遠い見知らぬ島々のやすらぎ 10月23日〜365日の香水
島々の森か森の木々か
今日の香水はシャネルのボワデジル(bois de ires/chanel)。
昔にbois(ボワ)は森、木々を言い、イル(ires)は島を言う。
それでボワデジルというのは「島々の森」という意味だとどこかで聞いた。群島が俯瞰してみると森のようにみえるのか、なんとも素敵な視点だなと思っていた。
あるいは島の希少で類まれな木々という説明もあった。
シャネルの公式では「遠く離れた島々への旅を誘う」と言及されている。
遠い島々とは
日本人が島々、類まれな木々で想起するのは、スマトラ島やボルネオ島、そしてその亜熱帯の密林で出会う沈香木ということになるのではないか。
パリではどうか。
この香水が登場した1920年代のパリではアフリカの(再)発見ブームがありピカソがアフリカの彫刻にインスパイアされてキュビズムを発展させたようにアフリカンカルチャーが多くのアートに影響を与えた。
したがって、パリから遠く離れた島々とはアフリカの島々と考えることができる。
モーリシャス、マダガスカル・・・どこか特定の島ではないけれど、当時のパリの集合意識がアフリカブームの中で想像した島々なのだろう。
実際、同じくシャネルの公式ではアフリカンダンスホール、ジャズのビートなどの言葉が並ぶ。
ジョセフィン・ベイカー
この時代、パリを熱狂させたアフリカ系のスターといえばジョセフィン・ベイカー。アメリカ出身の彼女は1920年代のパリ公演の成功をきっかけに、差別がひどかったアメリカを離れパリをベースにし、市民権も獲得する。
余談だけれど、ナチス侵攻下のパリではレジスタンスとしてユダヤ人の救済に助力したそう。
事実ははっきりわからないけれど、彼女がパリで熱狂を巻き起こした「レビュー・ネグロ」(ジョセフィンはこのショーに参加した踊り手の一人だった)は、シャネルも感激をしたという話もあるので、そのような影響をこの香水に見る向きもある。
BOIS DES ILES 処方の経緯
最初の香水NO.5 を大成功させたパルファンシャネルが1920年代にリリースした香水の中の一つである。
1926年からいつまでが20世紀の天才調香師エルネスト・ボーの処方だったか不明。
1986年に当時の主任調香師ジャックポルジェにより処方は組みなおされ、さらに2000年代に入り、シャネルのレゼクスクルジブシリーズにラインアップするにあたり、再度ポルジェが処方をし直した。
私のコレクションは1986年に処方されたもの。パルファムエキストレ。
マイナーチェンジの範囲と思うが、一番の要因はこの香水の核心である白檀サンタルウッドにある。1920年代にはインドのマイソール産の最高級のサンタルウッドの入手が可能だった。
希少なサンタルウッドの採油、輸出を制限する政策がとられているので、現在は他で代替しなければならないのだ。
BOIS DES ILES/CHANEL/1926
その名の通り木々の香り~ウッディノートが際立つけれど、たくましさやワイルドさではなく、静けさと優美さをたたえた香り。
サンタルウッドとイランイランのアコードが遠い異国を感じさせ、同時に都会の喧騒や熱狂を鎮めるような落ち着きを感じさせてくれる。
香りで、遥か彼方の見知らぬ島々に誘われる、陶酔感と癒し。
香り、思い、呼吸
10月23日がお誕生日の方、記念日の方おめでとうございます。