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シンプルに見せる緻密な構造と幸福の花 1月3日~365日の香水

自然の再現
調香師の最大のライバルは自然と言っていたのはジャン・クロード・エレナ(Jean Claude ellena)。
地中海の風が運ぶレモンの香り、雨上がりの庭の匂い、調香師が魅入られた香りの体験を再現する。それでも自然には叶わない、ということだろうか。あらゆる芸術は「再現」だと言えるから、自然は調香師の宿命のライバルなのかもしれない。

自然への復帰
今日の香水はクリスチャンディオールのディオリッシモ(Diorssimo/C.Dior)。
調香師はエドモンド・ルドニツカ(Edmon Roudnitska)。
以前書いたけれど、ジャン・クロード・エレナが尊敬していた先人だ。
なぜ、ルドニツカ自身が著書『香りの創造』の中でディオリッシモは”自然への復帰を呼び掛けた香水” と言っている。
そしてそれに続く、オーソバージュ(Eau savage/C.Dior)は”自然との仲直り”、ディオレラ(Diorella/C.Dior)は”古びた構想への絶縁の意思表示”だったという。
古びた構想とは20世紀の初めに世に出たNO.5(NO.5/Chanel)とシャリマー(Shalimar/Guerlain)でこれらはルドニツカによれば重い香りで素晴らしいものだけれど(執筆当時で)半世紀も前につくられたもの、ということだ。
そこから脱却して、再び自然に帰る香りに挑戦し誕生したのがディオリシモだという。

継承されるべき”構造”
ジャン・クロード・エレナがルドニツカに影響を受けたことの一つに「自然への畏怖にも近い思い」があるのかもしれない。
ディオリッシモはミュゲ(スズラン)の香りを特徴にしつつ、リラやジャスミン、ローズなどのフローラルがとてもフレッシュで軽やかにそして繊細に香るフローラルブーケタイプの香りで、誕生してすでに半世紀以上だ。
フローラルノート、ミュゲの香りは今も人気でニッチブランドでも扱いが多い。
ルドニツカは、それを「古びた構造」というだろうか?
あるいは「変装したディオリッシモ」というだろうか?
時を経ても残るべきものがある。
私にはNO.5やシャリマーと同じようにディオリッシモも残るべき香水だと思える。

ディオールとディオリッシモ
クリスチャン・ディオールは、なくなる前年にこのディオリッシモをリリースした。
ミュゲはディオールの好きな花の一つだった。1954年のコレクションはミュゲにインスパイアされたものだった。ミュゲのように清楚で気品のあるドレス。そのいかにもディオールという世界観をこの上なくぴったりの香りに再現したのが香水ディオリッシモだった。
さらに、デザイナーを触発し、香水の特徴ともなったミュゲの花は幸運を呼び込む花でもあった。

Diorissimo/C.Dior/1956
香調は前述の通りだけれど、これを評して「シンプルに見せるための複雑な構造をもつ」香りと言っていた。
言いえて妙で、清楚で気品のあるそしてとても軽やかなミュゲを中心にしたフローラルは、そうなるために実に複雑で巧みな構造を持っている。
未来に伝えるべき構造。
香りとしての価値だけでなく、そのメインテーマが幸福を呼び込む花というのもなんとも素敵だ。

香り、思い、呼吸
1月3日がお誕生日の方、記念日の方おめでとうございます。

ルドニツカトジャンクロードエレナについては下記もぜひご覧ください。


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