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甘美と反道徳 10月12日〜365日の香水

上流社会
フェデリコフェリーニの映画「甘い生活〜la dolche vita」が日本で公開されたのは1960年のこととか。ローマの上流社会の繁栄とデカダンを描いたこの作品は、“受け入れられなかった”という。同じ頃公開されたアラン・ドロンの「太陽がいっぱい」は貧しい青年の陰影のある成り上がりの青春像。この方が復興期の日本には共感を呼んだそうだ。
残念ながら未見だけれど、機会があれば観てみたい。
この映画の影響か、「甘い生活」というときに、イタリア語に限らず英語でも「ドルチェヴィータ」と使うことが多いらしい。

甘く、柔らかく、穏やかに
dolche〜ドルチェはスイーツに使われるように甘い、という意味の言葉だけれど、音楽用語としても用いるようで、穏やかで柔らかい演奏の時の指示らしい。
感覚的で情緒的な世界観を持った言葉なのだ。
日本語でも苦い記憶や辛口の批評に比べて自分に甘くというように結果どうあれ、心地よさや優しさにつながる。
そういえば、人の感情の基本は怒り、悲しみ、不安、恐れ、喜びだからポジティブ感情が少数派。
気持ちを味わいで表す時も、辛い、苦い、酸っぱい、塩っぱい、甘いとポジティブ感覚は少数派なのが面白い。

甘い生活と薔薇色の人生
さて、皆様にとって「甘い生活」で想像するのはどんな日々だろう?
始まったばかりの恋愛の日々、自分を文字通り甘やかし放題の日々・・・。
バラ色の人生というと、これまでの努力なり想いなりが叶って幸せな毎日が開けていくイメージがある。一方で甘い生活というと、これまでのプロセスとのつながりとは無関係に「自分が今だと感じた瞬間」がそうであるような気がする。
刹那的な感じを私はこの言葉の中に見出す。

dolche vita/christian dior/1994
映画のタイトルを意識したネーミング。1980年代はプワゾンpoison(毒)というセンセーショナルな香水で女性の自由、自立を後押ししたディオール。1990年代に入り、「戦い」による勝利を目指すことから「自分らしさ」の追求にトレンドが変化した中で、「甘い生活」というまさに自分へのご褒美のようなコンセプトで女性に寄り添った。
香りは、フローラルオリエンタルと言ってよく、甘く重厚さもあるけれど、濃厚とは少し違う。香りの“濃い”には、熟成感のあるウイスキーやブランデーのような濃さと上質のチョコレートやバニラの甘い濃さとがある。前者はお酒のように酔いを伴い官能的。後者は至福の没入感をもたらす。
それはちょうど、プワゾンとドルチェヴィータのような違い。

香り、思い、呼吸
10月12日がお誕生日の方、記念日の方、おめでとうございます。

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