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ユヌス博士のバングラディシュ暫定政府主席顧問就任について
今回のバングラディシュの政変で長年独裁政権を率いてきたハシナ首相がインドに逃走し 同国内が混乱しているようです。JETRO サイトを見ると、暫定政府は発足したものの治安 の混乱は続いているとのことです。
ハシナ首相がインドへ逃亡した後も、民衆デモが収まることなく警察署の放火や警察官を 狙った襲撃が相次ぎ、街からは警察官が身の安全を守るため一斉に姿を消したようです。 また、警察官自身もこの混乱に相乗りして労働環境改善のストライキを実施しているため、 警察官が治安維持の役割を果たしていないわけです。銀行側も ATM の現金の補充が治安悪化のため出来ないので ATM を閉鎖せざるを得ない状況とのことです。
こんな混乱状態の中バングラディシュ暫定政府首席顧問(実質的政府トップ)に就任され たムハマド・ユヌス博士(ノーベル平和賞受賞者)はさぞや大変なご苦労をされているこ とと思います。 そもそも何故ユヌス博士が実質的政権トップに押し上げられたのでしょうか。ユヌス博士が自ら立候補したわけでもないでしょうに。
私はユヌス博士にお会いしたことなどない平凡な一般市民ですが、おそらくユヌス博士にはバングラディシュ国民の中の意見の違いや対立感情という違いを包み込むご人徳があるお方なんだろうと僭越ながら推察しています。
かつて童謡詩人に金子みすゞさんという方がおられました。彼女の有名な詩の1つに
『私と小鳥と鈴と』があります。
私が両手をひろげても、お空はちっとも飛べないが、飛べる小鳥は私のように地面(じべ た)を速くは走れない。私がからだをゆすっても、きれいな音はでないけど、あの鳴る鈴は 私のように、たくさんな唄はしらないよ。鈴と小鳥とそれから私、みんなちがってみんな いい。
バングラディシュ国民に限らず私たち人間はそれぞれ自分の考えが正しくそれ以外の考え 方は間違っていると思って暮らしていると思います。しかし最近の私は、例えば「正しい」 「まちがい」という言葉について色々考えてしまいます。 「正しい」という言葉はよくよく考えてみると「間違い」という言葉が存在しなければ存在できないことが分かります。「善悪」も「悪」という言葉がなければ「善」という言葉は存在できません。逆に「悪」という言葉は「善」という言葉が無ければ、言葉として存在意味がありません。ことこのように私たちが日頃語っている言葉は全て対義語が無ければ、 それ自体が言葉として成立しないことに気付くと思います。
最近の私は例えば「正しい」 「間違い」という言葉を含めて言葉のすべてが、対立した言葉、言い換えれば敵同士であると同時に、互いの存在を支え合っている言葉だと考えるようになりました。
ユヌス博士もバングラディシュ混乱の中で、それぞれの対立した主張(言葉)を対立と心得つつも、同時にその対立を包み込み混乱の解決に努力されているんだろうなあ、とその ご努力に対して心の中で応援しご成功をお祈りしつつ興味を持って見守っています。