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占領下のパリで「この上ない女性性」を 11月27日~365日の香水

占領下のパリで
今日書こうと思っている”歴史上有名な香水”が1943年もしくは1944年に出たと知った時、違和感を覚えた。
第二次世界大戦が勃発して1940年から1944年までフランスは対独協力のヴィシー政権下、パリはナチス占領下にあったからだった。
新作の香水を手掛け、発売するようなご時世にとても思えなかったのだ。
けれど確かに戦禍のパリで他にも「コティの森のスズラン(ミュゲデボアmuguet des bois/coty)」や「ロベールピゲのバンディット(bandit/robert piguet)」など歴史的な傑作が出ていた。

「戦争中は戦争しかない」
報道や戦争をテーマにした作品を通してしか戦争を知らない私にとっては、
「戦争中は戦争しかない」ようなバイアスがかかってしまうけれど、そのさなかにも平時とは著しく乖離してはいても「人々の暮らし」があるのだ。
日曜演奏会といって失職した音楽家たちの受け皿としての定期演奏会も開催されていたという。
ファッションにしても戦時下に影響をうけたミリタリー風のデザインが発表されていたのだった。
一方で反逆精神と祖国愛のあるクリエイターはトリコロールカラーをハウスの店頭に掲げたりデザインに用いたりもしていた。

1943年にクリエイションされ1944年に発売された「女~FEMME」
今日の香水はロシャスのファム(Femme/Rochas)。何度か紹介したけれど、調香師は20世紀(特にミッドセンチュリー以降の)巨匠のひとりエドモンド・ルドニツカ(edomond roudnitsuka)。
この記事に経緯が詳しく書かれている。
調香師が依頼主であるクチュリエ、マルセル・ロシャスと出会ったのが1943年、戦時下で十分な香料の調達が難しい中でいくつかの試みをしていた。
差し出された試作品を気に入り、「とても女性的な香水」との出会いを求めていたロシャスは女性を意味する”Femme”とネーミングして翌年末に発売したという。
発売された時には、パリは解放されていたから、ロマンティックで華の都相応しい優雅さに満ちたこの香水は多くの女性の支持を得たことだろう。
”爆売れ”したという記事をどこかで読んだ記憶がある。

影響の仕方は人生の数だけある
戦争で何もかもなくした人もいれば、終戦とともに治世者から罪人になる人もいるし、解放される人もいる。
一人一人の日常に踏み込んできて、人生に影響を与える戦争。
さなかにも、日々の営みは継続する。
体験したことのない、また絶対に体験したくないと思う世界。

ドキュメンタリーや映画や小説がどれくらい戦争の理解に役立つのだろう。
ファムという香水のこと一つを考えても、人々の日常や人生はあまりにいろいろで、一つの戦争というファクトが及ぼす影響の結局断片しか知ることができないのかもしれない。
どれだけの映画を見ても、ニュースに触れても。

Femme/Rochas/1944
先に引用した記事によるとロシャスのファムが1989年にリニューアルされた時、ルドニツカは「私のファムが盗まれた」と嘆いたという。
ルドニツカ版は、フルーティでアルデハイドのトップノートから始まるシプレーのお手本のような香水。淑女の吐息のようで、控え目でありながら重厚な存在感がある。
これからの季節に、自分自身への優しい理解を深めるために装いたい香り。

香り、思い、呼吸
11月27日がお誕生日の方、記念日の方おめでとうございます。



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