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直線がつくるたおやかさ 11月9日〜365日の香水

曲線美と直線美
ニキドサンファルのことを書いた時、彼女が丸いもの膨らんだものを愛し、尖ったものギザギザのものを好まなかったことに触れた。
私自身もどちらかといえば、曲線が好きだ。
思い返すと二十代の頃はシャープな直線的なものが好きだった。デザイン、アクセサリー、家具。
いつのまにか好みは変わっていた。

直線が形作る曲線美
今日の香水を保管棚から引っ張り出して久しぶりに眺めた。
それは全てが角と直線で構成されているのに、全体としては曲線的でふくよかだった。
曲線、直線というのは部分よりも全体なのかもしれない。
角と直線を連続させて、流れるような曲線を感じさせる、そのように構成することで角は丸になる。

ジャック・ファット
ジャック・ファットは第二次世界大戦前にパリでメゾンを開き、1940年代から急逝する1950年代半ばまで、パリのモード界の中心的人物だった。
血縁には、ナポレオン三世の妃ユージェニー皇妃のために服を作っていた先祖もいるという。
アシンメトリーやカットの大胆さなどで知られる。
いくつか彼のデザインを見たけれど、タイトスカート風のワンピースは異素材を組み合わせ直線で構成されながら、とてもエレガントさが漂よう。
一方でヘッジを大胆な円形にカットしたコートはシャープな印象。
ジバンシーやギラロッシュも彼の下で修行をしていた時期がある。
40代という若さで急逝していなければ、もっと多くの影響をモード界に与え軌跡を残したのではないかと思われる。

メゾンを代表する香水
このジャック・ファットから1953年に「fath de fath」つまり“ファットの中のファット”と言う香水が出た。ジャックファットの儚くなる前年のことだった。
全盛期の血筋も才能もあるクチュリエの、「これぞ私」というネーミング。
フランス語の〜de〜、英語の〜of〜のような言い方は古代からあり、紀元前12-3世紀頃のアッシリア王が自身を王の中の王と名乗った記憶もあるそう。
当時のジャックファットに相応しいネーミングだと思う。

fath de fath/jeaques fath/1993
伝説の1953年版の復刻で、ボトルデザインも当時のデザインを復刻している。
重厚なオリエンタルタイプだけれど、ヘリオトロープなどクラシカルなフローラルと90年代的なフルーティーとが溶け合い、時代を超えたエレガンスが香る。
ジャックファットは香水部門だけ資本を変え現在も継続している。
昨日も書いたけれど、ファッションに若者文化が入り出す以前の時代〜50年代を復刻したような香りだ。
直線と曲線の二項対立ではなく、互いが交差し優美な形を作っている。

香り、思い、呼吸
11月9日がお誕生日の方、記念日の方、おめでとうございます。

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