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1月11日の香り~「甘くて侘しい、脆くて強い、紫の宿命を生きる」~366のアコード

1月11日 ヘリオトロープ香とヴァイオレット香

ヘリオトロープ
初めてこの香りに出会った時、「一番好きだ」と忽ちに魅入られた。
甘く落ち着きがあり、パウダリック。
自分で処方するレベルにも達していないのに、脳内でジャスミンとヘリオトロープを配合し、その豪華で艶やかな香りを想像した。
「チャイナドレス」という名前まで付けた。
南米原産のこの花は、その香りのよさから19世紀から20世紀初頭までの”シングルフローラルの時代”には、ジャスミン、ローズ、ヴァイオレットなどともに、香水の主役によく抜擢されていた。
日本には明治期に花も、香水も入ってきたという。
夏目漱石の『三四郎』(1908年)のヒロインはヘリオトロープ香水をハンカチーフにつけていた。
三四郎の感想は「鈍い香りがぷんとした」だった。

ヴァイオレット
バイオレット香に開眼したのは習作として「源氏物語」をテーマに香りの表現、芸術性を学んでいた頃。
作中人物の女三宮の香りとしてローズとヴァイオレットを主香にした。
そこに重なったのは、ローズとバイオレットの香りを好んだとされるマリーアントワネットだった。
それで、母のマリアテレジアが娘への手紙に再三使っていた「破滅」という言葉から「花の破滅」とネーミングした。

紫紺と楝色のアコード

どちらも天然香料の採油は現在ほぼ行われていないので、双方の香りの特徴に最も貢献しているヘリトロピン(heliotropine)とメチルヨノン(γ‐methy ionon)を使った。
日本の伝統色には紫紺楝色というのがある。英語名はpancy(パンジー)とheliotrope(ヘリオトロープ)、まさにこの二色の織り成すアコード。
ただし濃度も変え、ヴァイオレット香(メチルヨノン)の配合を主にした。
ミドルノート以降にヘリオトロープ香(ヘリオトロピン)が明確に姿を現さないまま、ほんのり優しく甘いニュアンスを出し、ヴァイオレット香が心地よく揺らぐ。

紫の諸相
紫は高貴な色、アーティスティックの象徴、そしてセクシャルな含みも持つ。”センスの色”と私はひそかに思っている。
高貴で洗練された使い方もできるし、間違うと品がなく猥雑な感じになる色。センスが問われる色。

紫の香りの諸相
ヘリオトロープ香にもバイオレット香にもこの宿命は当てはまる。
貴族的な感じがありつつ、安っぽい感じにもなりうる。
私が感じる魅力は、ヘリトロープには甘さと侘しさ、ヴァイオレットには強さと脆さがあること。
今回の処方では、控えめに使ったヘリオトロープ香が過去の甘い記憶を担当し、バイオレット香が静謐な心と優雅な物腰を担当した。
それは少し切ないけれど、凛とした風情の香り。

香り、思い、呼吸
1月11日がお誕生日の方、記念日の方、おめでとうございます。


1月11日「甘くて侘しい、脆くて強い~紫の宿命を生きる」
その日のためだけの香りのメッセージ

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