出すのだから、それはジェネレートだということなのです。

会社も、経済も再生する

 ちなみに、これは環境や社会の問題に限りません。経済のことを考えても、今や多くの企業やシステム、制度が機能不全を起こしつつあります。当初その組織や仕組みを作ったときとは社会や環境が大きく変化し、また組織やシステムが巨大化するにつれ副作用も無視できなくなったことなどがその原因です。

 であれば、そもそも自分たちの会社は何のために作られたものだったのか? 何が本質的な目的なのか? そうした組織としてのパーパス、すなわち存在意義に立ち返り、そして現在社会から求められることや環境から受ける制約にも適合した形で、新しいあり方に再生することは必然なのかもしれません。なので、本当の意味でサステナブルな組織や事業になるために、リジェネレートという考え方が求められている、注目されているということなのでしょう。

農業も、生活も根本から再生する

 リジェネラティブ農業も同様です。それは環境を再生する、より具体的に言えば土壌生態系を再生する農業であることはもちろんなのですが、同時にそれは農業そのものを「再生している」とも言えるかもしれません。既存のものを手直しして、ツギハギで当ててなんとか使い続けるのではなく、根本から見直す。そうしたことが、今後いろいろなところで必要になってきそうです。

 そしてそれが一番必要とされるのは、ネイチャーポジティブの実現においてでしょう。ネイチャーポジティブとは、私たち人間がこれからも安心して健康的に暮らしていくために、自然を再生して、自然からの恵みをしっかりと享受できるレベルまでに自然を戻そうということで合意された世界目標です。自然そのものを増やす、再生するのはもちろんなのですが、そのためには私たちの生活様式やビジネスのあり方も根本から考え直して再生することが必要になるでしょう。

 こうした意味と必要性をきちんと理解できるかどうかで、これからの大きな変化が理解できるかどうかが決まります。ぜひこれからリジェネレートというキーワードを常に頭の片隅に置いておいていただきたいと思います。

 サステナブル経営アドバイザー 足立直樹

※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)486(2024年2月27日発行)からの転載です。

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