略奪者と美しい真実 11月16日~365日の香水
フローラルオリエンタル誕生
この香水が誕生したのは1962年。
ムスクやアンバーを用いたオリエンタルタイプであり、
それに負けず豪華なフローラルが協奏するフローラルオリエンタルのルーツのような存在である。
それは濃厚、妖艶というオリエンタルタイプから、豊潤、優美なフローラルオリエンタル(以前はセミオリエンタルともいわれた)が誕生した瞬間でもあった。
ヴェルサイユの舞踏会
香水に付けられた名は「ヴェルサイユの舞踏会(Bal a Versailes)」だった。
先に"舞踏会”のイメージがあったとはいえ、香調に対して、これ以上に似合うものがないピッタリのネーミングだった。
バロック音楽の弦楽器の音、太陽王のバレエとゲストが一瞬で心奪われる鏡の間の光景、香りを通して一瞬に聞こえてくる音、浮かぶビジョン、体感。
この香水はヴェルサイユの舞踏会そのもの。
ジャンデプレ(Jean Desprez)
先月書いたクレープデシン(シナのシルク)の調香師のジャンデプレ。
その時も書いたが、今日の香水ヴェルサイユの舞踏会の調香師でもある。
クレープデシンで才能を証明し、独立後のベルサイユの舞踏会で圧倒的な軌跡を残した。
実は、クレープデシンからベルサイユの舞踏会まで40年近くの歳月がある。
調香師の簡単すぎる略歴を記すと、
1898年 生誕
1925年 エフミロ社で「クレープデシン」(27歳)
1962年 自ブランドで「ヴェルサイユの舞踏会」(64歳)
1973年 死去(75歳)
歴史的な評価
経歴の略し方の問題だけれど、それでも彼について特筆するのはクレープデシンとヴァラベルサイユに尽きると思う。
しかし彼の高級香水メゾンは1939年から創業者が亡くなった後も1990年代くらいまで独立資本で続いた。
そんなことを考えると、歴史的評価というのはなんだか寂しいものだなと感じた。
グローバルマーケットで知られるヒット作がいくつかるか、事業がどのくらい続いたか。
そんなことよりもパリのラぺ通りのメゾンに訪れた人々の高揚や歓喜、歴史に残らない一日一日が本当の価値だと思えてくる。
略奪者によって否定されること、そして真実
同じように、統治者が変わる時、新しい統治者が躍起になって自分の正当性を主張したいために前任者を否定する、捏造して悪に塗り替えるということも歴史の中では定石。
略奪者によって、全否定が起こる。
だから、「次の人」が捏造した歴史よりも、その時代、その人のいた時空を想像しながら「それが続いたこと」の奇跡や、その中にあった価値に思いをはせたいとつくづく思う。
エレガントな尊重
「略奪者の全否定」あちこちで見て取れる。
そうしたくなるのがホモサピエンスの本能なのだろうか。
それでも、他者の否定によって自己の正当性を主張するようなマインド、行いを私は下品に思う。
他者の否定、事実の捏造などを(我慢してでも)決してしない、それが
いつも言う「エレガントな尊重」だと、改めて思う。
Bal a Versailes(ヴェルサイユの舞踏会)/Jean desprez/1962
350種を超える香料が配合されているという。
オリエンタルノートとローズ、ジャスミン、イランイラン、リラといった誇り高いフローラルの調和。
パウダリックで温かみがあり、冒頭書いた通り豊潤で優美。
絶対王政は民衆に辛苦を強いたので否定された。そのことで国民国家が誕生した恩恵は私も受けている。
それでも、ヴェルサイユを全否定することなく、舞踏会のきらめく時間に思い馳せたい。
香り、思い、呼吸
11月16日がお誕生日の方、記念日の方、おめでとうございます。