維新「政治改革大綱」の唯一残った課題は何か - 政治資金パーティーを全面禁止すべき理由 -
1.合格だが満点ではない維新「政治改革大綱」
本日1月29日、日本維新の会の「政治改革大綱」が公表されました。党として、政策活動費(組織活動費)の廃止を決めるとともに、政治資金パーティー券の企業団体売りを禁止することとなりました。私個人は政治資金パーティーの全面禁止を求めてきましたので100点=満点とは言えませんが、ここまで来るだけでも大変な調整がありましたので(僭越ながら)95点と評価し、関係者には改めて敬意を表したいと存じます。
そう申し上げた上で、日本維新の会は、なぜ政治資金パーティーの全面禁止に踏み込まなかったのか。それは、寄付(=献金)とパーティー券とのアナロジー(類推)に囚われているから、であると感じています。つまり、企業団体献金は維新として禁止をしてきた、だから政治資金パーティーについても企業団体売りは禁止する、しかし個人売りは構わない、というのです。橋下徹元代表が頻繁に使ってきたロジックです。
しかし、政治資金パーティー券購入と寄付とを同一視するのであれば、そもそも寄付(寄付規制)に一元化すればいいじゃないか、となります。個人の支援者からすれば、個人寄付なら寄付金控除(確定申告を通じた所得控除)を受けることもできるので、寄付の方がメリットがあります。個人購入を偽装しつつ裏で企業団体が購入(経費処理)するといった悪質なケースを除けば、あえて政治改革パーティーを開催する理由はないはずです。
そうした観点から、政治資金パーティーは全面禁止すべきという意見も多数あったにもかかわらず、(個人献金とのアナロジー(類推)から)政治資金パーティー券の個人売りを残した点について、私は減点せざるを得ないのです。当面の政治的メッセージとしては有効でも、政治資金に関する規制の在り方としては、以下に述べる政治家特権としての「錬金術」を温存したという点で課題が残ったと指摘せざるを得ないのです。
(もちろん、国政報告会といった飲食なしの会合や実費での懇親会=パーティーは、いくらでも開催して結構です。問題になっているのは、「政治資金を集めるため」のパーティー(=政治資金パーティー)です。)
2.政治資金パーティーが繁盛してきた理由
そもそも、なぜ政治資金パーティーが繁盛したのでしょうか。一言で総括すれば、それは規制が緩かったからです。寄付規制の迂回手段として活用されたのです。
政治団体の収入には、「寄付」収入と「事業」収入があります。政治資金規正法は、当初から「寄付」に関する量的質的な規制(の強化)に焦点を当ててきたため、「寄付」規制が強化されるに従い、政治家たちは、規制のない(規制の緩い)「事業」収入に頼るようになっていったのです。
そもそも政治団体の「事業」収入に固有の規制は存在しなかったのですが、1975年の政治資金規正法改正で初めて機関誌発行や政治資金パーティー開催といった「事業」の種類ごとに収入金額を記載する義務が定められ、自民党の「政経文化パーティー」や政治家の「励ます会」などの規模が明らかとなっていきました。
1987 年 5 月 21 日に竹下登自民党幹事長(当時)が催した「激励の夕べ」では、1回のパーティーだけでパーティー券売上 11 億 2 千万円、経費を差し引いた純益 10 億円余であったと言われています。そして、こうした手法は、自民党だけでなく野党も広く活用し、当時の社会党は、同年の2 回の党主催パーティーで 3 億 4 千万円を売り上げたと報告されています。
こうした寄付規制を迂回するような政党や政治団体による政治資金パーティーは、さすがに「やりすぎ」だろうということで、1992年の政治資金規正法改正で初めて「政治資金パーティー」が定義され(法第8条の2)、同一の者から上限150万円という量的制限(法第22条の8)やパーティー券、案内状、開催通知等による告知義務(法第22条の8第2項)等が規定されたのです。
もちろん、これは「規制」ですから、政治資金パーティー規制が導入された1992年以前と以後とを比べると、1992年以後の方が政治資金パーティーを開催する制約は強くなった(規制強化された)わけですが、政治資金パーティーの対価の支払額が上記の上限額以内であれば「寄附には当たらない」ものとして擬制する明文の「セーフ・ハーバー規定」として機能したことが、1992年以後も政治資金パーティーが繁盛し続けた理由の一つであったと考えています。
3.政治資金パーティー等を全面禁止すべき理由
冒頭書いたように、日本維新の会は、企業団体献金を禁止をしてきたことと平仄(ひょうそく)を合わせるために政治資金パーティーの企業団体売りについても禁止としたわけですが、政治資金パーティー券購入と寄付とを同一視するのであれば、そもそも事業収入(収益)を寄付収入と合算して寄付規制に服せしめるのが筋であります。
また、日本維新の会としては、いわゆる吉村私案の表層だけを取り上げ、「政治団体の行う収益事業に対する課税」を打ち出しましたが、「収益事業だから課税する」というロジックだけでは、国税庁が答弁するように「政治資金パーティー」は「収益事業」(=34事業)には含まれない、鈴木財務大臣が答弁したように、①継続して事業場を設けて行われるものであるか、②他の公益法人等で行われている類似の事業に課税した場合にどのような影響が生じるか、③営利企業とのあいだで競合関係が生じ公平性が毀損されるかどうか等を総合的に検討し「収益事業には該当しないし、させるべきでもない」と言われて、議論は終了してしまいます。
そもそも、吉村私案のいう原則課税化の本質は、「民間準拠」と「政治家特権廃止」ですから、素直に、事業を通じて収益をあげたいのであれば(私が株式会社を立ち上げYouTube配信事業、セミナー事業等を展開しているのと同じように)「民間と同じ条件でやる!」に尽きるし、政治資金を集めたいなら「寄付を募る!」に尽きるのです。
現行法のもと政治団体が政治資金を集める方法には、1)正面から「寄付」を募る方法、2)民間と同じ条件で「営利事業」「(非営利団体の)収益事業」(=課税事業)を営む方法、そして、3)政治資金パーティー等の非課税事業を営む方法、の3つがあるわけですが、第三の政治資金を集めるための非課税事業が問題なのは、当該事業を通じて対価を集める際の本来あるべき時価(=社会通念上の価額)を決めることが極めて難しいことなのです。
だから、会場のキャパシティの数倍にもおよぶパーティー券(=参加権)を売り捌いて収入を最大化したり、食事等の経費を極端に圧縮する誘因が際限なく働くのです。その成れの果てが、いわゆる架空のでっちあげパーティーです。催物をやったことにして、実際にはやらない。政治資金を集めるための非課税事業をやって政治資金を集める「錬金術」の誘惑は、極めて強いのです。
そうした今の制度体系のもとでは、社会問題化した「政治資金パーティー」(政治資金規正法8条の2)というカテゴリーだけを禁止しても、別の新たなカテゴリー(=ビジネスモデル=錬金術)が出現することが容易に予想できます。だからこそ、政治資金パーティーを含めて(対価を集める際の「社会通念上の価額」を決めることが困難な)非課税事業を通じた政治資金集めについては、全面禁止しなければならないのです。
4.政治改革を断行し新しい時代を拓こう!
本日公表された日本維新の会版「政治改革大綱」は、歴史的文書です。古い55年体制下の政治慣行を引きずる旧来の与党と野党とは全く違う、地方から生まれた唯一の国政政党が、戦後政治を牽引してきた自民党の派閥パーティー裏金事件を機に、本来の政治倫理の在り方、本来の政治資金の在り方、本来の政治改革について、その考え方、ビジョンを打ち出した。
だからこそ、今後の歴史的検証に耐えられるよう、党内議論の中で何が議論され、何が決まり、何が決まらなかったのか、を正確に書き残しておくべきと考え、筆を執りました。大綱=提言がまとまった、その足元から課題を申し述べるのは少々躊躇しましたが、今国会での政治資金規正法改正論議に資するため、との観点も含め、ご理解を賜りたいと存じます。
いまこそ政治改革を断行し、新しい時代を拓いていまいりましょう!
足は地元に、心は国に、眼は世界に。