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声をつむぐ未来(1)

生成AIが急速に進化するなかで、これまで考えてこなかったような倫理や価値観、社会の在り方にまで影響が出てきているなぁって思う足立明穂です。

さて、画像生成AIもそうですが、音声認識、音声合成が進んできて、声優さんたちも、なかなか大変な状況になってきてますよね。

ただ、これ、「声の権利」を認めればいいのか?というと、そんな単純な話ではないのですよね・・・

ちょっと先の未来をSFにしてみました。今回は、その1ってことで。
あ、もちろん(?)、ChatGPTでネタだしから全体構成を考え、Claudeに小説を書いてもらいましたw

声をつむぐ未来

プロローグ:2025年、声が消えはじめた日

春野ミライは、自分の声で歌っている動画を見つめていた。

それは確かに自分の声だった。しかし、彼女は一度もこの曲を歌った覚えがなかった。

「どうしてこんなことが...」

オフィスの窓から差し込む夕暮れの光が、彼女のタブレット画面に映り込む。画面の中では、3Dモデルの少女が、ミライそっくりの声で歌い続けていた。投稿日時は3時間前。再生回数はすでに50万回を超えていた。

ミライは思わず画面に指を触れる。そこには確かに自分がいて、しかし明らかに自分ではない何かがあった。声質、抑揚、感情の込め方―─すべてが完璧な「ミライの声」なのに、彼女自身の記憶には存在しない歌声が響いている。

「春野さん、次の収録の準備が...あれ?大丈夫ですか?」

マネージャーの井上が部屋に入ってきて、ミライの様子に気づいて足を止めた。

「ねぇ、井上さん」

ミライは黙ってタブレットを差し出した。井上は画面を覗き込み、すぐに顔色を変えた。

「これ、いつの...」

「私が歌った覚えのない曲です」

答えながら、ミライは自分の声が少し震えているのを感じた。どんなに多くの人の前でも緊張したことがないのに、こんなことは初めてだった。

「AIですね」井上は眉をひそめながら言った。「最近、声優の声をAIに学習させて、新しい音声を作り出す技術が出てきているって聞きましたが...まさか、こんなに完璧に...」

完璧―─その言葉がミライの胸に刺さった。

確かにその通りだった。音程のブレや微妙な声質の変化まで、まるで本当に彼女が歌っているかのよう。いや、もしかしたら本物の彼女以上に「完璧な春野ミライ」の声かもしれない。

「権利的には...」

「声そのものには、著作権も肖像権も適用されないんです」井上は申し訳なさそうに言った。「楽曲や台詞には権利がありますが、声質そのものは...」

その時、ミライのスマートフォンが震えた。SNSの通知音。画面を見ると、「#SpringVoice」というハッシュタグが急上昇中だった。

タグをタップすると、次々と投稿が流れてくる。

「すごい!ミライの声でボカロ曲歌わせてみた!」
「AIで春野ミライになりきってみた」
「ミライちゃんの声素材、共有します!」

投稿は数分ごとに増えていき、それぞれに新しい「ミライの声」が付けられていた。

「井上さん」

震える声で呼びかけながら、ミライは立ち上がった。窓の外では、東京の街が夕暮れに染まっていく。どこかで誰かが、今この瞬間も、彼女の声をコピーし、加工し、新しい「ミライ」を生み出しているのかもしれない。

「これから、私の声は、どうなっていくんでしょうか」

その問いかけは、日が暮れた空に吸い込まれていった。

夜空に浮かぶ巨大ビジョンには、相変わらず明るい笑顔のアイドルたちが踊っている。その中に、もしかしたら、もう一人の「春野ミライ」がいるのかもしれない―─。

第一話:コピーされた私(2025年・東京)

「七瀬さん、これ見ました?」

事務所の後輩が差し出したスマートフォンに、七瀬カレンは目を疑った。スマートフォンの画面には、彼女が演じたことのないアニメのシーンが再生されている。でも、そこで話しているのは、間違いなく自分の声だった。

「まだデビュー3年目なのに、もう私の声がコピーされちゃったの...?」

カレンは呟いた。春野ミライのような大御所ならまだしも、新人の自分の声までコピーされるとは思ってもみなかった。

「すごく話題になってるんです。『新世代声優・七瀬カレンの声でAI作品を作ってみた』って。もう10万回以上再生されてます!」

後輩の青山はどこか興奮した様子で続けた。「カレンさんの声、完全に再現できてるんです。しかも、元のデータは全部、カレンさんのラジオ番組からAIが学習したみたいで...」

「ラジオ...」

そうか、とカレンは思い当たった。半年前から始めた深夜ラジオ。リスナーとの距離が近くて、気持ちを素直に伝えられる場所が、こんな形で...。

「すごいです!カレンさんの声、もうそんなに人気が出てるんですね。デビュー3年目で真似されるなんて!私なんか、まだラジオのお仕事も...」

「青山さん」

カレンは静かに、しかし芯の通った声で後輩を遮った。

「私ね、声優になりたくて、ずっと頑張ってきたの。演技の専門学校に通って、何度もオーディションを受けて...やっとここまで来られた。でも、AIが私の声を真似て、好き勝手に使えるようになったら、私の仕事はどうなるの?」

カレンの声が少し震えた。

「私の声が広がることは、本当なら嬉しいはず。でも、これじゃまるで...まるで私の存在が、データの一部みたいじゃない。誰かが私の声を使って、私の知らない演技をして、それが世界中に広がっていく。それって...それって本当に『すごい』ことなの?」

青山は黙り込んだ。彼女の声に込められた感情の重みに、何も言えなくなったように見えた。

オフィスの廊下を、誰かの足音が通り過ぎていく。窓の外では、東京の街がいつもと変わらない喧騒を奏でていた。

「ごめんなさい、私...」

青山が謝ろうとした時、カレンのスマートフォンが鳴った。マネージャーからのメッセージだ。

『重要:AI声優問題について緊急会議』

画面をスクロールすると、春野ミライの名前が目に入った。業界の大御所が動き出したようだ。

「青山さん」

カレンは立ち上がりながら、後輩に向き直った。

「私の声は、私のものよ。でも、それは私だけの問題じゃない。私たちの世代が、これからどう声と向き合っていくのか...それを考えなきゃいけない時が来たのかもしれない」

「カレンさん...」

「会議に行ってきます」

カレンはカバンを手に取り、颯爽とオフィスを出た。エレベーターに乗り込みながら、彼女は考えていた。

これは終わりじゃない。新しい何かの始まりなのかもしれない。

デビューの時、初めての現場で、緊張で声が出なかった自分。それでも、一言一言に魂を込めて演じてきた。その積み重ねは、決してAIには真似できないはず。

エレベーターが下降していく。

表示される階数は1つづつ小さくなる。まるでカウントダウンのように、カレンの決意は固まっていった。今、新しい時代の声優として、自分にできることは何か。

出待ちのファンたちが、事務所の前に群がっていた。3年目のカレンではなく、ベテラン声優を待っているのだ。いつもなら、気にされることなく素通りするのだが、今は違った。スマートフォンを手に持ち、カレンをチラチラ見ている。おそらく例の動画と見比べているのだろう。

カレンは深く息を吸い、背筋を伸ばした。

「がんばれ!七瀬カレン!」

そう言って一歩を踏み出した時、彼女の声は、不思議なほど力強かった。

第二話:誰のものでもない声(2027年・渋谷)

渋谷のスクランブル交差点に、少女の歌声が響いていた。

「綴った手紙を~ 夜風に~乗せて~
 届けた~いよ いつかき~っと出会える~
 私だけの メロディ~」

黒髪をなびかせながら路上ライブをする美咲は、17歳。制服姿のまま、週末だけ許可を得て路上パフォーマンスをしている高校生シンガーだ。

一曲が終わり、拍手が沸き起こる。美咲が喉を潤そうとボトルに手を伸ばした時、ギターの伴奏を担当する幼なじみの健一が、楽器を構え直すふりをして彼女の横に寄った。

「なんか変だよ」

健一は、周囲の喧騒に紛れないよう、美咲の耳元で囁く。

「いつもの倍以上、人が集まってる」

美咲も気づいていた。確かに観客の数が普段より多い。でも、それだけじゃない。みんなスマートフォンを手に持って、画面と美咲を見比べるような仕草を繰り返している。まるで本物を確かめるみたいに。

「次の曲、行こうか」

美咲が頷こうとした時、観客の一人が前に出てきた。

「ねぇ、あなたが本物の美咲ちゃん?」

二十代半ばくらいの女性だ。彼女は自分のスマートフォンを美咲に見せた。

「これ、見てみて」

その女性がスマートフォンの画面を向けてくる。その画面では、知らない誰かのアバターが歌っていた。美咲の中で何かが凍っていくのを感じた。しかし、隣で同じ画面を覗き込んでいた健一は、逆に脈拍が上がり、熱くなってきていた。

「すごいよね!あなたの声、『DIY Voice』っていうAIアプリで完全再現できるようになったの。世界中の人が美咲ちゃんの声で歌えるようになったのよ」

女性は興奮した様子で説明する。

「私も使ってみたんだけど、本当に簡単。歌いたい曲の歌詞を入力して、美咲ちゃんの声で歌わせたい感情を選んで...」

「健一、ごめん。ちょっと休もう」

「ああ」

健一はギターを置き、観客に向かって声を上げた。

「すみません、今日はここまでにさせていただきます」

その声には、いつもにない鋭さがあった。

スマートフォンを取り出した美咲は、「DIY Voice」で検索する。トップに表示されたアプリをダウンロードし、起動した。

「人気声素材ランキング」という項目をタップすると...。

「...3位!?」

美咲の名前が、上位にランクインしていた。週間ダウンロード数、10万以上。

「ふざけんな!」

健一の怒鳴り声が、スクランブル交差点に響き渡った。

「勝手に人の声を使って...美咲が毎日どれだけ練習して、どれだけ言葉を探して、自分の歌を作ってきたか...それを、ボタン一つで...」

健一の肩が震えている。幼い頃から美咲の歌を一番近くで聴いてきた健一だからこそ、この状況が許せないのだ。

「健一...」

美咲は静かに立ち上がった。さっきまでの観客たちは既に散っていき、代わりに無数の通行人が行き交っている。誰も二人に目を向けることはない。これが渋谷の日常だ。数分前まで、ここで歌声が響いていたことすら、誰も覚えていないかのように。

「私ね、歌いたいの」

美咲の声は、不思議なほど落ち着いていた。

「誰かの真似じゃなく、誰かのデータでもなく。この声で、この言葉で、私にしか歌えない歌を」

人の波が途切れることなく、二人の周りを通り過ぎていく。誰もが自分のスマートフォンを見つめ、誰かとメッセージを交わし、誰かの声を聴いている。その中のどこかで、もしかしたら、美咲の声も再生されているのかもしれない。

「帰ろう」

健一が楽器をケースに片付けながら言った。

「次は、もっと本物の歌を聴かせてやろうぜ」

渋谷の高層ビルの間に、夕暮れが沈んでいく。巨大スクリーンには、相変わらず色とりどりの映像が流れている。

その喧騒の中、美咲は新しい歌の言葉を探していた。

コピーされても、奪われても、消えない何か。 自分にしか作れない、本物の歌を。


第三話:声が消えた朝(2028年・横浜)

「おはようございます、タクミです」

いつものように朝の挨拶配信を始めた瞬間、チャット欄が慌ただしく動き始めた。

『音声が入ってないよ!』
『タクミさん、声が聞こえないです』
『マイクミュート?wwww』

タクミは困惑する。ヘッドフォンでモニターチェックをしているが、確かに自分の声が聞こえない。マイクに問題はないはずだ。昨日まで普通に使えていたのに。

設定画面を確認し、別のマイクに切り替えても状況は変わらない。

『タクミさんの過去の配信も再生できなくなってる!?』
『え、マジで!?』
『アーカイブ全部無音になってる...』

慌ててSNSを開く。昨夜投稿したはずの動画が、すべて再生できなくなっている。コメント欄には次々と新しい書き込みが。

『タクミさんの声、全部消えてる!』
『過去の動画も再生できない...』
『アーカイブが全部無音になってる』
『どうしちゃったの...?』

フォロワー数50万人。毎朝の挨拶動画が日課になっているボイスクリエイターの木村タクミは、突然、ネット上の声を失っていた。

タクミは椅子から立ち上がり、部屋の中を歩き回った。デスクの上には最新のマイク、壁には防音材。3年かけて作り上げた自分の仕事場だ。どこにも問題はないはずなのに。

『タクミさん、大丈夫?』
『声紋認証システムのエラーかな?』
『最近、無許可使用とかで規制厳しくなってるよね...』

チャット欄のコメントに目を通しながら、タクミは首を振る。規制?無許可使用?自分は誰かの声を無断で使ったわけじゃない。ただ、自分の声で配信しているだけなのに。

その時、スマートフォンが震えた。着信画面には「AI音声監理委員会」という見慣れない名前が表示されていた。

メール通知が届く。委員会からの緊急連絡だった。

『木村タクミ様の声紋データに関する重要なお知らせ』

画面に目を走らせていくうちに、タクミの表情が強張っていく。

昨日までの自分の声は、すべてデジタルデータとして存在していた。それが今朝、突如として「保護対象音声データ」に指定され、配信システムでの使用が制限されたという。

理由は「無許可の声紋複製による権利侵害の可能性」。

タクミの声が、誰かの声に似すぎていたのだ。

『貴殿の声紋データは、声優・春野ミライ氏の音声と97.8%の類似性が確認されました。当委員会は、AIによる無許可の声紋複製を防止する立場から...』

モニター画面に、慌ただしくチャットが流れていく。

『まって、タクミさんってAIなの?』 『いや、違うでしょ。本物の人間だよ』 『でも声、確かに春野さんに似てる気が...』 『タクミさんの声好きだったのに...』

キーボードを叩く手が震える。

《私はAIじゃありません。この声は、生まれた時から私のものです》

送信ボタンを押した瞬間、画面が溢れる。

『だよね!タクミさんは本物!』 『声が似てるだけじゃん』 『だって、あの時の配信...』

チャットの流れが変わる。視聴者たちが、タクミとの思い出を語り始めた。

『去年の台風の夜の配信、覚えてる』 『みんな不安だったのに、タクミさんの声で落ち着けた』 『朝の挨拶がない日なんて考えられない』 『機械には出せない温かさがある』

スマートフォンが再び震える。今度は親友の涼子からだ。

『タクミ!大変!あなたの声、全部AIに変換されちゃってる!』

添付されたリンクを開くと、タクミの過去の配信動画が次々と表示される。しかし、そこで流れる声は、明らかに機械的な音声に置き換えられていた。

《これは私の声じゃない》

チャット欄に投稿すると、すぐにレスポンスが返ってくる。

『ほんと、全然違う...』 『タクミさんの声の方が人間味がある』 『AIの声って、こんなに機械的だったっけ?』

涙が溢れそうになるのを堪えながら、タクミはデスクの引き出しを開けた。声優養成所の修了証が、静かに光を反射している。3年間、必死で声を磨いてきた証。

《私の声は、私のものじゃないんですか?》

送信ボタンを押そうとした時、新しい通知が届く。

差出人は、春野ミライだった。

心臓が高鳴る。タクミは震える指で、春野ミライからのメッセージを開いた。

『タクミさんの配信、ずっと見ていました。 朝が来るのを告げるように、視聴者の方々へ声を届けていましたね。変わらない日常がそこにある。それはきっと、私の声の仕事と同じ。

7月の雨の日の配信。私も見ていました。 チャットで子供を亡くしたという方が、突然悲しみを打ち明けてきた時。タクミさんは、その方のために急遽、子守唄を歌いましたね。

子育て中の母親として、その時の優しさが胸に沁みました。 あの優しさは、AIにも、私にも、出せないもの。

このメッセージと同時に、私からAI音声監理委員会へ連絡を入れさせていただきました。

声は、確かにタクミさんのものです。

春野ミライ』

画面が滲む。喉が熱くなる。

デスクの上のスマートフォンが再び震えた。今度は委員会からの新しい通知。

『木村タクミ様の声紋データに関する制限を解除いたします。 理由:対象声優からの異議申し立てによる再審査完了のため

加えて、当委員会は「人間の声の個性と価値」に関する新たなガイドラインを策定する運びとなりました。タクミ様のケースは、その先例として...』

続く文章を最後まで読む前に、タクミは立ち上がっていた。マイクの前に座り、深く息を吸う。配信ボタンを押す。

「おはようございます、タクミです」

自分の声が、ヘッドフォンから聞こえてきた。

チャット欄が、一気に動き出す。

『おかえり!』
『タクミさんの声だ!』
『よかった...朝が帰ってきた』
『待ってたよ!』

画面の向こうで、誰かが泣いているような気がした。 タクミも、もう涙を隠そうとはしなかった。

「ただいま。これからも、私の声で、みなさんの朝に寄り添っていけたらと思います」

窓の外では、横浜の街に朝日が昇っていく。 新しい一日が、かけがえのない声と共に、始まろうとしていた。

ー声をつむぐ未来(1) 終わりー

さて、この後、「声」はどうなっていくのでしょうか? 続編に期待してください!

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