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声をつむぐ未来(6)

ここにきて一段とChatGPTをはじめとする生成AIへの関心が高まっているのを感じる足立明穂です。ただ、なんちゃってAI先生も見受けられるのでご注意くださいねw まあ、いつでも、新しいことがブームになると、その手のセミナーや研修など増えますよねぇ・・・w

さて、SF短編集の『声をつむぐ未来』もだんだん終わりに近づいてきています。

これまでのを読んでないよーって人は、下記から読んでみてくださいね。

では、この続きは、どうなるのか?w お楽しみくださいw

声が紡ぐ未来(2045年・東京)

「おばあちゃん、聞いて!」

アカリは興奮した様子で祖母の家に駆け込んでくる。春野ミライは、窓際の古い椅子に座ったまま、孫娘を優しく見つめた。

『会議は上手くいったのね』

合成音声が、静かな部屋に響く。

「うん!みんな、声のエコシステムの考え方に賛成してくれて。これからは人間もAIも、もっと自由に声を使えるようになりそうなの!」

その時、祖母のミライがゆっくりと立ち上がり、古いタンスから一つの箱を取り出した。

『アカリ、これを見せたかったの』

箱の中には、古いカセットテープが何本も入っている。それぞれに日付と「練習」という文字。

『私が声優として、一つの役を演じるために何度も練習を重ねた記録』

アカリは手に取ったテープを、不思議そうに見つめる。

「同じセリフを...何度も?」

『ええ。時には何百回も。一つの言葉に魂を込めるために』

アカリの表情が、少し曇る。

「でも、今なら音声編集で...」

『そうね、今はテクノロジーで完璧な声が作れる』

ミライの合成音声には、皮肉めいた響きがあった。 アカリは、祖母の気持ちを察して慌てて言い添える。

「違うの、おばあちゃん。私が言いたいのは...」

『聞かせてみて?』

「え?」

『あなたが会議で発表した、新しい声を』

アカリは少し躊躇いながら、最新の録音機を取り出した。画面に触れると、先日の発表音源が流れ始める。人間とAIの声が溶け合い、新しい次元の表現を織りなす音色。

「これが私たちの目指す...」

『違うわ』

ミライの言葉に、アカリは息を呑む。

『完璧すぎる。魂が見えない』

「でも!」アカリの声が熱を帯びる。「時代は変わって...」

祖母のミライは、タンスから取り出したテープを再生した。かすかなノイズと共に音が漏れ出た。誰かが泣いている声。

「これは...?」

『私の練習テープ。このシーンのセリフが、どうしても出せなくて、泣きながら練習していた時』

ミライは箪笥からもう一本のテープを取り出す。

『そして、これは当日の収録』

今度は、澄んだ声が響く。先ほどの泣き声からは想像もつかない、力強く、しかし深い悲しみを湛えた演技。

「同じ人の、同じセリフなの...?」

アカリは、自分の録音機の画面を見つめ直す。 そこには確かに足りないものがあった。 汗と涙の痕跡。 試行錯誤の軌跡。 そして、それらが紡ぎ出す、かけがえのない何か。

「おばあちゃん」

アカリは両方のテープを手に取った。練習の記録と、本番の収録。

「この二つの声の違い...それは、きっと」

『時間よ』ミライの合成音声が静かに響く。『積み重ねた時間が、声を育てる』

「でも」アカリは自分の録音機の画面を見つめ直す。「私たちが目指しているのは、その時間を...否定することじゃない」

アカリの指が、画面上を舞う。 波形が変化していく。

「この上下の揺らぎ、見て」

画面に、新しいパターンが浮かび上がる。

「これは時間軸。声が育っていく過程そのものを、データとして織り込めないか、って考えてるの」

ミライが、わずかに身を乗り出す。

「本番だけじゃない。練習も、失敗も、涙も、全部含めて一つの声。そうやって紡がれた糸を、新しい技術で編んでいくの」

録音機から、不思議な音が流れ始めた。 まるで、時間という縦糸に、技術という横糸が、少しずつ絡み合っていくように。

『それは...』

アカリの録音機から流れる音は、次第に変容していく。 練習テープのノイズまじりの泣き声が、データの海を泳ぐように。 本番の澄んだ声が、それを包み込むように。 そして現代の技術が、その二つの声の間を縫うように。

『待って』

ミライが、箪笥から新しいテープを取り出す。

『これも...聴いてみて』

収録時のスタジオの空気。緊張した呼吸。 ディレクターの指示。 アフレコの前の、かすかな震え。

「これ全部、音声として残してるんだ」

『ええ。私たちの時代は、これが当たり前だった。現場の空気も、人との関わりも、全部テープに刻まれていく』

アカリは、画面のパラメータを調整する。 録音機が、古いテープの音を解析し始める。

「見えてきた...」

画面に、複雑な波形が浮かび上がる。 それは単なる声の記録ではなく、時代の空気や、人々の呼吸や、温もりまでもが、データとして織り込まれている。

『アカリ...あなた、何を作ろうとしているの?』

「声の織物」

アカリは、いたずらっぽくウィンクした。

「おばあちゃんが大切にしてきた時間という縦糸に、新しい技術という横糸を通して、記録と記憶、過去と未来が、織り込まれるの」

『でも、それは本当にできるの?』

ミライの問いに、アカリは画面をスワイプする。

「見て。このスタジオの空気の振動、他のスタッフの呼吸、緊張した空気。テープに残された全てが、データとして解析できる」

アカリは新しいプログラムを起動させた。

「そして、現代の音声合成は、これらを再現できる。完璧な声じゃない。人間らしい揺らぎのある、温かい声ができるはず!」

『まるで...』

「うん。声の織物だよね!。伝統的な手法と、最新のテクノロジーが、一つの声を紡ぎ出していく」

その時、録音機から思いがけない音が流れ始めた。 ミライの若かりし頃の声、スタジオの空気、そして現代のAI技術が織りなす、まったく新しい響き。

『これは...』

ミライの合成音声が、感動に震える。

「おばあちゃんの大切にしてきた"時間"と、私たちの"革新"。どちらも欠かせない」

アカリは、古いテープと新しい録音機の間に手を置く。

「私たち、ずっと対立するものだと思ってた。でも、違った。織物には縦糸も横糸も、両方が必要なように...」

「ねえ、おばあちゃん。私たちの声って、こうやってずっとつながっていくのかな」

その時、録音機の画面に新しいデータが流れ込んでくる。 視聴者の反応、感情値、共感度...。 それらが新たな糸となって、声の織物に織り込まれていく。

「あ...」アカリが息を呑む。

声が、見る見るうちに変化していく。まるで生命が進化するように、聴く人の心に響くたびに、新しい表情を見せ始めた。

『面白いわね』ミライの声も、かすかに変化している。『私の声も、あなたの声も、この瞬間も成長してるのね』

「うん。もう声は、一度記録して終わりじゃない。聴かれるたび、感じられるたび、新しい糸が織り込まれて...」

『そうやって、永遠に紡がれていく』

窓辺に置かれたタンスの中の古いテープは、もはや過去の記録媒体ではない。それは、未来へと続く声の源流。いつの時代も、誰かの心に寄り添い、響き合い、進化し続ける声の、始まりの場所なのだ。

画面の波形が、春の光のように明滅する。 そこには、終わりのない物語が、今も紡がれ続けていた。

(おわり)


いかがだったでしょうか?

かなりファンタジーのようなものになってしまいますw

はてさて、次回は、どうなっていくのか?

AIと共著で書き上げる小説の行く末は、見通せませんねぇwww


あ、よかったら、こんな動画セミナーもありますw



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