香水の棲む家
サロンドパルファンのラインアップを眺めながら。
かつてサンローランのオピウムなどをてがけたボトルデザイナーのピエールデュナンは「ボトルは香水の棲む家」と言っていた。
形のない香水にとって、それがどんな香りかを表すためにボトルデザインは重要な要素だった。
ボトルが香りを表現する。贅を尽くしたもの、伝統へのアンチテーゼ、新しい技術・・。様々なボトルデザインが過去には市場を跋扈していた。
レールデュタンには平和の象徴鳩が象られていて、これがある時から二羽になったので、マニアは一羽の時代のボトルを必死で探したり。カボシャールにはグレイのリボンが一つずつ手作業で結ばれていたり。オピウムはサンローランがコレクションしていた印籠がモチーフだった。
だから、香水の物語が一つ一つ違うように、その棲む家も一つ一つが異なり、そのものが商業上の話題の一つでもあり、香水という総合芸術の重要なファクターでもあった。
今は、コルビジェのようなモダニズム建築の集合住宅にそれぞれの香水が棲む。同一規格のボトルとパッケージ、辛うじてラベルの違いで、それが違うものとわかるプロモーション。
デジタルな志向だと思う。つくりやすい、パッケージしやすい、運びやすい、並べやすい、エコノミック。
けれど、これを始めてやったのは、レアパフュームのグタールでもディプティックでもない。
100年前の人。そう、ココシャネル。
薬瓶のようなスクエアなボトル、シンプルなパッケージ。ここには究極のシンプルが究極のエレガンスに通じるという美学もある。
サロンドパルファン2022では再生硝子を用いたボトルもあるようで、ボトルは香水の棲む家というより、メゾンの哲学で作られた家に変わってきたよう。