見出し画像

声をつむぐ未来(4)

音声の生成AIに対して、声の無断使用をするなという声優の人たちの声明からインスピレーションを得て書いてきた(いや、AIが書いた?w)足立明穂です。

まずは、これまで書いてきたのは、下記から読めるので、まだの人は、ぜひ。

それぞれのショートSFも徐々に未来へと向かっていて、私自身もどんなエンディングになるのか楽しみですw


AIとの共著というのは、実に面白い試み。これまで小説って一人で書き上げるというのが、AIと協業で書いていくという面白い体験をこれからは、誰もができる世界になってきます。文章だけでなく、絵や写真、動画なども、どんどん協業できるおもしろい未来になりますよ。

それについては、このシリーズが終わったら、まとめてみたいと思っています。

今回は、2042年の未来。学校での話です。はたして、どんな「声」がつむがれていくのでしょうか?

第九話:シェアされる感性(2042年・メディアルーム)

「はい、録音開始」

シオンは画面に向かって口を開く。声がデジタル変調を通過し、心地よい中性的な音色となって出力される。

『みなさん、こんにちは。放送部の詩韻です』

母が付けてくれた名前。旧字の「詩韻」は難しすぎるからと、入学時に「シオン」と読み方を変えた。でも、その響きは気に入っている。

「...あー、やっぱりこの声、しっくりこないな」

シオンは音声設定パネルを開き、パラメータを少し調整する。より柔らかく、でも芯のある声。性別を感じさせない、けれど確かな個性を持つ声。

『こんにちは。放送部の詩韻です』

「うん、これなら」

満足げに頷いたその時、部室のドアが開く。

「シオン先輩、見てください!これ、倉庫から出てきたんです」

一年生のナギサが、埃にまみれた箱を抱えていた。

「なにこれ?」

箱の中には、見慣れない機械。SOUNDERという文字が、くすんだシルバーの筐体に刻まれている。

「テープレコーダーですって。70年前の文化祭の記録が入ってるみたい」

「テープ...レコーダー?」

シオンは首を傾げる。そういえば、祖父の家で見たことがあるような。

「再生...できるのかな」

手持ちのケーブルを繋いでみるが、端子が全然合わない。

「あ、電池が要るみたいです」ナギサがシオンの困惑した表情を見て、説明を加える。「充電池じゃなくて、使い捨ての電池」

「へぇ...」

シオンは、その古びた機械をまじまじと見つめた。スクリーンもなければ、ホログラムも出ない。ただ、黒い窓の中にテープが見える。

その中に、70年前の誰かの声が眠っているのだろうか。

「コンパチブル・デバイスを検出しました」

部室のAIアシスタントが、機械的な声で告げる。「校内の備品データベースに、適合する再生機器が登録されています。保管場所:歴史資料室、棚番号D-7」

「ナギサ、行ってみよう」

歴史資料室は、普段は立ち入り制限のかかるエリアだ。けれど、放送部の許可証があれば...。

「あった」

埃を被った棚の奥から、大きな再生機が姿を現した。シオンが電源を入れると、古い機械特有の温かみのある唸り声を上げる。

「不思議」とナギサが呟く。「なんでこんな原始的な方法で、音を記録してたんだろう」

「うん。今なら声紋データをナノクラウドに...」

言葉が途切れた。テープを再生すると、ノイズまじりの音声が流れ始めたのだ。

『はい、テスト、テスト。1972年、文化祭実行委員会です』

シオンは息を呑んだ。これは、明らかに...。

「男性の声、ですよね」ナギサが小さく言う。

今では、声に性別という概念を持ち込むこと自体が古いとされている。シオンたちの世代は、自分の好きな声を選び、時と場合に応じて使い分けるのが当たり前だった。

でも、このテープの中の声には、確かな個性があった。騒々しい背景音。時折混じる笑い声。そして、何より...。

『みんな、準備はいい?』

テープの中の声に、誰かが応える。 『はーい!』 『オッケー!』 『委員長、音が小さいよ!』

「なんか」シオンは思わず声を上げた。「生きてる」

「え?」

「この声、生きてる感じがする。今の私たちの声って、どれも完璧すぎて...」

そう言いながら、シオンは自分の声の設定画面を開く。完璧に調整された数値の羅列。感情のパラメータまで、細かく制御できる。

でも、この古いテープの中の声には、制御しきれない何かが含まれていた。

『えー、次は演劇部の発表です。今年は、不思議の国のアリス...』

テープの再生音に耳を傾けながら、シオンはスマートメモにメモを取っていく。

「これ、文化祭のドキュメンタリーに使えるかも」

「でも」ナギサが心配そうに言う。「音質が...」

確かに、ノイズだらけで、所々音が歪んでいる。今のデジタル録音とは比べものにならない。普通なら、AIにクリーニングを依頼して、ノイズを除去し、音質を最適化するところだ。

「ううん、このままでいい」

シオンは、声のパラメータ設定を開いたまま、画面を見つめている。

「ねえ、ナギサ。気づいた?この声たち、全部違う」

「え?」

「この頃の人って、一人一人、声が違うんだ。今の私たちみたいに、理想の声を選んでない。だから...」

シオンは自分の声の設定をすべてデフォルトに戻した。

『こんにちは』

驚くほど生々しい、等身大の声が響く。

「シオン先輩!」ナギサが目を丸くする。「その声...」

「うん、私の、調整してない声」

少し掠れていて、高くも低くもない、どこか不安定な声。でも、確かに生きている声。

『演劇部のみなさーん、準備はどうですかー?』

テープの向こうから、また70年前の声が呼びかけてくる。シオンは、スマートメモに新しいプロジェクト名を入力した。

「タイトルは...『声の考古学』」


あっという間に1週間が過ぎ、シオンは取りつかれたように70年前の音声を何十回と聞いてきた。そして、あることに気が付く。

ナギサを放送室に呼び出し、言った。

「ねえ、これ聞いて」

シオンはナギサに新しい音源を聴かせていた。

『70年という時を超えて、私たちは声に出会う―─』

シオンの生の声と、テープの中の声が、不思議な調和を作り出している。

『1972年、この学校の誰かが、マイクの前で緊張していた。2042年、私たちは声を選べるようになった。でも、この声たちは...』

背景では、文化祭の喧騒が、古いテープのノイズと共に流れている。AIで修復しなかったその音には、確かな空気感があった。

「すごい」ナギサが囁く。「でも、放送コンテストの審査、通るかな?」

毎年の放送コンテストでは、音質の完成度が重要な審査基準となる。現代の基準からすれば、このノイズまみれの音源は、明らかに"不完全"だ。

「ねえ、ナギサ」

シオンは、テープレコーダーの前に座る。

「あなたの声、聞かせて」

「え?」

「調整してない、素の声」

ナギサは躊躇った。デジタル変調なしで声を出すなんて、小学生以来かもしれない。

「恥ずかしい、です...」

「私も最初は怖かった。でも」

シオンはテープを巻き戻す音を聞きながら言った。

「この古い声たちが教えてくれたんだ。不完全な声にも、意味があるって」

部室の空気が、少しだけ震えた。

「こ、こんにちは...」

震える声。デジタル加工のない、生のナギサの声。少し高め、でも芯のある、確かな個性を持った声。

「いい声」

シオンは笑顔で言った。

「でも、どうしてそう思うか分かる?完璧だからじゃない。ナギサの今の気持ちが、そのまま声に出てるから」

テープレコーダーの針が、静かに回り続けている。

「私ね、気づいたんだ」シオンは古いテープを手に取りながら続けた。「この学校の70年前の文化祭の記録は、タイムカプセルなんかじゃない」

「どういう...意味ですか?」

「これは、その瞬間を生きた証なんだ。緊張して声が震えた時も、興奮して声が裏返った時も、全部そのまま」

シオンは立ち上がると、現代の録音機材の前に座った。

「ねえ、一緒にやってみない?」

「何をですか?」

「私たちの『声の考古学』。過去と未来の声を、重ねてみるの」

画面に新しいプロジェクトが開かれる。トラック1:1972年文化祭音源。トラック2:シオンの生声。そして...。

「トラック3は、ナギサの声」

ナギサは深く息を吸った。 新しい何かが、始まろうとしていた。

「ねえ、これ...変じゃない?」

文化祭ドキュメントの編集作業中、シオンは不意に再生を止めた。

「背景のノイズ、なんか規則的っていうか...」

「私も気になってました」ナギサが画面に近寄る。「AIノイズリダクションを試したんですけど、うまく除去できなくて」

「うん。現代の音声には、こんなパターンのノイズ、ないよね」

シオンは波形を細かくチェックしていく。ヒスノイズに見えて、どこか意図的な強弱がある。まるで...。

「あ」

テープを巻き戻そうとした時、シオンの手が止まった。 逆回転する音の中に、聞き覚えのある抑揚が。

「ナギサ、これ...」

二人は息を呑んで、テープを逆再生した。 ノイズだと思っていた背景音が、突然、意味を持ち始める。

『未来の、仲間たちへ』

女性の声。いや、当時の基準では「女性の声」と呼ばれただろう声。 しかし、その声には不思議な中性的な響きがあった。

『このメッセージが聴けているということは、きっと誰かが、私たちの「声」に耳を傾けてくれたということ...』

『私は、今の基準では「女子生徒」と呼ばれる放送部員。でも、本当はそんな枠に収まりきらない声の持ち主です』

シオンとナギサは、固唾を呑んで聴き入る。

『みんな、私の声が低いって言うの。女の子らしくないって。でも私は、この声が好き。だって、これが本当の私だから』

70年前の告白に、シオンは思わず画面に手を伸ばした。

『きっと未来は、もっと自由な世界になってると信じてる。声に、性別なんて関係なくなってるはず。だから、このメッセージを残します。テープの表側には、「普通の女子高生」の声を演じた私がいる。でも裏側に、本当の声を...』

そこで一瞬、テープが途切れる。再び声が戻ってきた時、それは全く違う響きを持っていた。

『これが、本当の私。誰かのための声じゃない。ただの、私の声』

シオンは自分の喉に手を当てた。デジタル変調を通さない、生の声を思い出す。

『未来の誰かへ。あなたの声は、あなただけのもの。完璧じゃなくていい。誰かの期待する声じゃなくていい...』

背景では文化祭の喧騒が、逆回転の不思議な音となって流れている。その中で、70年前の声は続く。

『でも、一つだけ約束して。あなたの本当の声を、誰かに届けて。私がこうして、未来のあなたに声を届けるように』

ナギサが小さく息を呑む音がした。

「シオン先輩...」

「うん」シオンは頷いた。「私たち、すごいものを見つけちゃったね」

メディアルームの窓から、夕暮れが差し込んでくる。 そこに、70年の時を超えた声が、確かに響いていた。

「ねえ、ナギサ」

シオンは、音声編集ソフトを開きながら言った。

「私たちも、返事を残そう」

「え?」

「70年前の先輩は、このテープの特性を利用して、二重の声を残した。表の声と、裏の声」

画面には、新しいプロジェクトが開かれる。

「現代なら、もっと複雑なことができる。例えば...」

シオンは、自分の声のパラメータ設定を次々と呼び出していく。

「これまでの私が使ってきた声、全部重ねてみよう。完璧に調整された声も、震える声も、探り探りの声も。今のAI変調した声も、さっきの生声も」

「でも、それ、すごくごちゃごちゃした音に...」

「ならないよ」シオンが微笑む。「だって、全部私なんだから」

シオンがキーボードを叩き始める。 画面には、複雑な波形が浮かび上がっていく。

『私たちは、声を自由に選べる時代に生きています』

異なる声が、少しずつ重なっていく。

『でも、それは仮面じゃない。選べることは、逃げることじゃない』

完璧な声、震える声、笑う声、叫ぶ声。 それらが不思議な調和を作り出していく。

「ナギサも...入れる?」

シオンが差し出したマイクを、ナギサは少し迷いながら受け取る。 そして、小さく頷いた。


いよいよ、放送コンテストの当日になった。寸前まで音声パラメータの調整に追われていたシオンとナギサだが、気持ちを切り替え、マイクの前に立つ。

「放送コンテストの審査員の皆様、これから『声の考古学』をお届けします」

文化センターのホールに、シオンの声が響く。

「私たちは、偶然見つけた一本のテープから、この企画を始めました。最初は単なる文化祭の記録。ノイズの多い、画質の悪い、ただの古い記録...そう思っていました」

スクリーンに、埃を被ったテープレコーダーの映像が映し出される。

「でも、このノイズの中に、私たちは声を見つけました。意図的に隠された、もう一つの声を。それは、まさに声の発掘。考古学者が、地層に埋もれた化石を見つけるように」

会場が、少しずつ静まっていく。

「70年前の先輩は、テープの特性を利用して、二重の声を残していました。表の声。そして、逆回転で録音された本当の声を」

ノイズまみれだった音声が、クリアに流れ始める。

『私は、今の基準では「女子生徒」と呼ばれる放送部員。でも...』

「これは単なる過去からのメッセージではありません。声の持つ可能性。その時代の価値観や制約。そして、それを超えようとした想い。それらすべてを記録した、魂の化石なのです」

シオンは大きく息を吸う。

「そして私たちは、この声を未来へとつむいでいきます。70年前の先輩がそうしたように。現代の私たちの声を、すべての声を、このように―─」

シオンとナギサの幾重もの声が、重なり合い始める。デジタルとアナログ。過去と現在。調整された声と、生の声。それらが織りなす新しい物語。

『返信します。70年前の先輩へ。あなたの声は、確かに届きました』

『私たちの時代は、声を選べる』 『完璧な声を手に入れられる』 『でも、それは本当の自由?』

シオンとナギサの声が、幾重にも重なっていく。

その時、ホールの照明が不規則に明滅した。 審査員席のAIたちのセンサーが、想定外のパターンを検知したのだ。

「警告。音声パターンが基準値を逸脱—─」

機械的な声が響き始めたその瞬間、会場の後方で誰かが立ち上がった。

「これは、合格です」

意外な声に、シオンは目を見開く。 声の主は、かつて「奇跡の教師」と呼ばれ、その教授法がAIに完全再現された、佐藤博文。現在は放送コンテスト審査委員長を務めている。

「佐藤先生」若いAI審査員が声を上げる。「しかし、この音声は品質基準を—─」

「基準?」佐藤が静かに言う。「私の声もAIに再現されましたが、あえて言わせてもらいます。完璧な声より、心に届く声の方が、ずっと大切だ」

会場が、さざめきに包まれる。

「このプレゼンテーションは、声の新しい可能性を示してくれました。過去と現在。デジタルとアナログ。そして...」

佐藤は、にっこりと笑った。

「失敗を恐れない、本物の声」

その時、シオンの腕時計型デバイスが、かすかに振動する。 ホログラム画面に、一つのメッセージが浮かび上がった。

『すばらしい発掘! これからも、続けてくださいね』

差出人は、「佐藤博文」。 審査員の佐藤先生からのダイレクト・メッセージだった。

メッセージを見たシオンの目が、輝いた。

「ナギサ」

ステージ袖で見守っていた後輩に、小さく声をかける。

「私たち、まだ始まりなんだ。きっと、もっとたくさんの声が、私たちを待ってる」

会場では、佐藤博文の発言を受けて、AI審査員たちが新たな評価基準の検討を始めていた。完璧さだけを求めない、新しい時代の声の在り方を。

「先輩」今度はナギサが、自分の声で、震える声で、でも確かな声で言った。「デジタル化された古いMDの中にも、圧縮された音声ファイルの中にも、きっと誰かのメッセージが隠されているかもしれません。時代が変わっても、先輩たちは私たちに何かを伝えようとしていた...」

シオンは、大きく頷いた。 それはまさに、声の考古学。 一つ一つの声を丁寧に発掘し、紡いでいく。

「よしっ!」シオンは胸の前で握りこぶしを作り、力を込めた。「発掘、はじめよう!」

(第九話:おわり)


なんとも、だんだん、未来の話なので、不思議な物語になりつつあるのですが、1970年から2042年と70年にわたっての声をつむぐ物語になりました。

いよいよ、次は、この「声をつむぐ」の短編SF集の最終話になります。

それにふさわしい物語になるのか、ひょっとしたら、そろそろ生成AIも疲れてきて、ぼんやりした内容になるのか、あるいは、私がビシバシとAIに指示だすのに疲れてしまうのか?w

乞うご期待!!

生成AIの代表格であるChatGPTのビジネス活用については、こちらをご覧くださいね!


いいなと思ったら応援しよう!