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辰砂(しんしゃ) 2月12日〜365日の香水

あかい鉱物
今の湖南省、かつて辰省と呼ばれた地域に多く産出した鉱物が辰砂で古くから水銀や顔料に重用されてきた人類とは縁深いもののよう。
私は英語名のシナバー(cinnabar)で馴染みがある。少し前にもシナバーで着色した古代紋様のような地図のような現代アートを見た。いわゆる朱色。
この鉱物は漢方では催眠や鎮静作用があるとのことで、今も用いられているそう。

その国のイメージカラー
西洋から見た中国のイメージカラーはやはり赤だろう。漢民族の好んだ紅やこのシナバー、朱色。人々が好んで用いた色がその国のイメージカラーになる。
調べたことはないけれど、それぞれの地域からの視点で、少し遠い地域に抱くイメージカラーというものがあるとしたら、興味深い。
例えばオリエンタル、西洋から見た東洋〜中近東あたりは黒とゴールドのような気がする。
いずれにしても、歴史ある中国の色を捕まえようとして、メインストリームの紅ではなく朱に置いたことが、なかなかの着想と思える。ちょっと斜めの目線。

黙して語らず
エスティローダーでは、暖かくミステリアスで果てしなく、スパイシーな香りと紹介している。いわゆる動物性香料の特徴を活かしたオリエンタルノートにスパイシーがガッツリとくんだ香り。
ミステリアスなのは、多くを包摂しながらも、多くを語らないからだろう。
朱という色の醸す世界は受け止める人によって全く違う文脈に置かれる。
同じ頃に世に出た同じようにスパイシーオリエンタルの香りはアヘンの名を冠し人々を一定のイメージに誘った。
それと比べると、シナバーの語るものはかなりダイバーシティになっていく。
挑発ではなく、受容。発見ではなく再発見。
そんな哲学がこのコンセプトに込められたのではと想像してしまう。
沈黙を前に私たちは自由に、そして束縛もされていく。

cinnabar/estee lauder/1977
今も健在のオリエンタルの知られざる名香。
そういえば、瞑想を欠かさないと言っていた人がいたけれど、目を閉じて意識を何か一点に研ぎ澄ましながら使ってみたい香りのひとつかもしれない。これは。
凛と引き締まった空間に流れる深淵で、何かへ誘うような魅惑の香り。
誘われたほうがいいのか、拒絶した方がいいのか。
答えは、その日その時の一瞬にある。
同時にこの香りはとても長く香り続ける。

香り、思い、深呼吸。

2月12日がお誕生日の方、記念日の方、おめでとうございます。

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